すぐに利益を生まない基礎科学や探査計画は、NASAにしかできない

SpaceXのIPOを受け、ジェフリーズが2030年代に向けた宇宙ブームに関する5つの要点を提示

  • After SpaceX IPO, Jefferies Lays Out Five Takeaways For Space Boom Into 2030s

提示されたテキストは、2026年6月に行われたSpaceXの新規公開株(IPO)を契機に、投資銀行ジェフリーズのアナリストが2030年代に向けた宇宙産業の展望を5つの要点にまとめたレポートの紹介です。

宇宙経済の規模は将来的に1.8兆ドルまで拡大すると予測されており、特に政府の国防予算や、米国と中国による月面探査競争(ムーンレース2.0)がその成長を牽引しています。SpaceXは米政府の主要な委託先として強固な地位を築いています。

宇宙経済の急成長と予測

現在の世界における宇宙経済の規模は6000億ドルに達しており、2035年までに3倍の1兆8000億ドルに成長する見通しです。

現在は商業活動が全体の80%を占めていますが、今後は政府による支出、特に国防分野の投資が商業分野を上回るペースで成長すると予測されています。

国別の政府支出と戦略

宇宙分野における政府支出は、米国が約800億ドルと世界の60%を占めており、単独で他国を圧倒しています。

2位の中国は約200億ドルですが、購買力平価(PPP)を考慮すると実際の購買力は米国に大きく迫ります。また、日本も宇宙を戦略的セクターの一つとして位置づけており、主要なプレイヤーとなっています。

米国宇宙軍の予算拡大とミサイル防衛

米国宇宙軍の予算は、多層型ミサイル防衛計画「ゴールデンドーム(Golden Dome)」の推進により、前年比で40%急増しました。

宇宙軍とミサイル防衛局の予算を合わせると約500億ドルに達し、米航空宇宙局(NASA)の予算である244億ドルを大きく上回っています。

SpaceXの市場独占と政府との連携

SpaceXはNASAにとって最大の商業契約企業であり、打ち上げサービスや通信、IT基盤など、政府の宇宙活動において不可欠なインフラを担っています。

米政府が宇宙活動の多くを同社に委託しているため、国家の予算方針とSpaceXの業績は密接に結びついています。

米中による「ムーンレース2.0」の激化

米国と中国の競争は、月面着陸の目標時期、国際的な同盟関係、および国家政策の3つの側面で加速しています。

米国は2028年の有人月面着陸と2030年の月面基地建設を目指し、多くの国と「アルテミス協定」を結んでいます。一方、中国は2030年の着陸と2035年の基地建設を目標に掲げ、独自の陣営を形成しています。

 

 

2000年代初頭の民間委託から始まったSpaceXとNASAの関係

SpaceXと米航空宇宙局(NASA)の関係は、2000年代初頭の民間委託への転換から始まり、現在では月や火星を目指す国家プロジェクトに欠かせない最重要のパートナーシップへと発展しています。

民間委託への転換と初期の支援(2000年代)

2000年代初頭、NASAはスペースシャトルの退役を見据え、地球低軌道への輸送を民間企業に委託する方針へと舵を切りました。

創業間もないSpaceXは、2006年にNASAの「商業軌道輸送サービス(COTS)」計画に選ばれ、資金と技術的な支援を受けることになりました。これにより、資金難に陥っていた同社は倒産の危機を乗り越えました。

国際宇宙ステーションへの物資補給(2010年代前半)

2008年、SpaceXはNASAから国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給を行う大型契約を獲得しました。

2012年には、同社の「ドラゴン」宇宙船が民間企業として初めてISSとのドッキングに成功し、NASAの信頼できる輸送手段としての地位を確立しました。

有人宇宙飛行の復活(2010年代後半〜2020年)

2011年のスペースシャトル退役後、米国は自国から宇宙飛行士を打ち上げる手段を失い、ロシアの宇宙船に依存していました。

NASAはこの状況を打破するため「商業有人宇宙輸送(Commercial Crew)」計画を進め、SpaceXを委託先の一つに選定しました。2020年、SpaceXの「クルードラゴン」は民間企業初の有人宇宙飛行に成功し、米国に有人宇宙飛行の手段を復活させました。

月面着陸と深宇宙探査へのパートナーシップ(2020年代〜現在)

現在、両者の関係は地球低軌道を越えて月や火星へと拡大しています。

NASAが進める国際月探査「アルテミス計画」において、有人月面着陸機(HLS)の開発にSpaceXの巨大ロケット「スターシップ」が選ばれました。SpaceXはNASAにとって、単なる輸送業者ではなく、国家戦略を共に推進する最大の商業契約企業となっています。

 

 

NASAは「発注者(国)」、SpaceXは「受注者(民間企業)」

SpaceXとNASAは、どちらが「優れている」かという比較の対象ではなく、役割の異なる「発注者(国)」と「受注者(民間企業)」の関係にあります。

効率性や開発スピードの面では民間企業であるSpaceXが圧倒していますが、そもそも同社が活動できるのは、NASAが資金を提供し、国家レベルの科学探査や安全保障の枠組みを決めているからです。双方が存在して初めて成り立つ、依存関係に近いパートナーシップと言えます。

 

効率性と開発スピード:SpaceXの強み

ロケットの再利用技術や開発スピードの面では、SpaceXが劇的な成果を上げています。

民間企業であるため、意思決定が迅速で、失敗を前提とした高速な開発サイクルを回すことができます。結果として、打ち上げコストを大幅に削減し、世界の宇宙輸送市場で圧倒的なシェアを獲得しています。

予算と科学探査の決定:NASAの強み

NASAは政府機関であり、宇宙開発の方向性を決め、予算を配分する立場にあります。

火星探査ロボットの運用、宇宙望遠鏡による天体観測、地球環境のモニタリングなど、すぐには商業的利益を生まない基礎科学や大規模な探査計画は、国家予算を持つNASAにしかできません。SpaceXも、NASAからの多額の契約金があるからこそ、技術開発を継続できています。

主従関係から深い依存関係へ

かつてはNASAが絶対的な主導権を握っていましたが、現在ではその関係性が変化しています。

米国の有人宇宙飛行や月面着陸計画(アルテミス計画)の成功は、SpaceXの技術(クルードラゴンやスターシップ)に大きく依存しています。民間企業の成長により、NASAは自らロケットを開発するリスクを減らし、より高高度な科学研究に集中できるようになりました。

独占への懸念とリスク分散

SpaceXへの依存度が極めて高くなっていることから、NASAや米政府内ではリスク分散の動きも始まっています。

特定の1社に宇宙へのアクセスを握られることは国家安全保障上のリスクになるため、政府は他の民間企業(ブルーオリジンなど)への発注も行い、競争環境を維持しようとしています。

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