前ボルソナロ政権時に見られた急激な反中姿勢への転換
前ボルソナロ政権(2019年〜2022年)が、それまでの親中路線から急激な反中姿勢へと転換した背景には、主に「イデオロギー」、「国家安全保障」、「トランプ政権との親和性」という3つの要因が重なり合っています。
1. イデオロギー的対立と反共主義
ボルソナロ氏は自身を熱烈な反共主義者と位置づけていました。
彼は中国共産党をブラジルの民主主義や伝統的価値観に対する脅威と見なし、選挙戦から一貫して中国を攻撃の対象にしました。
特に「中国はブラジルで買っているのではない、ブラジル(そのもの)を買っているのだ」というフレーズを繰り返し、中国によるインフラや資源への投資を国家主権の侵害として批判しました。
2. トランプ前政権への追随と外交方針の転換
ボルソナロ氏は「熱帯のトランプ」と称されるほど、当時の米国ドナルド・トランプ大統領と親密な関係を築こうとしました。
彼はブラジルの外交方針を、それまでの「南南協力(途上国間連携)」や「BRICS重視」から、米国を中心とした「西洋の価値観」への同調へと大きくシフトさせました。
米国が中国との貿易戦争やハイテク覇権争いを強める中で、ボルソナロ政権もそれに足並みを揃える形で、5G通信網からのファーウェイ排除を検討するなど、対中強硬姿勢を鮮明にしました。
3. 国家安全保障と経済的警戒感
ブラジルの軍部やナショナリスト層の間で、中国への過度な経済依存に対する警戒感が高まっていました。
特にニオブなどの希少金属や農地、電力インフラといった戦略的分野が中国資本に押さえられることに対し、ボルソナロ氏は強い危機感を表明しました。
また、新型コロナウイルス流行期には、自身の支持層に向けて「中国ウイルス」という呼称を用いたり、中国製ワクチンの有効性を疑問視したりすることで、国内の不満の矛先を中国に向ける政治的パフォーマンスも行われました。
実利とのジレンマ
ただし、この反中姿勢は徹底されたわけではありませんでした。
中国はブラジルにとって最大の貿易相手国であり、大豆や鉄鉱石、牛肉の巨大な輸出先です。
そのため、国内の強力なロビー団体であるアグリビジネス(農業関連産業)界や、現実主義的な軍閣僚らからの強い圧力を受け、政権後半には経済的実利を優先して対中批判を抑制する場面も多く見られました。
前ボルソナロ大統領が政治的影響力を失った理由
前ボルソナロ大統領が失脚2022年の大統領選挙で敗北し、その後の政治的影響力を失った主な理由は、大きく分けて「パンデミック対応の失敗」、「経済の悪化」、「民主主義制度への攻撃と政治的孤立」の3点に集約されます。
1. 新型コロナウイルス(COVID-19)対応への不信感
ボルソナロ氏が支持を失った最大の要因の一つは、パンデミックへの対応です。
彼はウイルスを「ただの風邪」と軽視し、マスク着用や隔離措置に公然と反対し続けました。
ワクチンの導入を遅らせ、科学的根拠のない治療薬を推奨した結果、ブラジルは世界最悪レベルの死者数を記録することとなり、国民の間で政権の統治能力に対する強い不信感が広がりました。
2. インフレと格差拡大による経済的困窮
政権後半、ブラジル経済は深刻なインフレと失業率の上昇に直面しました。
特に食料品や燃料価格の高騰は低所得者層の生活を直撃し、かつてボルソナロ氏を支持した層の一部が離反する原因となりました。
対立候補であったルラ氏が、過去の政権下での経済成長や貧困対策を強調したことで、現状の経済苦境に対する不満がルラ氏への支持へと流れました。
3. 民主主義制度への攻撃と国際的孤立
ボルソナロ氏は、ブラジルの電子投票システムに欠陥があると根拠なく主張し、選挙結果を否定するかのような言動を繰り返しました。
こうした最高裁判所や選挙管理当局に対する攻撃は、保守層の中でも穏健派や知的な層の反発を招き、独裁的であるとの批判を強めました。
また、アマゾンの森林破壊を容認する姿勢などが国際的な非難を浴び、外交面でブラジルが孤立したことも、国家のリーダーとしての資質を問われる要因となりました。
4. 選挙後の法的資格の喪失
選挙に敗北した後も、ボルソナロ氏の「失脚」を決定づける出来事が続きました。
2023年には、大統領在任中の権力乱用(外国大使を招いて選挙制度の信憑性を貶める説明を行ったことなど)を理由に、選挙裁判所から2030年までの被選挙権(公職に就く資格)を剥奪する判決が下されました。
さらに、2024年から2025年にかけてはクーデター計画への関与や収賄の疑いなどで有罪判決が出るなど、法的にも政治の表舞台から排除される形となりました。

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