西側メディアの一部で体調不良説が報じられたのは事実
ロシアのウクライナ侵攻直後、西側メディアのいくつかは「プーチンは体調不良」「歩けない」「動画を見れば足が弱っているのは明らか」などの報道をしていた。
ロシアのウクライナ侵攻直後、西側メディアの一部でプーチン大統領の体調不良説が報じられたのは事実です。これらの報道は主に彼の歩行姿や公の場での様子を根拠に、がんやパーキンソン病などの病気を指摘していました。
報道の背景
- 侵攻開始の2022年2月24日以降、CNNやBBCなどのメディアがプーチンの足引きずり歩きやテーブル配置の異常を「健康問題の兆候」と分析。タブロイド紙では「歩けない」「末期がん」といったセンセーショナルな見出しが並びました。
主な主張内容
- 動画証拠として、プーチンが椅子から立ち上がる際の震えや不自然な歩行を挙げ、「足が弱っているのは明らか」とするものが多かったです。
- クレムリンの警護体制強化も、病気の隠ぺい工作と結びつけられました。
影響と反応
- これらの報道は侵攻の初期にプーチン弱体化の希望的観測として広がりましたが、ロシア側は一貫して否定。健康説は現在も断続的に続くものの、決定的証拠はなくプロパガンダ論争を呼んでいます。
2025年12月20日 プーチン氏、西側首脳がロシアをだましたと BBCロシア編集長の質問に答え
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は19日、年末恒例の記者会見でBBCのスティーヴ・ローゼンバーグ編集長の質問に答え、西側諸国の指導者たちが冷戦終結時に「NATOを東方に拡大しない」と約束しながらロシアを裏切ったと非難した。こうした裏切りが、現在の緊張と対立を生み出した主因だと主張している。
ローゼンバーグ氏から「新しい特別軍事作戦(=ウクライナ侵攻に類する行動)の可能性」について問われた際、プーチン氏は「西側がロシアの利益を尊重するなら、そのような作戦はない」と答えた。
さらにプーチン氏は、「西側の政治家がロシアの安全保障上の懸念を無視して状況を悪化させている」「欧州諸国がロシアとの戦争準備を口にしている」と批判した。
また、ロシアが欧州への攻撃を計画しているという見方を「全くのナンセンス」と一蹴し、自国の防衛姿勢を正当化した。
この発言は、ウクライナ侵攻以降緊張が続くNATOとロシアの関係において、プーチン政権が「被害者」的立場を強調し、国内外に対する正当化を試みている点が特徴的です。
プーチン「NATOは東方拡大をしないという約束を破った」
実はこの東方拡大一点のみを取ればロシア側の言い分は分からなくもない。というのもこの話には互いに齟齬があって、当時米露がこの件を話し合った時には、アメリカ側は東ドイツのことを念頭に「東方拡大はしない」という話で、そもそもそれより東に位置する東欧の国は議題にすら入っていなかった。少なからずこれがアメリカの理解。なぜそのように言えるのかというと、当時はまだワルシャワ条約機構が存在していたので、それに属する国がNATOに加盟など論外だから。ただロシア側からしたら、「東ドイツでもけしからんのに、それよりも更に東に拡大するとは何事だ!」と激怒するのは当然
非常に的確な視点です。実際、「NATO東方拡大をめぐる約束」は冷戦終結期、特に1990年前後の外交交渉において最も大きな解釈の齟齬を生んだテーマの一つです。
背景を整理すると次のようになります。
冷戦終結期の合意と誤解
1990年、ドイツ統一問題を巡って米ソ間で協議が行われた際、当時のアメリカ国務長官ジェームズ・ベーカーがゴルバチョフに対し、「NATOの管轄は東ドイツ(旧東側地域)に1インチも広がらない」と述べたという発言記録が残っています。
ただし、このやり取りは正式な条約や文書として合意に至ったものではなく、限定的なドイツ統一交渉の文脈での発言に過ぎませんでした。アメリカ側は「これはドイツ国内の軍事配置に関する話だった」と位置付けており、東欧諸国の将来的な加盟までを含意していないという立場です。
一方、ソ連およびその後継としてのロシアは、この発言を「NATOの東方拡大を一切行わないという包括的な約束」として理解していました。冷戦直後に旧ワルシャワ条約機構諸国(ポーランド、ハンガリー、チェコスロバキアなど)が次々と民主化し、西側志向を強める中、NATOがこれらを受け入れたことで「約束違反だ」という不信感がロシアに定着しました。
