中東を見ればアメリカに余裕がないことがわかる。中東ではイスラエルが楔になっていた。しかし今後は中東諸国もアメリカとイスラエルに同調するだろう
中東を見ればアメリカに余裕がないことがわかる
中東情勢はまさにアメリカの「余力のなさ」を映し出す鏡となっています。かつてはイスラエルを絶対的な楔(拠点)として地域をコントロールしていましたが、現在のアメリカはその負担に耐えかねており、アラブ諸国に対しても「イスラエルと関係を正常化し、地域全体の防衛を肩代わりせよ」という圧力を強めています。
しかし、中東諸国がアメリカやイスラエルに素直に同調するかというと、現実の情勢はそう単純ではありません。民間レベルの激しい反発や、パレスチナ問題をめぐる利害の一致が見られないため、各国はアメリカの要求に距離を置きつつ、独自の生存戦略に動き始めています。
トランプ政権は、サウジアラビアやカタール、トルコなどの主要国に対し、イスラエルとの国交を正常化する「アブラハム合意」への参加を強く迫っています。
トランプ氏は「これらの国はアメリカに恩があるのだから、合意への署名は義務だ」とまで強弁していますが、これは裏を返せば、アメリカ単独ではイランなどの対抗勢力を抑え込む余裕がなく、アラブ諸国にその役割を押し付けたいという焦りの表れです。
アメリカの要求に対し、中東の主要国は沈黙、あるいは拒絶の姿勢をとっています。簡単に同調できない理由は主に2つあります。
- 国内世論の反発:
ガザ地区をめぐる長期にわたる衝突と多くの犠牲者を見たアラブの民衆の間では、反イスラエル感情がかつてないほど高まっています。指導者層がアメリカに同調してイスラエルと手を結べば、自国内での政権の正統性が揺らぎかねません。 - パレスチナ国家樹立という条件:
サウジアラビアなどは、イスラエルとの正常化の絶対条件として「独立したパレスチナ国家の樹立に向けた明確な道筋」を求めています。しかし、イスラエル右派政権がこれを受け入れる見込みは薄く、交渉は平行線をたどっています。
アメリカの余力がなくなり、イスラエルへの同調もできない中、中東の国々は「アメリカ抜きの生存戦略」に動き出しています。
現在、サウジアラビア、エジプト、トルコ、パキスタンの4カ国(軍事バランスに優れた主要国)の間で、非公式な安全保障の枠組み(クアドラテラル・アライアンス)を構築する動きが見られます。
これは、アメリカやイスラエルの戦略に巻き込まれることを避けつつ、地域独自のパワーバランスを維持して自国を守ろうという、極めて現実主義的な選択です。中東諸国は同調するどころか、アメリカ離れを視野に入れた「自立の準備」を始めています。
対ロシアにはEU、対中国にはアジア諸国、という構図
その通りです。現在のアメリカが描いている世界戦略の基本構図は、まさに「対ロシアはヨーロッパ(EU・NATO)に任せ、対中国はアジア諸国に任せる。アメリカはその両方を後ろから支えつつ、自国の国益を最優先する」という形です。
アメリカ1国で世界の東西の脅威(二正面作戦)を同時に引き受ける余裕がなくなったため、地域ごとの「下請け」あるいは「分業制」へシフトさせていると言えます。
アメリカが同盟国に強いる分業体制は、それぞれの地域で明確に進められています。
- 対ロシア(ヨーロッパ):
アメリカは「ウクライナ支援や欧州防衛の主役はEUと欧州NATO加盟国であるべきだ」としています。欧州諸国に対して防衛費の基準をさらに引き上げるよう圧力をかけ、自立を促しています。 - 対中国(アジア諸国):
今回のシャングリラ対話でヘグセス国防長官が示したように、日本、韓国、オーストラリア、フィリピンなどの周辺国が自ら防衛能力を高め、中国の拡大を阻止する最前線に立つことを求めています。
この構図において、アメリカは最前線で血を流す「主役」の座から降下しようとしています。
アメリカの役割は、高度な核の傘(抑止力)や最新の軍事技術(AUKUSを通じた潜水艦技術など)を提供することにとどめ、実際の通常兵器による防衛やコストの大部分は、それぞれの地域の当事国に負担させるという戦略です。
この「EUにロシアを、アジアに中国を」という構図は、アメリカにとっては合理的ですが、同盟国にとっては非常に不安定なものです。
ヨーロッパもアジアも、アメリカという絶対的な存在が引くことで、地域内の国々の足並みが乱れるリスクを抱えています。アジア諸国がアメリカの思惑通りに一枚岩となって中国に対抗できるかどうかは不透明であり、各国はアメリカの「余裕のなさ」によって生じた安全保障の空白を、自国の軍拡や独自の外交交渉で埋めざるを得ない状況に追い込まれています。

コメント