WTO(世界貿易機関)は機能していない
動画の内容は、自由貿易を支えてきたWTO(世界貿易機関)が、紛争処理の最高裁に当たる「上級委員会」の機能停止によって空洞化し、ルールで動く時代から国同士の力関係による「ディール(交渉)」の時代へ移行しているという構造の解説です。
- WTOの最高裁(上級委員会)の裁判官(定員7名)は2019年末から欠員が埋まらず0名が続いており、実質的に機能停止しています。
- 一審(パネル)で負けた国が「空っぽの上級委員会」へ上訴する「空白への上訴」を行うことで、判決の確定を無限に引き延ばせる仕組み上の裏技が横行しています。
- 全会一致という決定ルールがあるため、アメリカ一国が拒否権を行使し続けることで、他の多くの加盟国が望んでも裁判官の再任や新規任命ができない状態が続いています。
- 多国間のルールが機能しなくなった結果、二国間の直接交渉による決着が増加しており、予測可能性の低下やサプライチェーン見直しによる企業コスト増につながっています。
2019年12月11日から機能停止
WTOの紛争処理機能(最高裁にあたる上級委員会)が事実上機能停止したのは2019年12月11日からです。
- ・2019年12月10日に委員2名が任期満了を迎え、審理に必要な定足数(最低3名)を割り込んで1名のみとなり、審理が行えなくなりました。
- ・2020年11月30日には残る最後の1名も任期満了を迎え、委員の数は完全に0名となりました。
- ・2017年頃から始まったアメリカによる新委員任命拒否(ブロック)が原因で補充が止まり、段階的に委員が減少した結果、2019年12月に機能停止へ至りました。
根本的な原因は「中国の存在と市場構造」
WTOの上級委員会が停止した直接のきっかけはアメリカの委員任命拒否ですが、その背景にある根本的な原因は「中国の特有の市場構造」と「それに対応できないWTOルールの限界」にあります。
国有企業と巨大補助金
中国の経済モデルは、政府による巨額の補助金や国有企業を通じた支援が特徴です。これにより特定産業で圧倒的な過剰生産能力が生まれ、世界市場へ安価な製品が流入する事態が起きました。
WTOルールの制度的限界
WTOの既存ルール(SCM協定など)は、主に民間の市場経済を前提に作られています。そのため、政府が明示的に手を出さず国有企業や国営銀行を経由して実質的な補助金を与えるような手法を「違反」と認定・立証するのがきわめて困難でした。
アメリカの強い不満と絶望
2001年に中国をWTOへ迎えた際、欧米には「自由貿易に組み込めば市場経済化が進む」という期待がありました。しかし構造が変わらないまま中国が急速に台頭したため、アメリカは「ルールを守らない側が得をし、正攻法で戦う自国産業ばかりが損をしている」と判断しました。
新ルールの不全
加盟国が160か国以上に拡大し全会一致を原則とするため、中国の市場構造を規制する新しいルール作り(交渉)は完全に頓挫しました。ルール改正で対処できないと悟ったアメリカが、最終的に紛争処理機能(上級委員会)そのものをブロックして無力化させるという強硬手段に出たことが、現在の不全につながっています。

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