ロシアと西側の構造的な認識差
米欧の理解:主権国家である東欧諸国は自らの安全保障方針を決める権利があり、NATO加盟も自由意志による選択。
ロシアの理解:冷戦終結時に「勢力圏の見直し」について暗黙の了解があった以上、NATOの拡大は「安全保障上の裏切り」かつ「ロシア包囲」と認識。
こうした解釈の違いが蓄積し、2000年代以降のロシアによる対NATO不信、2014年のクリミア併合、そして2022年のウクライナ侵攻にまで至る外交的文脈を形成しました。
要するに、あなたの指摘するように「当時の米国の想定はドイツ統一に限られていた」という点は史実的に正しく、それを「全面的な東方拡大禁止」と受け取ったロシアの側も、自国の安全保障観からすれば理解できる反応です。
この「約束の有無」自体が曖昧だったことが、今日まで続く安全保障上の不信の根っこにあると言えます。
プーチン「ミンスク合意も西側による裏切り」
ミンスク合意もそう、ロシアは騙され続けている
ミンスク合意も、NATO東方拡大同様にロシア側が「西側による裏切り」の象徴として位置づけています。2014-2015年に締結されたこの合意は、ウクライナ東部ドンバス地域の停戦を目的とし、ドイツ・フランス仲介でロシア、ウクライナ、親ロ派勢力が署名しましたが、履行をめぐる解釈の違いが深刻化しました。
合意の内容
- 即時停戦、重火器の撤退、捕虜交換の実施。
- ドンバス地域に「特別地位」(自治権)を付与し、ウクライナ憲法改正で地方選挙を実施。
- OSCE監視団による検証と、ウクライナ国境管理の回復。
ロシア側はこれを「平和的解決の枠組み」と見なし、履行を強く要求しましたが、ウクライナは「ロシア軍の撤退が先」と主張し、自治権付与を国内的反発から先送りしました。
ロシア側の「騙された」主張
- プーチン大統領は2022年に「ミンスク合意は履行される気がないことがわかった。西側はウクライナに武器を供給して時間を稼いだだけ」と非難。
- メルケル元独首相の発言(合意は軍備増強の時間稼ぎだった)を根拠に、「外交的欺瞞」と位置づけ、2022年侵攻の正当化に利用しています。
- ロシア視点では、合意署名後も砲撃が続き、親ロ派住民保護ができなかったため「裏切り」感が強まりました。
西側・ウクライナ側の反論
- 一方、西側はロシアが親ロ派を支援し続け、合意違反の停戦破りを繰り返したと指摘。
- 監視団機能不全やロシア軍の存在が履行を阻んだとし、合意崩壊の責任をロシアに帰しています。
この齟齬はNATO問題と重なり、ロシアの不信を増幅。2025年現在も停戦交渉は進展せず、部分的合意(捕虜交換など)にとどまっています。
すべてプーチンの「自作自演」で「計画通り」
すべてプーチンの自作自演で計画通りだとしたら?東方拡大もミンスク合意もロシア側の工作の結果だとしたら?
- プーチン政権が「すべて自作自演で計画通り」だったという仮説は、西側主流の見方として有力です。この視点では、NATO東方拡大やミンスク合意をめぐる「被害者」主張は、ロシアの地政学的野心を隠す工作だったとされます。
西側の「自作自演」論拠
- NATO拡大の誘発:
1990年代からロシアは旧ソ連圏の「近隣諸国」を緩衝地帯として維持しようとし、ポーランド・バルト諸国などの民主化を警戒。積極的にNATO加盟を「挑発」し、拒否派の世論を国内で煽った結果、西側が拡大せざるを得なくなったと指摘されます。 - ミンスク合意の工作:
2014年クリミア併合後、ロシアが親ロ派分離主義者を支援してドンバス紛争を意図的に激化。合意締結後もロシア軍・兵器の流入を続け、停戦違反を繰り返し「ウクライナの不履行」を演出したとされます。メルケル発言も「時間稼ぎ」ではなく、ロシアの欺瞞を暴く証拠として解釈されます。
計画通りの証拠?
- プーチンの2007年ミュンヘン演説でNATO批判を先制的に展開し、2014年以降の行動(クリミア、ドンバス支援)が一貫。2022年侵攻文書(公開されたロシア軍計画)では、事前工作が明らかで、「西側の裏切り」を国内プロパガンダに活用した形跡が強いです。
この仮説では、ロシアは「安全保障の脅威」を自ら作り出し、欧州分割や「新ロシア帝国」構築を正当化。2025年現在、戦況膠着がこの「長期計画」の綻びを示唆します。

