2016年11月に戎光祥出版から刊行された書籍です。著者の阿部等は交通コンサルタントであり、長年日本の満員電車問題に取り組んできました。この本では、100年以上続く日本の満員電車を解消するための具体的な方策やイノベーションが提案されています。主な内容は以下の通りです。
「満員電車ゼロ」の基本コンセプトとして、「鉄道の安全を維持しつつ、鉄道事業者の経営も改善し、多額の税金投入に頼らずに実現する」ことを掲げています。
具体的な施策としては、
- 「総2階建て車両の導入」
- 「進路開通と同時の出発」「ドア締めと同時の出発」「選択停車ダイヤ」「車両の加減速度向上」「信号の機能向上」からなる「5方策」による輸送力増強
- プライシングの工夫による「時差出勤」促進
- 有料着席サービスの拡大
- 深夜帯の増発による「深夜の満員電車ゼロ」
- 乗車率データを活用した「満員電車の見える化」
などが挙げられています。
阿部等の提案は、小池百合子東京都知事が掲げた「満員電車ゼロ」公約のアイデアの土台にもなりました。
本書は、日本の鉄道の現状分析から、技術・運用・経営・政策面での多角的な解決策を示しており、鉄道関係者や都市政策に関心のある読者にとって重要な一冊となっています。
小池百合子は2016年の東京都知事選に出馬した際「満員電車ゼロ」を公約に
その具体策として「山手線を2階建て電車にする」構想を打ち出していました。この構想は、従来の2階建て車両とは異なり、車両もホームも2階建てにして輸送力を倍増させ、混雑緩和を図るというものでした。
このアイデアの背景には、JR東日本OBで交通コンサルタントの阿部等氏の提案があり、彼の著書『満員電車がなくなる日』が小池氏の公約の原案となった経緯があります。阿部氏は、総2階建て車両と2階建てホームの導入によって、乗降時間の延長を抑えつつ輸送力を大幅に増やすことが可能と説明しています。
ただし、この構想には課題も多く、JR東日本の当時の社長は遅延を招くとして否定的な見解を示しており、実現には駅の大規模改修や車両の新設、トンネルの改造など多額の費用と技術的なハードルが伴います。また、地下鉄など一部路線ではトンネル断面の制約から総2階建て車両の導入は難しいとされています。
結局、この2階建て電車構想は公約として注目されたものの、実現は困難と見られており、その後は具体的な進展がほとんどない状況です。
したがって、小池百合子氏は2016年に「満員電車ゼロ」を目指し、山手線などに2階建て電車を導入することを公約に掲げていましたが、これは理想的な政策提案であって実際の実現には多くの課題があり、現在までに実現していません。
2008年2月8日刊
日本の慢性的な満員電車問題に対し、鉄道業界の抜本的な変革を提案する書籍です。著者は「本気で取り組めば満員電車はなくせる」とし、以下の三つのイノベーションを柱に解決策を提示しています。
- 運行のイノベーション
信号システムの高度化や、総2階建て車両の導入、3線運行、鉄輪式リニアなど、運行方法の革新によって輸送力を大幅に増やすことを提案しています。信号システムの改良により電車本数を増やし、2階建て車両で1編成あたりの乗客数を増やすなど、物理的な供給力向上が中心です。 - 運賃のイノベーション
運賃体系を見直し、ICカードを活用した戦略的プライシング(ダイナミックプライシング)や、着席・立席での価格差設定などを提案。これにより、混雑時の需要を抑制し、快適な移動を望む層から追加収益を得て、設備投資の原資とする仕組みです。 - 制度のイノベーション
運転士免許制度の規制緩和や、自動車の適正な費用負担など、制度面からも鉄道の供給力増強を後押しする改革を提唱しています。
本書は、満員電車が「需要>供給」という資本主義社会では本来ありえない状態が長年放置されてきたことを問題視し、鉄道業界や社会全体の思考停止を打破するための提言書となっています。
目次構成は以下の通りです。
- 満員電車の現状と歴史
- 運行方法のイノベーション
- 運賃のイノベーション
- 制度のイノベーション
- 満員電車のなくなる日を目指して
著者は「鉄道が社会の発展と人々の豊かさを実現する」ために、現状打破のための具体的なアイデアと実現可能性について多角的に論じています。