スズキはアップルほど露骨に「脱税指摘」を受けなかった。スズキがインドに譲歩したから

インドに進出したスズキ。アップル同様に利益を日本に送金しようとした?

スズキ(マルチ・スズキ)は、インド市場で40年以上の歴史を持つ「最も成功した外資系企業」の一つですが、その利益の取り扱いについてはアップルとは異なる戦略をとりつつも、やはりインド政府との間で激しい議論や圧力を経験してきました。

スズキが利益を日本に送金しようとした経緯と、その際の手法について解説します。

ロイヤリティ(技術使用料)による実質的な送金

スズキは、アップルのような「製造装置の貸与」という形ではなく、主に「ロイヤリティ(技術使用料)」の名目で日本本社へ資金を還流させてきました。

手法: インド法人のマルチ・スズキが、日本本社に対して技術提供やブランド使用の対価として売上の一部を支払う形式です。

インド当局の反応: 2010年代から、インドの税務当局や一部の株主は、このロイヤリティの支払額が多すぎるとして批判を強めました。「インドで稼いだ利益を、税金を逃れるために日本に吸い上げているのではないか」という指摘です。

結果: スズキは批判を受け、ロイヤリティの算出基準を透明化し、一定の制限を設けるなどの対応を余儀なくされました。

「再投資」という形での妥協

スズキがアップルと決定的に異なるのは、利益の多くを「インド国内への再投資」に回し続けてきた点です。

工場の新設と現地化: スズキは利益を日本に全額送金するのではなく、インド国内に新しい工場を建設したり、現地サプライヤーを育成するために資金を投じました。

政府へのポーズ: これによりインド政府に対し「スズキはインドの産業発展に貢献している」という実績(アリバイ)を作ることができました。これが、シャオミやアップルのような「短期間で効率的に利益を回収しようとするハイテク企業」との違いです。

スズキも直面した「インドの壁」

しかし、スズキも決して無傷だったわけではありません。

グジャラート工場の問題: スズキが日本本社全額出資でグジャラート州に新工場を建設しようとした際、「マルチ・スズキ(インド上場企業)の利益を、スズキ日本本社が直接支配しようとしている」として、現地の機関投資家から猛反発を受けました。

妥協案: 最終的に、この工場はスズキ日本本社が運営するものの、製造された車はマルチ・スズキに「原価」で供給するという異例の契約を結ぶことで決着しました。これも「利益を外に出さない」というインド側の強い意思の現れです。

結論:スズキは「インド流」を学んで生き残った

スズキはアップルほど露骨な形での「脱税指摘」を受けているわけではありませんが、それはスズキが「インド政府の顔を立て、利益を再投資に回し、現地化を徹底する」という、極めてコストのかかる手法を選んだからです。

アップルの誤算: アップルは「中国モデル(効率的な資金回収)」をそのままインドに持ち込もうとしましたが、インド政府はそれを許しませんでした。

スズキの教訓: スズキの事例は、インドで生き残るためには「利益を日本に戻すことを半分諦め、インドの一部として生きる」覚悟が必要であることを示しています。

インド政府がアップルを狙い撃ちにする背景には、こうした「スズキのような長年の貢献」がない新参の外資系企業から、一気に資金を回収しようとする意図も見え隠れします。

 

 

この点だけ見ると、中国はインドよりマシに思える

2026年現在の視点で「中国の方がマシ」と感じられる理由は、主に「予測可能性」と「製造インフラの圧倒的な完成度」にあると言えます。

インドが現在直面している混乱と比較しながら、中国がなぜ投資家にとって「マシ」に見えるのか、その構造的な要因を整理しました。

法執行の予測可能性:中国の「強権」 vs インドの「混沌」

中国も外資に対して厳しい規制を行いますが、そのルールはトップダウンで明確(かつ安定的)であるという側面があります。

ルールの透明性: 中国は「何をしてはいけないか」が比較的明確で、政府の意向に沿っていれば事業の継続性は確保されます。一方、インドは「後出しの法解釈」や、州政府と連邦政府の不一致など、予測不能なリスクが常に付きまといます。

行政のスピード: 中国では政府が決めたことは即座に実行に移されます。インドのように、一度決まったプロジェクトが環境規制やデモ、あるいは今回のような「突然の脱税指摘」で数年も足止めを食らうケースは稀です。

製造インフラとサプライチェーンの厚み

「世界の工場」としての中国の地位は、単なる安価な労働力ではなく、蓄積された「技術的厚み」に支えられています。

ワンストップの供給網: 中国はネジ一本から最先端の液晶パネルまで、あらゆる部品が国内の狭いエリア(深センなど)で揃います。インドは組み立てこそ行いますが、重要部品の多くを依然として中国からの輸入に頼っており、今回の関税問題でその弱点が露呈しました。

