「家が買えない」 世界に広がる住宅高騰問題 10年前から米国の若年層を悩ませている問題が今、欧州などの大都市にも広がっている。

世界

 

2025年10月11日 カリフォルニア州は住宅建設を容易にしたい。ロサンゼルスは反発している

カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は2025年10月に、新しい住宅建設を促進するための法律(SB79)に署名しました。この法律は、公共交通機関の近くにアパートなどの多層住宅の建設を容易にし、許認可プロセスを迅速化する内容です。主な内容は、公共交通の乗降駅から半マイル(約800メートル)以内の地域で高さ5~9階の住宅建設を許可し、地域のゾーニング規制を州が上書きすることです。これにより住宅供給を増やし、交通渋滞やカーボン排出も軽減する狙いがあります。

しかし、市町村、特にロサンゼルスはこの法律に強く反発しています。理由は、

  • 地元の都市計画権限が奪われることへの懸念
  • 既に交通混雑が激しい地域への高層住宅集中による影響
  • 財力のある地域は適用除外となり、低所得・マイノリティ地域のみが迅速な変化にさらされることによるジェントリフィケーション(高所得者層の流入と地元住民の排除)リスク
  • 住民の声が反映されにくくなる問題

などです。

ロサンゼルス市長のカレン・バス氏や複数の市議会議員は、地元の計画を無視する「マンハッタン化」と表現し、地元の反対を強調しました。ニューサム知事は、住宅危機の深刻さを踏まえたうえで、より多くの住宅供給と affordable housing(手頃な価格の住宅)確保のために必要な一歩として推進しています。

この法律は2026年7月1日に発効し、カリフォルニア州の住宅政策に大きな影響を及ぼすとみられていますが、地元自治体と州政府の対立は今後も続く見込みです。

 

 

欧州が観光客を制限すれば経済損失は36兆円、300万人の雇用喪失も

欧州の主要11都市で観光客の数を欧州平均に制限した場合、わずか3年間で約2450億ドル(約36兆円)のGDP減少と約300万人の雇用喪失が見込まれています。これはイタリアの国全体の旅行業のGDPに匹敵する規模です。

具体的には、

  • イタリア北部のベネチアは、観光客制限によって直接GDPで141億ドル(約2兆1000億円)、間接的に184億ドル(約2兆7000億円)の損失。
  • ベネト州全体で約152億ドル(約2兆2000億円)の税収損失に相当し、新規病院約260軒分の建設費用に匹敵。
  • オランダのアムステルダムは、直接GDPの損失が124億ドル(約1兆8000億円)、間接的に236億ドル(約3兆5000億円)、雇用では36万4000人が危機に。
  • フランスのパリとスペインのバルセロナは、外国人観光客の制限だけで、それぞれ約300億ドル(約4兆4000億円)と290億ドル(約4兆3000億円)のGDP損失リスクがあり、特にフランスでは28万4000人の雇用と162億ドル(約2兆4000億円)の税収損失の可能性がある。

この影響は都市に留まらず周辺地域や国家経済にも波及するため、WTTCは観光客の制限には大きな経済的代償が伴うと警告しています。

観光業は世界経済の10人に1人の雇用を支え、GDPの約10%に寄与しており、適切な観光地マネジメントと官民共同の戦略が必要とされています。これにより、地域住民の利益と観光収入を両立しつつ持続可能な発展が可能とされます。

この内容は、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)が発表した報告書に基づくもので、2025~2027年の3年間の試算です。

 

 

中国人オーナーによる家賃急騰と民泊転用問題 片山さつき参議が法規制見直しを要請

問題の概要

  • 東京都板橋区のマンションで、中国人オーナーによる買収後に家賃が2倍から3倍に引き上げられ、住民の約3割が退去を余儀なくされる事態が発生しています。中には、エレベーターを停止して高齢女性に退去を促すなど、強硬な手段も報じられています。家賃が7万2500円から19万円にまで跳ね上がった例もあり、既に複数世帯が退去し、さらに退去予定の世帯も出ています。
  • この背景には、オーナーが住民を退去させた後、空室を民泊に転用する目的があるとみられています。実際に、無届けで民泊として運用されているケースも確認されており、住民の生活環境や安全への影響が深刻化しています。

国政での動き

  • 2025年06月9日の参議院決算委員会で、片山さつき参院決算委員長(自民党)はこの問題を取り上げ、外国人による居住用不動産購入や民泊運営が地域住民に与える影響について強い懸念を表明しました。片山氏は「日本の弱い国民が常識が通用しない相手の強硬手段におびえている」と述べ、法規制の抜本的な見直しを政府に要請しました。
  • また、板橋区長からも「区ではこれ以上の対応ができない。国としての対策をお願いしたい」との要望が寄せられており、国レベルでの対応が求められています。

社会的背景と課題

  • 円安やインバウンド需要の高まりを背景に、都市部で中国系企業や投資家によるマンション買収と家賃高騰、住民退去、民泊転用の流れが複数発生し、社会問題化しています。
  • 法制度の隙間や規制の不十分さが指摘されており、今後は外国人による不動産取得や民泊運営に関する制度の見直しが大きな課題となっています。

