川口市「制度が現実と合っておらず、地方自治体ではもう支えきれない」と危機感

仮放免者や監理措置者が最低限の生活を維持できるよう、限定的な就労許可や医療・教育など行政サービスへのアクセス支援を国に要望

埼玉のクルド人らには浸透しない監理措置、仮放免の状態でも「トルコへ帰されるよりはいい」

改正入管法と監理措置制度の導入

  • 2024年6月に施行された改正出入国管理・難民認定法(入管法)によって、難民申請中でも3回目以降は強制送還が可能となり、同時に「監理措置」制度が新設されました。監理措置は、国外退去を前提に入管施設に収容せず、一定条件下で一時的な就労を認める制度です。

川口市のクルド人コミュニティの状況

  • 川口市には約2,000人のクルド人が居住し、そのうち約700人が仮放免状態と見られています。仮放免とは、退去強制命令を受けた外国人を一時的に施設外で生活させる措置で、就労や健康保険加入が認められず、生活は非常に不安定です。

監理措置の浸透状況と課題

2024年末時点で、川口市のトルコ国籍者(主にクルド人)のうち仮放免者は717人、監理措置を受けたのはわずか31人にとどまっています。監理措置への移行が進まない背景には、以下の要因があります。

  • 監理措置に移行すると強制送還が早まるのではないかという不安
  • 入管庁に対する根強い不信感(過去に長期収容や帰国の圧力を受けた経験など)
  • 仮放免者・監理措置者ともに行政サービス(健康保険等)が原則提供されず、生活の困難さが変わらない

仮放免状態の生活実態

  • 仮放免者は就労が認められず、健康保険にも加入できません。そのため、例えば家族が病気や怪我をした場合、医療費を全額自己負担しなければならず、実際に高額な医療費を支払った事例もあります。それでも「トルコに帰されるよりはまし」と語る声が多く、監理措置への移行に消極的な人が多いのが実情です。

行政・自治体の対応と要望

  • 川口市は、仮放免者や監理措置者が最低限の生活を維持できるよう、限定的な就労許可や医療・教育など行政サービスへのアクセス支援を国に要望しています。市としても「制度が現実と合っておらず、地方自治体ではもう支えきれない」と危機感を示しています。

トルコよりも日本を望む理由

1. トルコでの差別・迫害からの逃避

  • クルド人は、トルコ国内で長年にわたり差別や迫害を受けてきました。トルコ政府はクルド語の使用を制限し、クルド文化の抑圧や、独立運動を「テロリスト」として扱うなど、政治的・社会的な圧力が強まっています。特にエルドアン政権下では迫害が一層強化され、多くのクルド人が国外に逃れる要因となっています。

2. 日本に対する「平和な国」というイメージ

  • 日本は「差別も戦争もない国」と信じて、多くのクルド人が平和と安全を求めて日本を目指しています。実際に来日したクルド人からは「平和のにおいがした」との声もあり、トルコでの抑圧的な環境と比較して、日本での生活に希望を見出しています。

3. 日本への入国のしやすさと親族の存在

  • 日本とトルコの間には短期滞在ビザ免除措置があり、航空券さえあればパスポート一つで日本に入国しやすい環境が整っています。また、先に来日した親族や知人を頼って移住するケースが多く、コミュニティが形成されていることも日本を選ぶ理由です。

4. 欧米諸国よりも選ばれる背景

  • 欧州諸国への移住が難しくなったことや、日本の生活費が比較的安価であることも、日本を目指す理由の一つです。さらに、すでに日本で暮らすクルド人コミュニティが支援や情報提供を行っており、移住後の生活への不安が軽減されています。

5. 日本での生活基盤・子どもの将来

  • 長期間日本に滞在しているクルド人やその子どもたちは、日本語しか話せず、トルコでの生活基盤がありません。日本で生まれ育った子どもたちにとっては、日本での生活が唯一の現実であり、強制送還は大きな人権問題にもなり得ます。

まとめ

  • 「トルコでの差別・迫害から逃れたい」「日本の平和で安全な社会に希望を持っている」「入国や定住のしやすさ」「既存コミュニティの存在」「子どもたちの将来」などが挙げられます。

