巧みに隠しているが、実際には景気が悪いからでは?
良い視点です。記事では「制度改革(昇学加点廃止)」を主因として説明していますが、実際にはそれだけでは説明できない面があります。景気減速が、家庭の教育・娯楽支出に圧力をかけているのはほぼ確実です。
中国の実体経済では、2020年代前半から
- 失業率上昇や所得の伸び鈍化
- 不動産不況による資産効果の喪失
- 若年層の将来不安の拡大
などが明確になっています。特に中間層世帯は教育熱心ですが、家計が逼迫するとまず削るのは「実利の少ない習い事」であり、「受験で得にならないピアノ」はまさにその対象になりやすい。
つまり、制度改革が「引き金」ではあっても、実際の下地としては家庭の可処分所得の減少と教育投資の選別化が大きく作用していると考えられます。このため、「加点廃止=直撃」というより、もともと過熱していたピアノ市場が、景気悪化に伴い一気に冷めたというほうが実態に近い見方です。
要するに、記事は制度要因を強調しているものの、背後には「景気減速→教育支出抑制」という構造的な問題が巧妙に隠れている、と言えるでしょう。
2025年12月11日 ピアノが売れなくなった中国。理由は高校入試での優遇がなくなったから
まず、中国は世界のピアノ販売40〜50万台のうち30万台超を占める最大市場だったが、2019年39万台のピークから、2023年には12.8万台、2024年は10万台割れと急減。珠江ピアノは売上が前年比約40%減・純利益は約2.36億元の赤字、第2位ヘレンピアノも大幅赤字見通しという深刻な状況になっている。
背景には高校入試の「昇学加点」制度がある。少数民族や英雄・軍人の子女に加え、芸術・学術・スポーツで優秀な実績がある生徒に得点を上乗せする制度で、ピアノは「平凡な子どもでもワンチャンある技能」として親に選ばれやすかった。そのため「受験に有利」という実利目的で多くの家庭がピアノを購入し、子どもを教室に通わせてきた。しかし教育部が2018年に公平性の観点から見直しを行い、芸術加点を大幅に縮小した結果、「加点狙い」の家庭が一気に撤退し、販売が急落した。
同時に、ピアノ教育側の構造的問題も指摘される。中国のピアノ教育は趣味ではなく、基本的にプロ養成カリキュラムで、練習量・内容が非常に過酷。多くの子どもが幼少期に挫折体験をし、自己評価の低下や劣等感につながっているとされる。一方、エレクトーンやオルガンはプロコースと趣味コースが分かれ、子どもに身近なポップスなどを使うため続けやすく、ギター・ドラムなど他楽器への乗り換えも増加。結果としてアコースティックピアノは落ち込む一方、電子ピアノやキーボードの売れ行きは堅調だという。
興味深いのは、プロを目指す層は減っておらず、むしろコンクール参加者は微増している点だ。これは、音楽に本来的な関心があり、子どもを本気でピアニストに育てたい家庭は残り、「昇学加点」という実利だけを求めていた層が市場から消えたことを意味する。筆者は、ピアノを本当に学ぶべき人だけが残る健全化とも評価しつつ、これまで「受験優遇ドライブ」で拡大してきたピアノ業界は、趣味需要の掘り起こしや教育内容の柔軟化など、戦略転換が不可避な局面にあると結んでいる。
