インドやブラジルは中露と友好関係を保ちつつ欧米とも良好な関係を維持し、双方から利益
BRICS 規模拡大も合意形成困難に【社説】
2025年7月にブラジル・リオデジャネイロで開催されたBRICS首脳会議では、加盟国が10カ国に拡大したものの、合意形成の困難さが改めて浮き彫りになりました。BRICSはロシアや中国が主導し、新興国の経済的利益を中心に結びついている枠組みで、世界人口の約半数、GDPの約4割を占める存在感を持っています。しかし、理念の共有が乏しく、各国の思惑が異なるため、規模拡大が進んでも統一的な合意形成は難しい状況です。
今回の首脳会議では、米国の一方的な関税措置に対する懸念が示され、イランへの軍事攻撃を国際法違反として非難する一方で、米国やイスラエルの名指しは避けるなど慎重な姿勢が見られました。ウクライナ問題ではロシア寄りの立場が反映され、ウクライナ側の反撃のみを非難しました。中国の習近平国家主席は欠席、ロシアのプーチン大統領もオンライン参加にとどまり、首脳が相次いで欠席したことで会議の盛り上がりに欠ける結果となりました。
BRICSは今後も加盟希望国が増え、影響力を強める見込みですが、中国やロシアはこれを通じてグローバルサウスへの影響力拡大と米国主導の国際秩序への対抗軸形成を狙っています。一方で、インドやブラジルは中露と友好関係を保ちつつ欧米とも良好な関係を維持し、双方から利益を引き出そうとするなど、加盟国間の立場は多様です。
こうした背景から、BRICSは経済的実利で結びついているものの、共通の理念が乏しく、規模の拡大に伴い合意形成はますます困難になると指摘されています。これに対し、G7はBRICSの動向を注視しつつ、途上国が権威主義勢力に利用されないよう外交努力を強化し、途上国との関係強化と信頼獲得に努めるべきだと論じられています[社説]。
トランプ氏、BRICS諸国との対立強める
中国とロシアは同調国への追加関税の脅しに反発
ドナルド・トランプ米大統領は2025年7月6日、自身のSNSで「BRICSの反米政策に同調する国々に10%の追加関税を課す」と表明しました。この発言は、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなどBRICS諸国がトランプ政権の政策を批判する声明を出したことへの対抗措置とみられています。
トランプ氏は「例外はない」と強調したものの、「反米政策」の具体的な定義や対象国については明らかにしていません。
この発表に対し、中国やロシアなどBRICS諸国は強く反発しています。中国外務省の毛寧報道官は「関税を脅迫や圧力の道具にすることに反対する」と述べ、貿易戦争や関税戦争への反対姿勢を強調しました。また、BRICS首脳会議(7月6〜7日、リオデジャネイロ開催)でも「一方的な関税措置に深刻な懸念を表明する」首脳宣言が採択されています。
このトランプ氏の関税方針表明を受け、国際貿易の不確実性が高まり、金融市場にも影響が及んでいます。
概要
21世紀以降に存在感を増す「新興国」を対象に、その経済成長、政治体制、軍事行動を多角的に分析した書籍です。対象となる新興国はアジア、中南米、東欧など29ヵ国で、特にブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ(いわゆるBRICS)は、リーマンショック後の世界経済の牽引役として注目されました。
本書の特徴は、経済発展だけでなく、民主化や軍事行動の側面も重視し、各国の政治体制の変動や国際関係への影響を比較政治学の視点から詳述している点です。たとえば、中国の海洋進出やロシアのウクライナ侵攻、インドの権威主義化など、力をつけた新興国がどのように世界秩序へ挑戦し、変化をもたらしているかを具体的に取り上げています。
章構成は以下の通りです:
- 新興国とは何か
- 経済発展をどう説明するか
- 福祉国家形成の試練
- 民主化のゆくえ
- 政治体制変動の実態
- 経済的・社会的発展の政治的条件は何か
- 国際関係への関与と挑戦
- 新興国は世界を変えるか
- 日本は新しい世界とどう向き合うか
また、日本が「新興国」に多い国家主義的自国主義に屈することのリスクについても警鐘を鳴らしており、日本の民主主義体制や社会の安定に対する示唆も含まれています。
本書は第25回読売・吉野作造賞を受賞しており、学術的にも高く評価されています。恒川惠市は比較政治学・国際関係論の専門家であり、東京大学名誉教授・政策研究大学院大学名誉教授です。
この一冊は、新興国の台頭がもたらす世界秩序の変動や日本の進路を考える上で、最新かつ包括的な視座を提供しています。