一転して集落全体で保見死刑囚を「組み敷こうとした」
故郷で自分が疎まれた原因について、冷静に分析していた。「A、B、C、D、E(殺害された被害者らの名前)、みな自分の味方につけようとしたけど、私が相手にしなかった。それで、多分ですが、みんなで組み敷こうとしたけどダメだった」。表向き一枚岩に見える小さな社会でも、必ず人間関係の軋轢や心情のもつれは存在する。保見死刑囚が帰郷直後、内心では微妙な集落の人間関係の中で、それぞれの住民は保見死刑囚を自分だけにより近い者として取り込もうとしたという。しかし、それが叶わないとみるや、一転して集落全体で保見死刑囚を「組み敷こうとした」というのが、自身の扱いをめぐる保見死刑囚の分析である。おそらくその辺りの機微を経て、保見死刑囚は「村八分」同然となっていったのだろう。
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記憶を「被害妄想」と結論された無念
保見死刑囚の訴えを、裁判は「妄想」と一蹴した。だが私の取材では、同じ集落の中でもイジメの事実を認める証言が多数ある。先に述べたように、保見死刑囚は多分に誤解を招きやすい人物である。どちらかと言えば内気な性格で、コミュニケーションにおける表現力は乏しい。還暦を過ぎた男にしては、その性格はあまりに無垢で純粋だ。事件後についた国選弁護人とは一審段階からまったく話が噛み合わず、自身の弁護方針や主張の論点についても、最初から最後まで弁護人らと信頼関係が構築された節はない。
2ch / Twitter / Google / Youtube / gunbird / gnews 保見光成
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彼を慕う高齢者がいた
保見死刑囚は周南市で、高齢者が住む居宅のリフォームを請け負ったり、頼まれれば高齢者を車に乗せ、買い物に付き合ったりするなどしていた。そのため、逮捕後でも密かに彼を慕う高齢者がいた。「保見容疑者には助けてもらっていた」と語る老女が、私に以下のようなことを明かしたことがあった。「保見さんが裁判で主張した嫌がらせは、すべて本当のこと。集落の人から刃物で切りつけられ、胸に大きな傷を負った時も、私は『殺人未遂でしょうに。なんで警察に行かんの』と言ったくらい。集落でイジメられて、カレーを食べて苦しくて死にそうになったことも聞いています」
誰かがカレーに農薬か化学物質を混ぜた
ある日、保見死刑囚は外出から帰宅すると、作り置いていたカレーを食べた。次の瞬間、息が止まらんばかりに嘔吐し、床にのたうち回った。食中毒ではないかと保見死刑囚は考えた。「誰かがおそらく農薬か化学物質を混ぜたのでは」と判断した。それ以来、彼は自宅の周辺に過剰とも思える監視カメラを設置し、自宅のベッド脇のモニターで画像を確認できるようにしていたという。
後から来た者はみんなイジメられる
保見さんが言っていることは、全部本当ですよ。集落の者も分かっているはずです。でも誰も口には出さんでしょうけどね。保見さんが住んでいた金峰地区だけでなく、あの集落はどこでも、後から来た者はみんなイジメられている。やっぱり保見さんは親が亡くなったら、さっさと集落を出るべきだった……」。そう言うと、老女は涙声になった。
集落の人間から言われた恫喝の言葉
「わしの言うことが聞けんかったら、田舎では生きちゃーいけんどー」。そう言ったとされる人物も、今回の事件の犠牲者となった。
田舎の人は無神経
「田舎の人」と「都会の人」はどう違うと思うかと訊ねた。「田舎の人は無神経です。都会の人は無関心です」
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