ウクライナ侵攻と陰謀論

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ウクライナ侵攻と陰謀論

2022年2月に開始されたロシアによるウクライナ侵攻は、SNSの普及後では最大規模の軍事衝突であり、情報戦(インフォデミック)の側面を強く持っています。

この紛争に関連して流布されている主な陰謀論や虚偽情報の傾向、およびその背景について専門的な視点から分析します。

1. 拡散されている主な陰謀論の種類

ウクライナ侵攻を巡る陰謀論は、主にロシア側の主張を正当化するものや、欧米諸国の関与を疑うものに大別されます。

生物兵器研究所説 ウクライナ国内に米国が資金提供する生物兵器研究所が存在し、ロシアへの攻撃を計画していたという説です。実際には公衆衛生のための一般的な研究所ですが、これが「侵攻の正当な理由」として繰り返し引用されました。

ネオナチ支配説 ウクライナ政府がネオナチに支配されており、東部ドンバス地方でロシア系住民に対してジェノサイド(集団殺害)を行っているという主張です。侵攻を「非ナチ化」という大義名分で正当化するために利用されています。

クライシス・アクター説 ブチャでの虐殺やマリウポリの産科病院への爆撃について、遺体や負傷者は俳優(クライシス・アクター)による演技であるという説です。凄惨な戦争犯罪の証拠を否定し、ウクライナ側の自作自演であると印象づける狙いがあります。

グローバリスト・ディープステート陰謀説 この戦争は「世界経済フォーラム(WEF)」や「ディープステート」が、世界秩序を再編するために仕組んだものであるという説です。Qアノンなどの既存の陰謀論コミュニティと結びつき、欧米での支援疲れを誘発する要因となっています。

2. 陰謀論が拡散される背景とメカニズム

なぜこれほどまでに特定の言説が急速に広まるのか、その構造的な要因には以下の点が挙げられます。

ハイブリッド戦としての情報操作 ロシアは軍事行動と並行して、サイバー攻撃やプロパガンダを用いた「ハイブリッド戦」を展開しています。公式声明だけでなく、ボットやトロール(工作員)を用いてSNS上に大量の虚偽情報を流し、何が真実か分からない状態(情報の霧)を作り出します。

コロナ禍からの陰謀論の転用 調査によれば、新型コロナウイルスに関連する陰謀論(反ワクチンなど)を信じていた層が、侵攻開始後にロシア支持やウクライナ懐疑論に転向する傾向が強く見られます。「既存メディアや政府は嘘をついている」という不信感が、新しい対象へとスライドした形です。

エコーチェンバー現象 SNSのアルゴリズムにより、自分の信じたい情報だけが表示される「エコーチェンバー」が強化されます。一度ウクライナに否定的な情報を目にすると、次々に同様の陰謀論が推奨され、多角的な視点が失われていきます。

3. 社会的影響と今後の課題

陰謀論の蔓延は、単なる情報の誤解に留まらず、現実の政治や社会に深刻な影響を及ぼしています。

国際的な支援への影響 欧米諸国において「ウクライナ支援は無駄である」「自作自演に加担している」という認識が広がると、軍事・人道支援の継続に対する世論の支持が低下し、政治的な意思決定を困難にします。

社会の分断と不信感 「真実を知っているのは自分たちだけだ」という排他的な意識が強まることで、家族や友人、地域社会の中での分断が進みます。これは民主主義の基盤である「共通の事実認識」を破壊する行為となります。

情報リテラシーの重要性 現在はAIを用いたディープフェイク動画なども登場しており、情報の真偽を見極めることはより困難になっています。公的機関や専門家によるファクトチェックの強化とともに、受け手側が複数の情報源を比較する姿勢がこれまで以上に求められています。

ピアノの森(25) (モーニング KC)
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