マラッカ海峡 中共の最も致命的な弱点
中国共産党(中共)の地政学的な最大の弱点は、いわゆる「マラッカジレンマ」と呼ばれる、マラッカ海峡への極度の依存にあります。中国は現在、1日あたり約1500万バレルの石油を輸入しており、その8割以上(約83%)がマラッカ海峡を経由しています。この海峡は、アジア・中東・ヨーロッパを結ぶ主要な海上輸送路であり、世界全体の約4分の1の貿易貨物と、石油およびその他液体製品の約3分の1が通過しています。
マラッカ海峡は最も狭い部分で幅2.5キロしかなく、年間の貨物取扱量は64億トンを超えるため、地政学的な「チョークポイント(関所)」となっています。このため、同海峡が軍事的・政治的に封鎖されれば、中国経済は短期間で深刻な麻痺状態に陥ると指摘されています。
この脆弱性は、特に米中対立や台湾有事の際に顕在化します。米国はグアム、沖縄、フィリピンなどに軍事拠点を持ち、日米豪印の「クアッド」やAUKUSなど多国間枠組みを通じて、マラッカ海峡の封鎖能力を実質的に確保しています。実際、2003年に胡錦濤国家主席(当時)は「マラッカ・ジレンマ」を公然と問題提起し、中国の国家安全保障上の重大課題であると認めました。
中国はこの弱点を補うため、陸路パイプラインの建設やエネルギー供給の多様化を進めていますが、パイプラインで運べる量は1日あたり約370万バレルに過ぎず、依然として大部分を海上輸送に頼らざるを得ません。
要点まとめ:
- 中国の石油輸入の8割超がマラッカ海峡経由
- 海峡封鎖=中国経済の麻痺という致命的リスク
- 米国等による軍事的封鎖能力の存在
- 中国は代替ルート確保に苦戦中
- この脆弱性が台湾有事などで中国の行動を抑制する要因
この「マラッカジレンマ」は、中国の経済成長と安全保障の両面で最も深刻な地政学的リスクとなっています。
中国が抱く危機感”マラッカのジレンマ”とは インド洋の覇権が狙いか 中国の海洋戦略
中国とフィリピンの南シナ海をめぐる対立は、近年さらに激化しています。特に2023年以降、中国海警局の船がフィリピン船に対して放水銃を使用したり、体当たりを行うなど、威圧的かつ実力行使による妨害行為が顕著になっています。2024年3月には、南シナ海のセカンド・トーマス礁付近で中国海警局の船がフィリピン軍の補給船に放水銃を発射し、フィリピン兵士が負傷する事件も発生しました。
中国は南シナ海のほぼ全域に対して「歴史的権利」を主張し、一方的に自国の管轄領域とみなす「十段線」を掲げ、実効支配の強化を進めています。これに対し、フィリピンは自国の排他的経済水域(EEZ)内での活動を守ろうとし、アメリカなど西側諸国との連携を強化しています。
対立激化の主な背景には以下の要素があります:
- 習近平政権による海空防衛力の整備方針
習近平指導部は「国境・海空防衛力の整備」を強調し、南シナ海の実効支配を国家戦略の一環として推進。フィリピンへの強硬姿勢は、台湾有事を見据えた米軍の南シナ海進出阻止(A2/AD戦略)とも関係しています。 - フィリピンの対米接近
2022年にマルコス大統領が就任し、米比同盟の強化や米軍のフィリピン国内施設利用拡大を承認。これにより中国の警戒感が一層高まり、フィリピンへの圧力が強まっています。 - 中国の「力の空白」への進出
南シナ海で米軍や他国のプレゼンスが相対的に弱まると、中国はその空白を突いて実効支配を拡大。フィリピン船への妨害や、人工島の造成、監視活動の常態化が進んでいます。 - フィリピン国内の対応とジレンマ
フィリピンは中国の圧力に対抗するため米国などと連携する一方、最大の貿易相手国である中国との経済的関係も無視できず、対中対話も模索しています。 - 国際法無視の中国の実力支配
中国は国際仲裁裁判所の判決(2016年)を無視し、引き続き南シナ海の実効支配を拡大。環境保護などの名目でも自国の正当性を主張しています。
今後も中国の威圧的行動は続く可能性が高く、フィリピンは米国や西側諸国との協力を強化しつつ、中国との経済関係や対話も模索するという、難しいバランスを迫られています。