忽那教授をはじめとする一部の医療関係者は、悪質な誹謗中傷に対して発信者情報開示請求や損害賠償請求などの法的措置を進めている

阪大・忽那教授に賠償命令 コロナ対策巡る記事で侮辱

東京地方裁判所は2026年5月18日、新型コロナウイルス対策をめぐるウェブ記事で侮辱を受けたと訴えていた北里大学の花木秀明センター長側の主張を認め、大阪大学の忽那賢志教授に対し55万円の損害賠償を命じる判決を下しました。

判決では、忽那氏による特定の表現が社会的評価を低下させる名誉感情の侵害(侮辱)に当たると判断されました。

裁判の経緯と判決内容

原告である北里大学の大村智記念研究所・花木秀明センター長は、新型コロナウイルスの治療薬候補として注目された「イベルメクチン」を推奨する立場から情報を発信していました。

これに対し、被告である大阪大学大学院の忽那賢志教授は、2023年5月に医療従事者向けのウェブサイトの記事でイベルメクチンの推奨姿勢について言及しました。

その際、花木氏を念頭に置いて「イベルメクチンを推しまくり、その強さたるや突っ張りでブラジルまで突き飛ばされそうなほどでした。畏るべし、某教授氏」と記述しました。

裁判において東京地裁は、この表現が正当な論評の範囲を超えて相手を侮辱し、精神的苦痛を与えたと認め、忽那氏に賠償金の支払いを命じる結果となりました。

 

 

イベルメクチンに効果は無かった

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するイベルメクチンの効果について、日本全体および国際的な科学的コンセンサスとしては、「臨床的な有効性は認められなかった」と結論付けられています。

初期の細胞実験ではウイルス抑制効果が報告されたものの、その後の厳格な臨床試験(治験)では、症状の改善や重症化予防において統計的な有意差を示すデータは得られませんでした。

日本国内における治験結果

日本国内では、製薬会社や大学病院によって厳格な臨床試験が行われました。

2022年9月、興和株式会社は愛知県の藤田医科大学などと共同で進めていた第3相臨床試験の結果を発表しました。軽症の患者を対象に、イベルメクチンを投与する群と偽薬(プラセボ)を投与する群に分けて検証が行われましたが、統計的な有意差は認められず、有効性は確認されませんでした。

厚生労働省の「診療の手引き」においても、イベルメクチンは有効性のエビデンスが不足しているとして、承認された治療薬としては推奨されていません。

国際的な評価とガイドライン

海外でも、米国の「PRINCIPLE試験」や「ACTIV-6試験」など、大規模なランダム化比較試験(RCT)が複数実施されました。これらの試験においても、回復までの期間短縮や入院・死亡リスクの低減といった明確な効果は見出されませんでした。

世界保健機関(WHO)や米食品医薬品局(FDA)、米国立衛生研究所(NIH)などの主要な医療機関は、臨床試験(治験)の目的以外でのイベルメクチンの使用を推奨しない、または使用すべきではないという見解を維持しています。

評価が分かれた背景

パンデミックの初期段階において、試験管内の実験(in vitro)でイベルメクチンが新型コロナウイルスの増殖を抑制したというデータが発表され、大きな注目を集めました。

しかし、この実験で用いられた濃度は人間の体内で安全に達成できる濃度を遥かに超えていたため、実際の患者に投与した場合には同様の効果が得られないことがのちの治験で明らかになりました。

一部の観察研究などで効果を示唆する報告もありましたが、データの信頼性や試験のデザインに不備があるものが多く、最終的な科学的合意には至りませんでした。

 

 

デマを拡散する層は宗教じみた手法が目立つから困る

誤情報や極端な主張を広める集団に見られる手法は、心理学や社会学の観点からも、新興宗教やカルトが用いるドグマ(教義)的なアプローチと多くの共通点があることが指摘されています。

科学的な根拠や客観的な事実よりも、信じるか信じないかという「信念」や「対立構造」を強調するため、外部からの説得や修正が極めて難しくなる特徴があります。

宗教的手法との共通点

デマを拡散するコミュニティやその中心人物が用いる典型的な手法には、以下のような特徴があります。

善悪の二元論と陰謀論: 「真実を隠蔽する利権団体(悪)」と「それに立ち向かう自分たち(善)」という単純な対立構図を作り出し、フォロワーの正義感を刺激します。

絶対的な指導者の存在: カリスマ的なインフルエンサーや、特定の肩書を持つ専門家が教祖的な存在となり、その発言が検証なしに信じ込まれます。

信者間の連帯感と排他性: SNS上で同じ思想を持つ者同士が強く結びつく一方で、異論を唱える者を「目覚めていない人」「洗脳されている人」として排除し、コミュニティ内の結束を高めます。

