ロシアの拡張主義を警告 独情報局長官「NATOの抑止力強化を」
ドイツ連邦情報局(BND)のブルーノ・カール長官は2025年6月9日、自身のポッドキャストでロシアの拡張主義的な動きを「過小評価すべきでない」と強く警告しました。
- カール長官は「ウクライナはロシアにとって西側へのほんの一歩にすぎない」と述べ、ウクライナ侵攻はNATOの結束や集団防衛義務(第5条)の実効性を試すための“テスト”であるとの見解を示しました。
- 第5条は、NATO加盟国のいずれかが攻撃された場合、全加盟国への攻撃とみなし、集団的自衛権を行使するという規定です。実際に2001年の米同時多発テロで初めて発動されました。
ロシアの戦略とNATOへの影響
- カール長官は「ロシアは米国を欧州から追い出すため、どんな手段も使うだろう。大規模な爆撃や戦車部隊の派遣は必要なく、“抑圧されているロシア系少数民族を守る”という名目で、エストニアなどバルト三国に小規模な軍隊を送り込むだけで十分だ」と指摘しています。
- これは、全面戦争に至らない“グレーゾーン”でNATOの団結や抑止力を試し、欧州の安全保障体制を分断しようとするロシアの意図を示唆しています。
ロシアとの交渉・ウクライナ情勢
- カール長官は「プーチン大統領の攻撃的な姿勢に変化はない」とし、「戦争を防ぎ、血を流さない最善の方法はNATO側の抑止力強化だ」と強調しました。
- 最近のウクライナ・ロシア交渉では、ロシア側がウクライナに対し全面降伏を要求する覚書を提示したことも明らかにしました。
今後のNATOと米国の姿勢
- ロシアがNATO加盟国を侵略した場合、米大統領が兵士を欧州に派遣するかどうかについては不透明感があり、特にトランプ大統領(再登板予定)は過去に曖昧な発言をしてきた経緯があります。
- 6月24・25日にオランダ・ハーグでNATO首脳会談が予定されており、米国のNATOへのコミットメントが注目されています。
まとめ
- BNDトップがこのような警告を公に発するのは異例であり、欧州の安全保障環境が大きく変化していることを示しています。
- ロシアの拡張主義に対抗し、NATOの抑止力を強化することが欧州の安定と安全保障に不可欠であるというのがカール長官の主張です。
「戦争を防ぎ、血を流さない最善の方法はNATO側の抑止力強化だ」
欧米のウクライナ支援は「小出し」か?意図と背景
- 欧米諸国のウクライナ支援が「小出し」であるとの指摘は多く、実際に段階的かつ限定的な軍事支援が続いているのは事実です。
支援が小出しに見える理由
- 欧米諸国は、戦車やミサイルといった主要兵器の供与を段階的に行ってきました。これにより、戦争が長期化し、前線が膠着状態となる傾向が強まっています。
- 欧州諸国は十分な武器生産力を持たず、ウクライナへの供与に苦労しているため、支援が一度に大量に行われない事情もあります。
- アメリカをはじめとするNATO諸国は、ロシアとの直接軍事衝突を避けるため、越えてはいけない一線(例:戦闘機供与や飛行禁止区域の設定)を設けており、全面的な支援には踏み切っていません。
欧米の本音:ロシアに勝たせる気がないのか?
- 欧米の目的は「ロシアの勝利を防ぐ」ことであり、ウクライナが完全勝利するまでの全面的な支援を約束しているわけではありません。
- 支援が「小出し」になる背景には、「ロシアを刺激しすぎてNATOとロシアの直接衝突を招くリスクを避けたい」という戦略的判断があります。
- 欧米諸国は、ウクライナが自力で防衛力を高められるよう新たな支援モデル(例:ウクライナ国内での兵器生産支援)も模索していますが、即効性には限界があります。
結論
- 欧米はウクライナに対して「ロシアに勝たせるつもりはない」ものの、ロシアを過度に刺激して自らが戦争の当事者となることを強く避けています。そのため、支援は段階的かつ慎重に行われており、結果として「小出し」に見える状況となっています。この方針は、戦争の長期化や消耗戦を招く一因ともなっています。
ウクライナ戦争と外交 :外交官が見た軍事大国の侵略と小国の戦略
- 本書は、2021年から2024年まで駐ウクライナ特命全権大使を務めた松田邦紀氏によるノンフィクションです。
- 著者がウクライナ駐在中に体験したロシアの全面侵略と、その中でウクライナがどのように戦略を立て、国際社会と連携しながら抵抗を続けてきたのかを、外交官の視点で詳細に記録しています。
構成と主な内容
- 本書はプロローグから始まり、ロシアによる侵攻の経緯、ウクライナ大使館の再開、戦時下の日本外交、G7議長国としての日本の役割、岸田首相のウクライナ訪問、ゼレンスキー大統領の来日など、外交の現場で見たリアルな出来事を章ごとに記述しています。
- ウクライナの軍事・社会の強みと弱み、腐敗対策、社会のデジタル化、ドローン開発、領土防衛隊、情報戦など、現代戦争の多層的な側面もカバーしています。
- 終盤では、日本への教訓や安全保障のあり方、戦後復興、国際秩序の再構築、ロシアとの関係、日本のメディアの役割についても考察しています。
著者の動機と視点
- 松田氏は、理不尽な侵略戦争の現場に立ち会った外交官として、後世に記録を残す義務感と、ウクライナの人々への人間的な共感から執筆を決意したと述べています。
- 戦争が続く中で離任せざるを得なかった無念さや、平和への祈りが込められています。
注目点
- ロシアが「2日でキーウを陥落させる」と豪語したにもかかわらず、ウクライナが三年以上にわたり抵抗を続けている現実、その背景にある国際支援、社会の結束、技術革新(特にドローン開発)などが外交官の実体験を通じて描かれています。
- 日本の外交・安全保障政策への示唆や、戦時下における市民社会と文化交流の重要性も強調されています。