物流と規律: 中国の物流コストはGDP比で低く抑えられており、教育された労働力による「品質の安定」は世界最高水準です。インドが「2026年が経済的に最も困難な年になる」と予測される背景には、こうした基礎体力の差があります。

「外資の扱い」における成熟度の違い

中国もかつては外資を厳しく規制していましたが、現在は「デリスキング(リスク低減)」への対抗として、戦略的に外資を繋ぎ止めるための優遇措置も併用しています。

インドの「若さ」ゆえの強欲: インドは今、自国の市場価値を最大限に高く見積もっており、外資に対して「入らせてやる代わりに、利益も技術も置いていけ」という、かつての中国以上に強硬な態度をとっています。この「過信」が、投資家には「中国の方がまだ話し合いができる」と思わせる要因になっています。

中国とインドの投資環境比較(2026年最新)

項目 中国 インド
規制の予測可能性 高い(政府方針に従えば安定) 低い(突然の課税や方針転換)
製造品質・安定性 非常に高い(熟練工が豊富) 不安定(教育と規律の欠如)
サプライチェーン 自給自足が可能 中国・東アジアに依存
送金・資金還流 規制はあるが、ルールは確立 違法送金指摘など、手法が攻撃的
地政学リスク 対米関係の緊張(安定的対立) 二枚舌外交による不透明感

結論:投資家が選ぶ「マシ」な選択肢

中国も決して「自由でオープンな市場」ではありませんが、「ビジネスのルールが読みやすい」という点では、現在のインドより優れていると評価されます。インドがこの「マシ」という評価を覆すには、目先の税収を追う強硬な姿勢を改め、外資が安心して10年、20年先を見通せる「法治の安定」を示す必要があります。

インドがこのまま強硬路線を突き進んだ場合、次に恩恵を受けるのは中国ではなく、ベトナムやタイといった「ASEAN諸国」になるという見方も強まっています。

 

 

インド vs 中国:「メイク・イン・インディア」時代における投資のパラドックス

インドによる中国企業への厳しい監視と影響

2020年の国境紛争以降、インド政府は中国からの直接投資(FDI)に対する審査を厳格化し、多くの中国製アプリの禁止や、政府調達からの中国企業排除などの措置を講じてきました。

この政策により、シャオミやVIVO、OPPOといった中国のスマートフォンブランドは、インド市場でのシェアをピーク時の80%から約50%まで落とし、多額の資産凍結などの打撃を受けています。

また、中国からの直接投資額も激減しており、かつてインド市場に大挙して押し寄せた中国企業の多くが、撤退や現地企業との合弁への切り替えを余儀なくされています。

中国側の視点:インドへの警戒感とジレンマ

中国の専門家たちの間では、インドの「自立したインド(アトマニルバル・バーラト)」政策は現実的ではないという批判がある一方で、インドが中国に代わる世界の製造拠点になることへの強い警戒感も存在します。

ベトナムやメキシコは中国からの中間財輸入に依存しているため「協力関係」を築きやすいのに対し、インドは独自のサプライチェーンを構築しようとしており、中国にとってより「直接的な競争相手」と見なされています。

中国国内では、中国企業がインドに投資して技術を移転することは「敵を助ける行為」だとする世論も高まっており、核心技術の流出を防ぐべきだという議論がなされています。

インド経済調査報告書が投じた一石

2024年のインド経済調査報告書(Economic Survey)が、「中国からの投資を呼び込むべきだ」という提言を行ったことは、大きな議論を呼びました。

これは、インドがグローバル・サプライチェーンに深く組み込まれ、輸出を拡大するためには、中国の資本や技術を活用するのが最も効率的であるという経済的合理性に基づいた判断です。

しかし、商務・産業大臣はこの提言を公式に否定しており、安全保障上の懸念(国境問題)と経済的必要性の間で、インド政府内に「ジレンマ」が生じていることが浮き彫りになっています。

米国との連携と「デリスキング」の行方

インドは、米国との「重要・新興技術に関するイニシアチブ(iCET)」などを通じて、半導体や防衛分野での脱中国依存(デリスキング)を進めています。

マイクロンによる半導体投資などはその成功例とされていますが、依然としてインドの産業界は中国製の中間財や設備に強く依存しているのが現実です。

動画では、インドが真の製造強国になるためには、単なる「組み立て」ではなく、国内での研究開発(R&D)を促進する産業政策へと転換し、中国に依存しない独自のエコシステムを構築できるかが鍵であると結論づけています。