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宮崎盗伐事件の潮目が変わった! 海外からも向けられる厳しい目
2019/7/26
宮崎県で大規模な盗伐が日常化していることを、これまで幾度も伝えてきた。そして犯人が捕まらないどころか、警察は被害届を受理しない、検察は不起訴にするケースが続出していることも。
盗伐しても不起訴。その背景に透けて見える林業の闇を探る
宮崎の山は無法地帯か。盗伐被害者の声を聞く
横行する盗伐、崩れる山林 林業県・宮崎の闇
だが、ついに動き出した。7月3日に宮崎県国富町で起きた盗伐事例の犯人が逮捕されたのだ。
これは実際に無断で複数の所有者の山を伐採したケース。逮捕されたのは、日向市の素材生産業者「黒木林産」社長、黒木達也容疑者である。私は、この業者の名を以前から悪評判とともに聞いていた。各地に100ヘクタールを超える皆伐を行い、破壊的な作業を行う業者として地元でも有名だったのである。
さらに19日に宮崎地方検察庁は、偽造されたスギの伐採届出書を宮崎市に提出し行使したとして、宮崎市の仲介業者を逮捕、偽造有印私文書行使の罪で起訴していた。県警は6月5日に同容疑で富永悟容疑者を逮捕していたそうだが、なぜか公表していなかった。
宮崎県の盗伐で目立つのは、ブローカーの暗躍である。山林の所有者と交渉し伐採届をとりまとめる役割だが、往々にして不適切な手段で届に捺印させたり偽造したりする。そして伐採業者等に転売する。幾度も転売して責任の所在をわかりにくくする事例も少なくない。その仲介業者が逮捕されたことは大きい。
そして23日、今度は宮崎検察審査会が、一度は不起訴になっていた盗伐事案を「不起訴不当」と議決した。これは、上記の「盗伐しても不起訴」のケースで紹介したもっとも初期に明らかになった盗伐事件だ。
被害者自らが、偽装された伐採届が出されていることを突き止めて3人の容疑者を告発したのに、検察は不起訴にしていたのである。これを機に、被害者の海老原裕美さんは、「宮崎県盗伐被害者の会」を結成して声を上げ始めるのだが、ようやく報われたわけである。
明らかに潮目は変わった。これまでかたくなに事件化させないようにしていた警察・検察が重い腰を上げ始めたといえるだろう。
ただ、不満もある。国富町の盗伐では一目で何千本もの木が伐られていることがわかっているのに、立件されたのは7本にすぎない。同じく海老原さんのケースにしても、数百本伐られているのに、立件されたのは39本だけ。
ほかにもいくつか立件されたケースが出てきたが、容疑を森林窃盗に限定したものが多い。より悪質な有印私文書偽造や詐欺については取り上げていないものが目立つ。事件を矮小化して、幕引きしようとしているのではないことを願う。
なお重要なのは、彼ら盗伐関係者の多くが、宮崎県の「合法木材供給事業者」などに認定されていることだ。そして国と県から助成金を受けて、高価な林業機械等を購入しているのである。それが犯罪行為に使われていたことは極めて悪質である。補助金の返還はもちろん、今後の支出も厳しくすべきだろう。
一方で、まったく新たな動きも起きている。それも海外からだ。中国のNPO法人陽光高齢者福祉産業発展研究センターの代表理事から、盗伐被害者の会に連絡があったという。代表者は日本語が堪能だ。この組織は中国環境保護連合会のメンバーで、北京の環境保護活動に取り組んでいるそうだ。NPOと言っても中国政府とつながりの深い大きな組織である。
少し抜粋して紹介すると
「先日日本のマスコミより宮崎県盗伐の報道を見て驚きました。」
「調べてみたら最近特に中国向けの角材木は多くて、ひょっとしたら中に違法木材が混同するかもしれない。」
「とにかく異国の北京から宮崎県盗伐被害者の会の活動を応援いたします。日本での森林盗伐事件を聞いたらみんなが心が痛みます。」
そして日本を訪れた先方の弁護士が、被害者の聞き取りを行ったという。
この団体が中国国内でどれほどの影響力を持っているのかはわからないが、海外の団体にも日本の盗伐問題が知られ、日本から輸入している木材に混じっているのではないかと疑念を持ち出したのは間違いない。ほかにも国際的な森林環境問題のNGOにも情報は伝わっているから、今後は世界へ日本の盗伐の実態が発信されるようになるだろう。
近年日本からの木材輸出が急伸している。それを「林業の成長産業化」につなげるという論調も強い。そして中国への木材輸出は宮崎県が非常に多い。日本の木材輸出の先頭を走っているのである。一方で中国は、輸入した木材を加工 (製材など)して海外に再輸出しているが、そこで違法木材でないことを証明することが求められるようになった。
もし中国側が、日本の木材の合法性に疑念を持つようになれば、今後の木材輸出にも響くのではないか。
これまで違法木材と言えば、発展途上国の行っているもの、国産材は合法であることを自明としてきた。しかし盗伐が相次ぎ、日本の合法証明がいい加減であることが知られるようになったら、日本の輸出政策にもよい影響は出ないだろう。
盗伐問題を国内の一部の地域で起きていることにすぎないと、甘く見ない方がよい。世界の目は、違法木材に非常に厳しくなっている。国内で抑え込んで知らぬ存ぜぬで通せる時代ではないのである。
2019/6/24
日本の林業は、今や絶望的状況ではないか。
そう思わざるを得なくなる事態が広がっている。宮崎県の盗伐事情について取材してそう感じたのである。
すでに
”’盗伐しても不起訴。その背景に透けて見える林業の闇を探る”’
