膨れ上がる金属盗被害、わずか5年で15倍…
- 「泣き寝入りするしかない」太陽光施設や新築現場が標的に
概要
- 金属盗被害が全国的に急増しており、特に銅線ケーブルなどが狙われ、太陽光発電施設や新築工事現場が主な標的となっています。滋賀県では過去5年で被害額が約15倍に膨れ上がり、2020年の約1,000万円から2024年には約1億4,700万円に達しました。全国的にも2023年の金属盗認知件数は2万701件、被害総額は約136億円に上っています。
被害急増の背景
銅価格の高騰
- 銅は再生可能エネルギー施設や電気自動車の普及により需要が高まり、2021年の1kgあたり平均約952円から2023年には約1,131円に上昇しました。価格高騰が盗難増加の大きな要因です。
ターゲットの多様化
- 太陽光発電施設だけでなく、防犯カメラが設置されていない駅前や市街地の新築現場も狙われています。
被害者の現状
- 被害に遭った事業者は、現場の遅延や追加コストを避けるため、泣き寝入りせざるを得ないケースが多く、「現場には極力持ち込まず、事務所で保管する」など自衛策を取っています。
- 被害届を出すと警察の現場検証に時間がかかるため、実務上届け出を控える事業者も少なくありません。
法規制と対策の動き
条例による対応
- 滋賀県など17道府県では「金属くず回収業条例」により、業者に本人確認や大量持ち込み時の警察通報を義務付けていますが、隣接府県には条例がなく、盗品が持ち込まれる“抜け穴”となっています。
新法成立
- 2025年6月、金属くず買い取り業者に対し営業届出や本人確認、取引記録の保存、盗品の疑いがある場合の警察申告を義務付ける「盗難金属処分防止法(金属盗対策法)」が国会で成立しました。違反時は罰則も設けられています。
工具の規制
- ボルトクリッパーなど盗難に使われる工具の不正所持も処罰対象となります。
今後の見通し
- 全国一律の法規制により、抜け穴が減り、業者の意識向上と被害抑止が期待されています。
- ただし、銅価格が高止まりする限り、根本的なリスクは続くと見られています。
- 「竣工の遅れなど現場に迷惑をかけることはできないので、多少高くてもすぐに代わりの銅線を調達する必要がある。本当に痛手だ」(被害事業者の声)
まとめ
- 金属盗被害は銅価格高騰とインフラ需要増を背景に深刻化しており、事業者は泣き寝入りを強いられる状況でしたが、2025年の新法成立で全国的な規制強化と被害抑止が期待されています。
海外ではどう対策をしている?
海外の金属盗対策
- 欧米を中心に、金属盗(特に銅線盗難)への対策は日本より早く、厳格に進められてきました。主な対策は以下の通りです。
法規制の強化
本人確認・取引記録の義務化
- 多くの国で金属スクラップの買い取り時に、売り手の身分証明書提示や取引内容の記録保存を義務付けています。これにより、盗難品の換金ルートを断つことを狙っています。
営業許可制・登録制
- 金属リサイクル業者には営業許可や登録を義務付け、違反時には営業停止や罰金などの厳しい罰則を設けています。
現金取引の制限
- 現金での買い取りを禁止し、銀行振込など記録の残る方法でのみ支払いを認める国もあります。これにより匿名性を排除し、犯罪抑止につなげています。
施設・現場の防犯強化
防犯カメラ・遠隔監視システムの導入
- 発電所や工事現場に防犯カメラやAI監視システムを設置し、リアルタイムで異常を検知・通報する仕組みが普及しています。
フェンス・物理的防護の強化
- 高さのあるフェンスやゲート、侵入検知センサーの設置で物理的なアクセスを困難にしています。
警備会社との連携
- 定期的な見回りや警備員の配置など、民間警備会社と連携した対策も一般的です。
社会的アプローチ
犯罪の厳罰化
- 窃盗罪の量刑引き上げや、組織犯罪への厳罰化を進める国もあります。
業界団体による自主規制
- スクラップ業界団体が自主的にガイドラインを設け、疑わしい取引の通報を義務付けるなどの取り組みも見られます。
まとめ
- 欧米では「本人確認・取引記録の義務化」「現金取引の制限」「防犯カメラ・AI監視」「警備強化」など、多層的な対策が進んでいます。これらは日本でも2025年の新法成立を機に、今後さらに普及・強化されていくと考えられます。