ブラジルは農業大国なのに、2021~2023年に3.9%(840万人)が飢餓状態だった

世界

 

原因は食糧の供給不足ではなく、貧困層の購買力の低下

ブラジルは世界的な農業大国でありながら、2021~2023年の間に国内人口の約3.9%にあたる約840万人が飢餓に直面していました。飢餓の主な原因は食糧の供給不足ではなく、貧困層の購買力の低下です。実質賃金の上昇が物価や食品価格の上昇に追いつかず、低所得層の食料確保が困難になっているためです。

2014年以降の経済危機や新型コロナ、政策の後退も影響し、特に学校給食の支援縮小など社会的脆弱層への支援減少が飢餓問題を悪化させました。また、農業が輸出偏重で国内消費向けの農作物生産が減少していることも課題です。

一方で、2023年には深刻な食料不安人口は大幅に減少し、2025年には国連の飢餓マップからブラジルが11年ぶりに脱却したと報告されています。ルーラ大統領の社会政策や支援の強化が一定の効果をあげつつあるものの、依然として飢餓や食料不安に苦しむ人々は存在し、持続的な対策が求められています。

ブラジルでは過去の「飢餓ゼロプログラム」など、貧困層支援のための社会政策が重要な役割を果たしてきましたが、経済的格差やインフレ、政策の継続性が課題です。今後は社会扶助の統一登録システムの普及や農家支援の拡充など包括的な対策が進められています。

 

 

食料ガバナンス先進国ブラジル。飢餓を政治問題と捉える

  • 取り組みは国民酒カシャッサ生産にも恩恵

ブラジルは食料ガバナンスの先進国として、制度設計と地域実践、国際連携の三つの側面から持続可能かつ包摂的な食料システムづくりに取り組んでいます。ブラジルの食料ガバナンスの中核はSISAN(国家食料栄養安全保障システム)で、政府、省庁間会議(CAISAN)、市民社会を代表するCONSEA(国家食料栄養安全保障評議会)が協働しています。CONSEAは一時廃止されましたが、2023年にルーラ政権の政治的意思により復活し、飢餓撲滅と食料主権の実現を目指し、食料を市民の権利と捉え直す民主的な制度づくりを推進しています。

地域レベルの具体的な実践例としては、リオグランジドスウ州のPEAF(州家族農業加工支援プログラム)があり、家族農業の加工品の合法化と市場アクセス向上を支援。伝統的なサトウキビ蒸留酒カシャッサに対しても衛生基準・税制を満たすことで正式な市場進出を可能にし、地域ブランド「Sabor Gaúcho」認証を付与することで、地域の食文化と経済に寄与しています。

またブラジルは国際的にFAOや世界食料安全保障委員会(CFS)での南南協力を通じて、自国のPAA(食料購入プログラム)やPNAE(国家学校給食プログラム)などの制度を紹介し、世界的な食料安全保障に貢献しています。

このように、ブラジルの食料ガバナンスは飢餓を政治問題と捉え、社会的連帯や民主主義の価値を制度に反映させる先進的なモデルであり、国民酒カシャッサの生産支援もその恩恵を受けている点が特徴です。日本の関心が高い農業や食料安全保障の分野でも重要な示唆を与える取り組みと言えます。

 

 

ルラ大統領は違法伐採の抑制と森林保全が政策の中心

ブラジルの森林伐採は近年、深刻な問題となっています。特にアマゾン地域の伐採は長年続いており、「地球の肺」とも呼ばれるこの広大な熱帯雨林は、過去37年間で自然植生の約19%が失われています。森林の損失が20~25%に達すると自然に回復できなくなるとされ、すでに深刻な危機にあります。

前政権の右派ボルサナロ氏の時代には、アマゾンの伐採が奨励され、大規模な森林から農地や牧草地への転換が進みました。2021年時点での森林伐採面積は1985年の2.5倍に達していました。

しかし、2023年に就任した左派ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領は、違法伐採の抑制と森林保全を政策の中心に据え、2030年までに森林伐採を止める計画を発表しました。具体的には、300万ヘクタールの保護区新設、衛星を活用した違法伐採の監視強化、監視員の増員、違法なチェーンソーの買い上げなどの措置を実施しています。

2023年の森林伐採面積は前年と比較して約50%減少し、同年上半期は前年同期比で約34%減少するなど改善傾向が見られます。一方で、アマゾンに隣接するセラード・サバンナでは伐採が増加しており、そちらの保全も課題となっています。

ルラ政権は、森林伐採の抑制に加え、持続可能な森林製品の生産支援や地域住民の経済支援、エコツーリズムの促進など多面的な対策を進めています。また、国際社会に対しても資金支援を求め、気候変動対策としての森林保護の役割を強調しています。

このようにブラジルでは、過去の急激な森林破壊の流れを是正するため、政府主導で違法伐採対策や保全計画が進んでいますが、依然として森林減少の大きな課題が残っています。

 

 

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