でも紹介したが、全国各地で他人の山を無断で伐採する事件が頻発している。なかでも宮崎県は異常な有り様だ。その実態を探った記事をWedge7月号に執筆したが、書き切れなかった点を紹介しよう。
ここでは被害者の証言に焦点を当てる。
■宮崎市在住の88歳の女性
平成28年7月末、亡くなった夫名義の山林が知らぬ間に伐採されていることに気づいた。近隣に住む長男が、山でチェンソーのエンジン音が聞こえるので山に行ってみると、伐採が始まっていた。すぐに警察に届けたところ、3人の警官が来たものの、その場で示談を勧められた。無断で伐採されたのは4反の土地に生えていた約400本の杉だった。これは将来、家を建て直す際に使おうと若いころ夫婦で植えた木である。
翌日、娘とともに警察署を訪れたら、話を聞くどころか署内にも入れてもらえず追い返された。そこで個人情報開示請求をしたところ、伐採届が「不存在」、つまり出されていないことがわかった。つまり無許可で伐採した森林法違反である。ところが検察は、平成31年4月に不起訴処分としている。
伐採していたのは二つの林業会社 (一方は宮崎商工会議所会員)。林業会社の片方は「現場を片づけ、及び植林を責任を持って行います」と誓約書に記したが、いまだに放置のままである。また切株に土砂をかけて伐採跡を隠蔽しようとした痕跡もある。なお主犯格は、以前に神社の神木を34本を無断で伐ったことが発覚している。その跡地に植林すると約束したが、こちらも放置されたままだ。
なお長男には知的障害があり、人工透析も必要な身体である。そのため長男には連絡しないよう何度も伝えているが、警察は電話するだけでなく、母親に内密で長男を呼び出して「調書」をとったという。しかし母親には何の聞き取りもしていない。当然、被害者である母親の印鑑は押されていない。また警察は、伐採行為をしていた会社の捜査も行っていない。それなのに宮崎地方検察庁は、今年4月に不起訴とした。
■国富町 (5人共有地)
平成30年7月17日、国富町に山林所有者の宮崎市内在住の長男のところに、山林の仲介人 (ブローカー)を自称する人物が、立木を売ってほしいと言ってきた。所有者は高齢の母だが、実質的に彼が山の管理をしていた。この山には樹齢50~60年もののよいスギの木が生えている。しかし、まだ伐る時期ではないとそれを断った。ところが、9月に入って「間違って伐ってしまった」という連絡が来た。
そこで警察に連絡したが、その日は遅かったので翌日に現地を訪れることにした。すると「間違って伐った」と言っていたのに、まだ伐採が行われていた。すぐに作業を中止させるが、説明もせずに業者は重機を置いて帰ってしまった。伐られた本数は200本を超える。金額にして800万円相当。また、周辺の山 (所有者は4人)の木も伐採されていた。
そこで被害届を出そうとしたが、警察は受け取ろうとしない。そして伐採業者は「誤伐だ。伐る場所を間違った」の一点張り。しかし、この山は地籍調査が終わっていて、測量したコンクリート杭が約5m間隔に打たれている。しかも伐採跡を見ても、その杭をまたいで伐採しているのだ。その通路に当たる山林も勝手に伐っているし、非常にその土砂や切株が溜め池に流れ込んでいた。
しかも、その後の調査で伐採届そのものが出されていないこともわかった。しかも、作業を止めたはずなのに、しばらくすると現場から伐採された木が消えていた。勝手に持ち出したと思われる。
その後、示談交渉があり、賠償の話も行われたが、3人が和解。ただし支払われたのは1本1000円程度。和解しなかった山主には1本4000円 (200本なら80万円)を提示してきたというが断った。
その後、宮崎県を台風が襲い、大雨が降ってその山は崩壊した。一部の土砂は道路まで流れ出たほか、灌漑用水路も埋めてしまい、山麓の水田は耕作できない状態になっている。もし、和解していたら責任は所有者になりかねない。
追記・7月11日、後者の盗伐事案を首謀した黒木林産の社長黒木達也容疑者が森林法違反 (森林窃盗)の疑いで、宮崎県県警生活環境課と高岡署に逮捕された。黒木容疑者は「身に覚えがない」と、容疑を否認しているという。同社は県造林素材生産事業協同組合連合会の「合法木材供給事業者」に認定されており、県からも補助金を受け取って重機類を購入していた。
……以上は、いずれも被害者側の声である。こうした経緯が実際にあったかどうか双方に言い分を確認したわけではない。しかし、同様のケースは数多い。宮崎県盗伐被害者の会には現在88家族が加入しているが、その大半が同じような経験をしたという。
とくに目立つのは、警察の被害届不受理である。驚くのは業者も「警察は俺たちを逮捕しない」と豪語していることだ。なんらかの確信があるのだろう。ようやく被害届を受理させても、すぐに不起訴になる。その理由の説明もはっきりせず、検察審査会に申し立てても、なかなか受理しない。時効の3カ月前までに申し立てしろという不受理の理由もあったが、そうした規則はなかった。
もう一つ不可思議なのは、多くの弁護士に相談しても引き受けてくれず、警察の言い分に追随してしまうのである。弁護士に話した情報が警察側に漏れている恐れもあったという。
なお無断伐採現場に警官が来ることも少ないが、来ても「被害届は受け取りません」と最初から言われる有り様である。上司から言われているという証言もあった。
一体、宮崎県の行政や司法はどうなっているのか。
なお「Wedge7月号」には、宮崎県で盗伐が頻発している事情を業界関係者に聞くとともに、宮崎県および県警の対応・回答について記した。この記事は、ネットでも公開されている。こちらも合わせて目を通していただけると幸いである。