WHO(世界保健機関)の主な問題点
- 1. パンデミック対応の遅れと限界・・・新型コロナウイルス対応において、WHOや各国政府の初動が遅れたことが大きな問題とされました。独立調査パネルの報告書では、「もっと早く世界的な緊急事態を宣言すべきだった」と指摘されており、迅速な対応の重要性が浮き彫りになっています。WHOは1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、3月11日にパンデミックと認定しましたが、より早い段階での警告や行動が求められていたとの批判があります。
- 2. 権限と加盟国の協力の限界・・・WHOは各国からの情報提供に依存しており、強制力を持ちません。感染症の発生や拡大についても、発生国の自発的な通報に頼るしかなく、必要な情報が迅速かつ正確に集まらないことがしばしばあります。国際保健規則(IHR)では、各国が24時間以内にWHOに通報する義務がありますが、現実には多くの国がこの義務を果たしていません。WHOが独自に現地調査に入る権限も限定的です。
- 3. 政治的中立性と大国の影響・・・WHOの意思決定や情報発信において、中国など特定の大国への配慮が指摘されており、組織の独立性や中立性に疑問が投げかけられています。米国のトランプ政権は「中国寄り」としてWHOを批判し、脱退を表明するなど、国際的な協調体制に大きな影響を与えました。
- 4. 国際社会の連携不足・・・WHOは「世界政府」ではなく、各国の協力がなければ十分に機能しません。国際社会全体の連携やリーダーシップの欠如も、パンデミック対応の遅れや混乱の一因となっています。
- 5. 誤情報・陰謀論の拡大・・・パンデミック条約や国際保健規則の改定をめぐり、「WHOが各国主権を超える存在になる」といった陰謀論が拡散し、冷静な議論や国際協力を妨げている現状もあります。
今後の課題と改善策
- 感染症初動対応におけるWHOの権限強化(現地調査権限の拡大など)や、国際保健規則の見直しが喫緊の課題とされています。
- 各国が情報を迅速かつ正確に共有し、WHOの勧告に従う仕組みの強化も求められています。
- 財政的基盤の強化や、政治的独立性の確保も重要な課題です。
WHOの問題は、組織自体の限界に加え、加盟国の協力姿勢や国際社会の連携不足、政治的影響力、誤情報の拡散など多岐にわたっており、今後の国際保健体制の強化にはこれらの課題解決が不可欠です。
WHO、米国からの資金停止で部門半減へ…テドロス事務局長「人々が救命治療を受けられなくなる」
WHO、米国の資金停止による組織再編の概要
世界保健機関(WHO)は、アメリカ合衆国がWHOへの資金提供を停止したことを受け、組織の大幅な再編と事業縮小を発表しました。テドロス・アダノム事務局長は2025年5月14日、WHOの76部門を半分以下の34部門に削減する計画を明らかにしました。これにより、HIV(エイズウイルス)、結核、マラリアなど感染症対策の各部門も統合される方針です。事業規模の縮小や職員の退職を通じて、年末までに約1億6500万ドル(約240億円)の支出削減を目指しています。
背景と影響
- アメリカはWHOへの最大の資金拠出国であり、2022~2023年度には約12億8000万ドルを拠出していました。
- テドロス事務局長は声明で「多くの国々が医療システムの危機に直面し、人々が必要な救命治療を受けられなくなる」と強い危機感を表明しています。
- WHOは来年度以降も資金不足が続くと見込んでおり、2026~2027年度の予算を現在計画している53億ドルから20%減の42億ドルにすることを検討しています。
今後の見通し
- 2025年5月19日にジュネーブで開催されるWHO総会で、この予算案について加盟国が議論する予定です。
- 感染症対策や各種グローバルヘルス事業の縮小が予想され、特に途上国や医療体制が脆弱な国々への影響が懸念されています。
まとめ
アメリカの資金停止により、WHOは部門の半減や予算削減など大規模な組織再編を余儀なくされています。これにより、世界各国の医療体制や感染症対策に深刻な影響が及ぶ可能性が高いと指摘されています。
WHOの役割
WHO(世界保健機関)の役割
WHO(World Health Organization、世界保健機関)は、国際連合の専門機関として「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的に設立された、国際保健分野のリーダー的存在です。
主な役割と活動内容
- 国際保健事業の指導・調整・・・世界規模での保健事業において、各国政府や関係機関と連携し、指導的・調整的な役割を担っています。
- 感染症・疾病の撲滅推進・・・天然痘根絶などの歴史的成果をはじめ、新型インフルエンザやエボラウイルス病などの感染症対策を主導し、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」の宣言や各国への協力要請も行います。
- 技術協力・政策支援・・・各国の保健システム強化のため、技術協力や政策的支援、必要な援助を提供します。
- 国際的な基準・ガイドラインの策定・・・医薬品やワクチン、食品の安全基準、疾患予防や治療に関する国際ガイドラインを作成し、各国に普及させています。
- 医学情報の総合調整・研究促進・・・医学・保健分野における情報の収集・分析・発信、研究の促進や指導を行い、科学的根拠に基づく政策立案を支援しています。
- 健康関連SDGs(持続可能な開発目標)への貢献・・・「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の推進など、SDGsの健康目標達成に向けて各国をサポートしています。
- 危機対応・現地支援・・・新たな保健問題や感染症発生時には、現地調査や緊急対応チームの派遣を行い、迅速な対応を実施します。
WHOの特徴と理念
- 差別なき健康の実現・・・WHO憲章では「健康は人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、基本的人権である」と明記しています。
- グローバルなネットワーク・・・本部はスイス・ジュネーブ。6つの地域事務局と約150の国別事務所を持ち、194の国と地域が加盟しています。
- 多様なステークホルダーとの連携・・・各国政府、国際機関、研究機関、NGO、民間団体などと広範に連携し、知識と経験の共有を推進しています。
まとめ
WHOは、感染症対策や疾病撲滅、国際的な医療基準の策定、技術協力、研究推進などを通じて、全人類の健康を守るために活動する国際機関です。その役割は、単なる感染症対策にとどまらず、健康格差の是正や持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた幅広い支援にまで及びます。