中国共産党の海外メディア浸透は多面的かつ組織的 国際社会における情報の公正性、民主主義の維持に課題

世界

 

VOAから見る中共の海外メディアの浸透

中国共産党(中共)は、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)をはじめとする海外の中国語メディアに対して、資金提供と人材派遣を通じて組織的な浸透を強化している。トランプ政権時代の調査では、VOAの経営層が定期的に中国共産党の官員と面会し、中共の報道方針に基づく肯定的な中国報道の手法を協議していた事実が明らかになった。2025年7月22日に発表された調査によると、中国大使館はVOA経営層と継続的に接触し、具体的な報道指示を行っていることが示されている。

この浸透工作は、過去30年以上にわたる中共の対外メディア戦略の一環であり、中国語メディアの買収や編集者への思想的指導、資金提供を通じて情報操作を行っている。中共は、報道の主導権を握ることで、独裁体制や人権侵害などの実態の隠蔽や、海外における中共のイメージ操作を図っている。多くの中国語メディアは中共の支配下にある一方、法輪功関連の独立系メディアのみが中共の統制を受けていないとされる。

こうしたメディア浸透は、「認知作戦」として、中共のイメージを肯定的に演出し、民主主義社会の分断を深める狙いもある。民主国家は、外国資金の透明化義務化や独立系メディア支援を通じて中共の浸透を防止すべきであるとの提言がなされている。

なお、中共は情報操作を衛星テレビやデジタル媒体、アフリカや東南アジアなどの途上国メディアへの影響にも及ぼし、民間にも影響を広げているとの指摘もある。

以上のように、中共の海外メディア浸透は多面的かつ組織的であり、国際社会における情報の公正性と民主主義の維持に課題をもたらしている。

 

 

ボイス・オブ・アメリカは中国の不都合な真実を報道してきた?

ボイス・オブ・アメリカ(VOA)と中国の関係は緊張しており、両者の間には情報戦争の側面があります。

VOAは米政府系の放送メディアで、独裁・強権体制の国々に向けて多数の言語で情報発信してきました。とくに中国向けの報道では、人権侵害や宗教の自由、ウイグル自治区の問題など、中国政府が否定・検閲したい内容を報じてきたため、中国政府や中国の国営メディアはVOAを「嘘の工場」と非難し、激しく攻撃してきました。

2025年にはトランプ政権がVOAなどの米政府系メディアの解体を推進し、中国の国営メディアはこれを歓迎しています。解体の動きは、VOAが中国に対して「左翼的偏向」で批判されてきたことや、米政府の予算削減の影響があります。この措置は、中国を含む権威主義国家にとっては彼らの宣伝戦略上有利とされる一方、米国内外で批判や懸念の声もあがっています。VOAが果たしてきた自由な情報発信の役割が失われることで、中国やロシアの影響力が拡大することを警戒する声もあります。

VOAの中国語向けのラジオ放送は2011年に終了しましたが、ウェブサイトでの中国語報道は継続しています。長年、天安門事件や新疆ウイグル自治区の人権問題など、検閲されない情報の貴重な源として機能してきました。

総じて、VOAは中国政府にとっては批判の的であり、米国の対中情報戦略の重要な一翼を担っていますが、最近の米国内の政策変化によってその存在が危ぶまれている状況です。

 

 

ローティ『偶然性・アイロニー・連帯』 2024年2月 (NHKテキスト)
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現代アメリカの代表的哲学者リチャード・ローティの思想を軸にしており、伝統的な理性重視の近代哲学を疑問視し、人と人との対話を絶やさずに社会の分断や差別に抗する新たな哲学の役割を提示しています。ローティは、トランプ現象を20年近く前に予見したことで注目されており、本書では民主主義の危機に対してどのような社会像を描くべきかを論じています。

朱 喜哲氏による解説では、「偶然性」「アイロニー(皮肉)」「連帯」という三つのテーマが展開されており、特に「アイロニー」に関しては公的なリベラルと私的なアイロニストという矛盾した自己意識の両立を肯定する政治哲学的議論が重要視されています。また連帯のテーマでは、残酷さと連帯の関係が深掘りされています。番組の放送もEテレで行われ、放送日時もあり、テキストは600円で販売されています。

このテキストはNHK出版から1月25日に発売され、社会の分断やポピュリズムが拡大する現在の民主主義への示唆を含む内容として注目されています。

要点としては、

  • ローティ哲学の核心は「対話」を止めず、伝統的哲学の理性中心主義を批判
  • 「偶然性・アイロニー・連帯」の三つのテーマで社会と個人のあり方を論じる
  • 朱喜哲氏が哲学者視点でわかりやすく解説
  • 「100分de名著」2024年2月号のNHKテキストとして刊行、テレビ放送も実施

といった内容です。

 

 

 

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