「2015年に結ばれたミンスク2という和平合意が、ウクライナとロシア双方の不信感から履行されませんでした」合意したとしてもロシアが「同胞の保護」を理由に「ハイブリッド戦争」や「サラミ戦術」を仕掛けた可能性
合意してもロシアは「同胞の保護」という大義名分で支配
2015年に調印されたミンスク2(第二次ミンスク合意)は、法的にはウクライナの領土保全を前提としていましたが、実態としてはロシアがウクライナの主権を内側から空洞化させるための道具として利用されました。
ご指摘の通り、仮に合意が形式的に履行されたとしても、ロシアが「同胞の保護」という大義名分を掲げ、「ハイブリッド戦争」や「サラミ戦術」によってウクライナを実質的に支配下に置こうとした可能性は極めて高いと分析されています。
同胞の保護という介入の正当化
ロシアは、旧ソ連圏に住むロシア系住民やロシア語話者を「同胞(コンパトリオート)」と定義し、彼らの権利が侵害されていると主張して介入する方針を長年取っています。
ミンスク2が履行され、ドンバス地方に「特別な地位」が与えられた場合、ロシアはその地域に住む住民にロシア国籍を大量に付与(パスポート化政策)することで、自国民保護を理由とした軍事介入の法的・道義的根拠をいつでも作り出せる状況を維持しようとしました。
ハイブリッド戦争による内側からの崩壊
ハイブリッド戦争は、正規軍による軍事行動と、サイバー攻撃、情報戦、経済的圧力、工作員による扇動などを組み合わせた紛争形態です。
ミンスク2の下でドンバス地方がウクライナの一部として残りつつ、ロシアの影響力が強く残る「特別な地位」を得た場合、ロシアは以下のような活動を継続したと考えられます。
- ウクライナ議会や政治への介入:ドンバス選出の親ロシア派議員を通じて、ウクライナのEUやNATO加盟を内部から拒否権(ベト)を使って阻止する。
- 偽情報による社会の分断:SNSやメディアを通じ、ウクライナ国内の言語や歴史認識の対立を煽り、政権の不安定化を図る。
- 経済的な揺さぶり:エネルギー供給や物流を操作し、ウクライナ政府の統治能力を削ぐ。
サラミ戦術による段階的な侵食
サラミ戦術とは、一度に大きな変化を起こすと国際的な反発を招くため、サラミを薄く切るように、相手が気づかない程度、あるいは決定的な対抗措置を取りにくい程度の小さな既成事実を積み重ねていく手法です。
ミンスク2の履行過程において、ロシアは以下のような段階を想定していた可能性があります。
- 停戦の監視を妨害しながら、実効支配地域を数メートル、数キロ単位でじわじわと広げる。
- 「地方選挙」の名の下に、ウクライナの法律を無視した親ロシア派の独自統治体制を固める。
- 最終的に、ウクライナ政府の支配が及ばない「国家の中の国家」を完成させ、ウクライナ全体の主権を有名無実化する。
結論としての不信感
ウクライナ側が合意の履行に慎重だったのは、まさにこれらの戦術によって、合意を守ることが自国の完全な解体につながるという危機感があったからです。
一方のロシアも、ウクライナが西側諸国の支援を受けて軍を再建し、武力による領土奪還を目指しているという不信感を抱いていました。このように、合意そのものが平和のためではなく、互いの戦略的優位を確保するための「時間稼ぎ」や「武器」として扱われたことが、履行されなかった根本的な原因と言えます。

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