事実の修正が困難な理由

このような心理的基盤ができあがると、客観的なデータや科学的な検証結果を提示しても、効果を発揮しにくくなります。

彼らにとって不都合な事実が示された場合、それを「敵による工作」や「情報操作」として解釈を歪めてしまうため、批判されればされるほど逆に信仰心が深まるような悪循環に陥ります。

社会的な課題

こうした手法によって広がる誤情報は、単なる個人の好みの問題にとどまらず、公衆衛生の妨げや社会の分断を招く深刻な課題となっています。

感情的な対立を煽るメッセージほどSNS上で拡散しやすいというアルゴリズムの特性も相まって、論理的な議論が成り立たない層への対処は現在も世界的な難問となっています。

 

 

デマの拡散に対抗してくれたから私は評価する

コロナ禍における情報発信において、科学的な根拠に基づかないデマや誤情報の拡散を防ごうとした姿勢に対して、肯定的な評価をする視点があります。

一方で、医療従事者や専門家による発信であっても、表現の方法によっては法的な責任を問われるリスクがあることが今回の裁判で示されました。

誤情報への対抗と専門家の役割

パンデミックの初期から中期にかけては、根拠の薄い治療法や予防法がSNSなどを通じて急速に拡散し、社会的な混乱を招くケースが相次ぎました。

このような状況下で、公衆衛生の観点から科学的な事実や治験データを分かりやすく発信し、不正確な情報の広がりを抑えようとした専門家の活動は、多くの人々に信頼感や安心感を与えた側面があります。

表現の妥当性と法的な判断

しかし、いくら発信の目的が「誤情報の是正」や「公益の追求」であったとしても、批判の対象となる個人への表現が行き過ぎた場合、法律上は「侮辱」や「名誉毀損」と判断されることがあります。

今回の東京地裁の判決は、議論の内容そのものの成否ではなく、公の場での比喩や揶揄の表現が相手の名誉感情を不当に傷つけたかどうかが争点となりました。

科学的な論争や誤情報への反論を行う際にも、個人の人格を尊重した客観的かつ慎重な言葉選びが求められるという点が、この裁判の重要な教訓となっています。

 

 

逆に大阪大学大学院の忽那賢志教授に対する誹謗中傷もありそう

新型コロナウイルスの感染対策やワクチン接種について積極的な情報発信を行ってきた忽那賢志教授に対しては、パンデミック初期から非常に激しい誹謗中傷や脅迫行為が行われてきたことが分かっています。

科学的な知見を伝える専門家が、感情的な反発や陰謀論の標的となり、法的な対抗措置を講じる事態にまで発展しています。

忽那教授への誹謗中傷の具体例

忽那教授は自身のSNSやメディアを通じて、ワクチンの有効性や変異株の危険性についてデータに基づいた発信を続けてきました。しかし、これに対する反発として、以下のような悪質な行為が相次いで報告されています。

ネット上での人格否定や暴言: SNSの返信欄や掲示板において、医学的な議論とは無関係な罵詈雑言や「人殺し」といった過激な言葉が投げつけられました。

殺害予告や脅迫: 自身や家族の身の安全を脅かすような具体的な脅迫メッセージが送られるケースもありました。

職場への嫌がらせ: 勤務先である大阪大学病院などに、抗議や嫌がらせの電話が殺到するなどの業務妨害が発生しました。

専門家を取り巻くリスクと対抗措置

こうした事態を受け、忽那教授をはじめとする一部の医療関係者は、悪質な誹謗中傷に対して発信者情報開示請求や損害賠償請求などの法的措置を進めています。

科学的な議論や批判の枠を超えた容姿の揶揄、人格攻撃、事実無根の悪評の流布は、明確な名誉毀損や侮辱罪、業務妨害罪に該当する可能性が高いためです。

議論の二極化と双方への影響

今回の裁判では、忽那教授側の表現が「侮辱」と判断されましたが、その背景には、長年にわたり過酷な誹謗中傷に晒され続けてきたことによる論争の過熱や、感情的な対立の深まりがあったことも指摘されています。

デマや誤情報に対抗する側も、それを拡散する側も、匿名性の高いSNS空間において過激な言葉をぶつけ合う構造が生み出されており、医療専門家が安心して正しい情報を発信できる環境をいかに守るかという課題も浮き彫りになっています。

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