サウジアラビアの原油増産方針転換と米国・ウクライナの鉱物資源協定は、それぞれロシアに対して新たな経済的・政治的圧力

サウジ原油増産と米ウクライナ鉱物協定 ロシアに新たな挑戦

by 秦鵬

サウジが原油増産方針へ転換し、米国とウクライナは鉱物資源協定で復興基金設立。両動きがロシアに新たな圧力となる。

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サウジアラビアの原油増産方針転換と米国・ウクライナの鉱物資源協定締結は、ともにロシアに対する新たな挑戦と圧力を形成しています。

サウジアラビアの原油増産方針転換

  • 2025年4月末、サウジアラビアはこれまでの原油減産政策を転換し、原油市場の価格下落が長期化しても対応可能として、増産や市場シェア拡大に動く可能性を示唆しました。これは、OPECプラスの枠組みで自主減産を続けてきたものの、カザフスタンやイラクが目標を超えた生産を続けることに対する苛立ちが背景にあります。サウジはこれら加盟国に目標順守を求めてきましたが、方針を転換し、減産で市場を支える意向を示さなくなったのです。
  • また、OPECプラスの8カ国(サウジアラビア、ロシア、イラク、UAE、クウェート、カザフスタン、アルジェリア、オマーン)は2025年5月に合計で日量約41万1000バレルの増産を決定しました。これは当初予定よりも3倍の増産幅であり、段階的な減産緩和の一環として実施されます。
  • 一方で、サウジアラビアはロシアから割安な石油製品を大量に輸入し、自国の石油製品を国際価格でヨーロッパに輸出するという巧みな戦略を展開しています。これは、ロシアの原油が欧米の制裁で割安になっていることを利用し、国内消費にロシア産を回すことで自国産の高価格製品を輸出に回し収益を増やす「価格差を利用した錬金術」とも言われています。
  • この動きは、ロシアの石油収入を間接的に支えることにもなっており、サウジアラビアはロシアと欧米双方と繋がりを持ち、巧みにバランスを取りながら市場シェアを拡大しようとしています。

米国とウクライナの鉱物資源協定

  • 2025年4月30日、米国とウクライナは鉱物資源に関する協定に署名し、復興投資基金を設立しました。この協定は、ウクライナの鉱物資源や石油・天然ガスなどの新規開発から得られる収益を共同管理し、ウクライナの経済復興に充てることを目的としています。基金は両国が対等に管理し、ウクライナの資源所有権はウクライナに帰属し、資源の採掘場所や条件もウクライナが決定します。
  • この協定は、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中で、米国がウクライナ支援を経済面でも強化し、ロシアに対する圧力を強める狙いがあります。米国はこの基金に直接資金を投入するほか、防空システムなどの軍事支援も含める可能性があるとされています。
  • ただし、ウクライナの経済復興に資する収益化は、戦争被害や開発の遅れから10年以上先になる見通しであり、短期的な経済効果は限定的です。
  • また、この協定でウクライナは米国から明確な「安全保障の保証」を得られなかったものの、両国関係の改善と対ロシア圧力の強化を優先しました。ロシア側の反応や和平交渉の進展は依然不透明です。

ロシアに対する新たな圧力

  • サウジアラビアの増産方針転換は、OPECプラス内でのロシアの生産維持要求と対立しつつも、市場シェア拡大を目指す動きであり、ロシアにとっては価格面での競争圧力となります。
  • 米国とウクライナの鉱物資源協定は、ウクライナの経済復興を支援し、資源開発を通じてロシアの侵攻に対抗する経済的基盤を強化する狙いがあり、ロシアに対する政治的・経済的圧力を強めるものです。
  • これらの動きは、ロシアの軍事侵攻継続に対抗する国際的な戦略の一環として位置づけられ、今後のエネルギー市場や東欧情勢に大きな影響を与える可能性があります。

以上のように、サウジアラビアの原油増産方針転換と米国・ウクライナの鉱物資源協定は、それぞれロシアに対して新たな経済的・政治的圧力をかける動きとして注目されています。