犯罪者、日本の文化に馴染めないクルド人は日本から出ていって

1. 犯罪統計の事実

  • 川口市では、トルコ国籍(主にクルド人)の検挙数が他の国籍と比べて高いことが市議会で指摘されています。2024年の刑法犯検挙数は178人で、そのうちトルコ国籍が54人、中国国籍も54人、ベトナム国籍が27人でした。
  • ただし、川口市の外国人住民全体で見れば、トルコ国籍者は約1,500人と少数派であり、検挙者の大半は日本人です。2023年の川口警察署管内の検挙者数は1,313人で、そのうち日本国籍者が1,129人と圧倒的に多いのが現実です。
  • また、クルド人全体や難民申請者に限定した犯罪率の公式統計は存在しません。個別に高い発生率を指摘する意見もありますが、全体像を示す公的データは限られています。

2. 文化摩擦・生活トラブルの現実

  • クルド人を含む外国人住民と日本人住民の間では、ゴミ出しや騒音、交通ルールなど生活習慣の違いによるトラブルが発生しているのは事実です。
  • こうした摩擦を減らすために、川口市など自治体は多言語で生活ルールを案内し、多文化共生の取り組みを進めています。

3. 「出ていけ」という主張の問題点

  • 一部のクルド人による犯罪やトラブルが報道されることで、SNSや現場で「クルド人は帰れ」といったヘイトスピーチや差別的な言動が広がっています。
  • しかし、外国人全体やクルド人全体を「犯罪者」「日本の文化に馴染めない」と一括りにするのは事実に基づかず、偏見や差別を助長する危険があります。
  • 難民申請中や仮放免状態のクルド人は、就労禁止や社会保障の未整備など、生活上の困難やストレスを抱えており、社会的な支援や共生の仕組みが求められています。

まとめ

  • 一部のクルド人による犯罪や生活トラブルは事実として存在しますが、検挙者の大半は日本人であり、全てのクルド人や外国人を「犯罪者」「馴染めない」と決めつけるのは誤りです。
  • 差別や排除ではなく、法に基づく適切な対応と多文化共生の推進が社会全体の利益につながります。

極右政党が躍進するドイツ、3割近い移民が出国を検討 差別などを理由に

  • ドイツでは、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進と社会の右傾化を背景に、移民の約3割が経済的な懸念や差別を理由に出国を検討していることが明らかになっています。

主な調査結果と理由

  • ドイツ連邦雇用研究所の報告によると、移民の57%が永住の意向を示した一方、26%は過去1年以内に出国を検討したと回答。
  • 出国を考える理由は多様で、家族との再会を希望する母国帰還志向の人もいれば、経済的機会への不満、官僚主義、税負担、移民政策や差別を理由に他国への再移住を望む人も多い。
  • 特に教育水準が高く、経済的に自立し、社会統合に成功している人ほど、ドイツを離れて他国への再移住を検討する傾向が強い。

社会的・政治的背景

  • ドイツは深刻な労働力不足に直面しており、数十万人から数百万人規模の労働移民が必要とされている。
  • しかし、移民や不法移民をめぐる問題が国内政治を緊張させ、AfDのような移民排斥を訴える極右政党の支持拡大につながっている。
  • AfDの過激な発言や、移民政策の厳格化を掲げる新政権(CDUのメルツ首相)も、移民の不安感を高めている。

今後の課題

  • 報告書は、官僚主義の緩和、家族統合の支援、職場での差別撤廃などの措置を政府に提言し、「移民が社会に完全に受け入れられ、成長の機会を得られると感じて初めて、長期的な定住を選ぶ」と指摘している。
  • 労働力不足解消のためにも、移民が安心して暮らせる社会の構築が急務となっている。

まとめ

  • ドイツでは、社会の右傾化や極右政党の台頭、経済的・社会的な不満、差別の増加が、移民の出国検討を後押ししています。特に高度人材の流出は、今後の経済と社会の持続性に大きな影響を及ぼす可能性があります。

国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(下)
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