業界は猛反発、消費者は歓迎。SHEINがパリに進出した波紋
SHEINのパリ進出における業界の反発と消費者の歓迎
2025年11月5日、中国の越境EC大手「SHEIN(シーイン)」がパリの老舗百貨店「BHVマレ」に初の常設実店舗をオープンしました。
この出店は、フランス国内で「既存業界・政府」と「消費者」の対立を浮き彫りにする異例の事態となっています。
低価格を実現するSHEINのビジネスモデル
SHEINの圧倒的な低価格は、独自のサプライチェーン管理によって実現されています。
AIで流行を分析してデザインを行い、100着単位という極めて少量の発注を工場へ直接行います。
売れ行きに応じて追加発注する仕組みのため、中間コストや在庫リスクを徹底的に排除しており、これが既存の繊維産業を脅かす要因となっています。
フランス政府による厳しい規制と法的措置
フランス政府および関連団体は、SHEINに対して以下のような厳しい対応を次々と打ち出しています。
環境問題やデータ取り扱いの違反として、多額の罰金を科した。
中国からの小包検査の厳格化を決定した。
児童ポルノに該当する商品や禁止武器の販売の疑いを指摘した。
フランス商業連盟による不適切競争の訴えに基づき、3ヶ月間の業務停止を要求した。
「破壊的イノベーション」と「持続的発展」の衝突
SHEINがもたらす変化は、中国式の「破壊的イノベーション」と、先進国が重視する「持続的イノベーション」の激突と言えます。
中国式は既存業者の淘汰を厭わないスピード感を持ちますが、フランスのような先進国では、既存業界との調整を図る穏健な進化が一般的です。
一方で、フランスの貧困率上昇という背景もあり、国民の約3分の1にあたる2,300万人がSHEINを利用しているという現実が、この問題をより複雑にしています。
2025年の後半にマクロンが中国を訪問していた。首脳同士では話し合い済みなのでは?
2025年後半の動向を振り返ると、フランスのマクロン大統領と中国の習近平国家主席の間では、確かに緊迫したやり取りが行われていました。
しかし、ご指摘の通り「首脳間で話し合い済み」という側面はありつつも、それは「円満な合意」ではなく、むしろ「互いの譲れない一線を突きつけ合った」という性質の強いものでした。
2025年後半の首脳会談の背景
2025年11月のSHEINパリ出店直前、マクロン大統領は訪中し、習主席と会談を行っています。その際の主な焦点は以下の通りでした。
1.フランス側:不均衡な競争への警告
マクロン大統領は、SHEINやTemuといった中国の越境ECがフランスの国内産業(特に繊維・アパレル)に与える「破壊的影響」について、強い懸念を直接伝えています。
フランス政府は、これら中国企業が「補助金による不当な安売り」や「環境・労働基準の無視」を行っていると見ており、首脳会談の場でも「公正な競争(レベル・プレイング・フィールド)」の確保を強く要求しました。
2.中国側:「保護主義」への反発
これに対し、習主席はフランス側の動き(罰金や規制の強化)を「典型的な保護主義」であると批判しました。
中国側から見れば、SHEINのビジネスモデルはデジタル技術を活用した正当なイノベーションであり、フランスの規制は中国企業の成功を不当に阻むものだという主張です。
なぜ首脳会談後も騒動が収まらないのか
首脳同士が話し合ったにもかかわらず、パリでの激しい反発が起きている理由は、主に2つの「ズレ」にあります。
政治と民間のズレ: 首脳レベルで経済協力の継続(航空機や農業分野など)を謳ったとしても、現実に職を脅かされるフランスの繊維業者や、伝統的な街並みを守りたいパリ市民の感情は収まりません。
対抗措置の正当化: フランス政府は、首脳会談で「言うべきことは言った」という実績を作った上で、今回の3ヶ月間の業務停止要求などの法的措置に踏み切っています。つまり、会談は「解決」のためではなく、その後の「制裁」の正当性を担保するためのプロセスだったとも言えます。
結局のところ、マクロン大統領は「中国との経済関係は維持したいが、自国の産業を破壊する存在(SHEIN)は容認できない」という極めて難しい舵取りを迫られており、今回の騒動はその矛盾が表面化したものと分析できます。
ユーラシア・グループ 2026年 世界の10大リスク 中国のデフレの罠(China’s deflation trap)
中国が内需拡大よりも政治的統制を優先し、深刻なデフレに陥る中で、安価な製品を世界中に輸出することで他国の産業を圧迫するリスクです。
イエレンが「中国の過剰生産」について懸念していた通りになっている
ジャネット・イエレン米財務長官が2024年から2025年にかけて繰り返し警告していた「中国の過剰生産」という懸念は、まさに現在のフランスでのSHEIN騒動で最悪の形で現実化していると言えます。
専門家としての分析に基づき、イエレン氏の指摘がどのように今の事態に直結しているのか、以下の3つのポイントで整理します。
世界市場への「デフレの輸出」
イエレン氏が最も警戒していたのは、中国国内の需要不足によって余った巨大な生産能力が、安値で世界中に押し寄せ、他国の産業をなぎ倒していく「デフレの輸出」でした。
SHEINのモデルは、まさにこの過剰な生産能力をAIで即座に吸い上げ、超低価格でフランス市場に流し込む装置として機能しています。フランスの繊維業者が「自分たちのビジネスを破壊するもの」と猛反発しているのは、イエレン氏が予見した「他国の企業の生存を不可能にする不公平な競争」そのものです。
国家補助金による市場の歪み
イエレン氏は、中国政府による特定の戦略産業への厚い補助金が、市場原理を歪めていると指摘してきました。
アパレル分野においても、物流コストの優遇や輸出還付金など、中国特有の支援策がSHEINの「中抜き0」という強みをさらにブーストさせています。フランス政府が1億ユーロを超える巨額の罰金を科したり、小包検査を厳格化したりしているのは、こうした「歪められた競争」に対する防衛策としての側面が強いです。
政治的対立から社会的分断へ
イエレン氏の懸念がさらに深刻なフェーズに入ったことを示すのが、フランス国内の「分断」です。
かつては「安さは正義」として受け入れられていましたが、現在は「自国の雇用を守るべき政府・業界」と、「生活苦から安価な商品を求める消費者」の間で決定的な亀裂が生じています。フランス国民の3分の1が利用しているという事実は、もはや関税や規制といった政府の介入だけで解決できる段階を超え、社会問題化していることを裏付けています。

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