今後の見通し

  • 政府・与党内では、インバウンド消費の重要性を認めつつも、「国民の安全・安心が損なわれることは断じてあってはならない」とし、賃貸住宅市場への外国人オーナーの影響や民泊転用問題に対する法規制強化の議論が進む見通しです。
  • この問題は、都市部を中心に今後も拡大する可能性があり、国政レベルでの早急な対策と法制度の見直しが求められています。

 

 

スペインの住宅危機と政府の新たな対策

  • スペインは近年、深刻な住宅不足と家賃高騰に直面しており、その主な要因として「オーバーツーリズム(観光公害)」や民泊の拡大、さらには外国人による不動産投資が挙げられています。

Airbnbに対する大規模削除命令

  • 2025年05月、スペイン消費者権利省はAirbnbに対し、国内の物件約6万6000件の掲載削除を命じました。
  • 対象となった物件の多くは、営業許可番号の不記載や偽造、不明確な所有者情報など、短期賃貸に関する規則違反があったためです。
  • Airbnb側は異議を申し立てましたが、マドリードの高等裁判所は政府の主張を支持しています。

外国人投資家への規制強化

  • スペイン政府は、EU域外の居住者による不動産購入に対して最大100%の課税を検討しています。
  • この措置は、住宅供給の不足と価格高騰を招いている投機的な不動産購入を抑制するためのものです。
  • さらに、一定額以上の投資で在留資格を付与する「ゴールデンビザ」制度も廃止する方針です。

地方自治体の動きと市民の反発

  • バルセロナ市は2028年までに短期賃貸物件約1万件を全面禁止する方針を打ち出しています。
  • マドリードやアンダルシア、カタルーニャ、バレンシア、バスク、バレアレス諸島などの観光地では、住宅不足や家賃高騰を受けて住民による抗議デモが相次いでいます。中には家賃が過去10年で80%上昇した地域もあります。

欧州全体への波及と今後の展望

  • スペインだけでなく、欧州各地でオーバーツーリズムや住宅問題に対する抗議行動が計画されています。
  • スペイン政府は今後3年で外国人労働者3万人の受け入れも計画しており、観光と住宅ニーズのバランスを取る政策が急務となっています。
  • 「観光の受け入れと生活環境の保全はジレンマ。過度な観光の受け入れは住宅不足だけでなく、ホテルの価格上昇や交通機関の混雑なども生じさせる」
  • スペインの事例は、観光立国が直面する住宅政策の難しさを象徴しています。政府は今後も、住宅の社会的供給や規制強化など多角的な対策を進めていく見通しです。

 

 

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世界に広がる住宅高騰問題とアイルランドの現状

  • 住宅価格と家賃の高騰が、欧州をはじめ世界の大都市で深刻な社会問題となっています。アイルランド、特にダブリンはその象徴的な例です。

アイルランドの住宅価格・家賃の現状

  • ダブリンの住宅価格はEU内でも突出して高く、住宅価格の中央値は年収の8倍に達しています。
  • 1ベッドルームのアパートを借りるだけで給料の大半が消えるため、多くの若者が家を買うことはおろか、独立して暮らすことも困難です。
  • ダブリンの平均家賃は過去10年で2倍になり、2010年から2022年の間にアイルランド全体の家賃は84%上昇。これはEU平均(18%)を大きく上回ります。
  • 住宅価格の高騰により、2022年時点で20~34歳の59%が親と同居しており、10年前の38%から大幅に増加しています。

背景にある要因

  • 強い雇用市場と人口増加により住宅需要が急増する一方、住宅供給が追いついていません。
  • 建設費の高騰や高金利も住宅不足を悪化させています。
  • アイルランドでは、賃貸物件の供給が極端に少なく、2023年秋時点でダブリンの賃貸市場に出ている物件数は約1,800軒と非常に限られています。
  • 投資目的の不動産購入や「ゴールデンビザ」政策など、国外からの投資も価格押し上げに拍車をかけています。

社会への影響

  • 住宅不足と高騰は、若者の独立や結婚・出産の遅れ、出生率の低下(2012年から2022年で20%減)にもつながっています。
  • ホームレス人口も増加し、2024年のアイルランドのホームレス人口は約1万4,000人に達し、ここ10年で4倍に増加。うち4,000人以上が子どもです。
  • 住宅問題は中間層や貧困層の生活水準低下、富の格差拡大、政治的緊張にも直結しています。

世界的な広がり

  • 住宅価格の高騰と手の届きにくさは、アメリカやオランダ、イギリス、南欧諸国など世界中の都市で共通する現象です。
  • IMFの調査でも、住宅の手頃さは2008年のリーマンショック直前よりも悪化していると指摘されています。
  • 「アイルランドの価格は異常だ。家を持つのは無理だ」——多くの若者がこう感じており、家を買えない問題はもはや個人の努力だけでは解決できない社会的課題となっています。

まとめ:

  • アイルランドをはじめとする欧州の大都市では、住宅価格と家賃が所得の伸びを大きく上回り、若者や中間層が家を買えない・借りられない「住宅危機」が深刻化しています。この問題は供給不足、投資資金の流入、建設コストの上昇など複合的な要因によって世界的に拡大しており、今後も各国で大きな社会的・政治的課題となる見通しです。