ロシアの専制や経済困窮を嫌い、自由で豊かな西側に属したい
NATO東方拡大の背景には、西側諸国の戦略的意図だけでなく、東欧諸国自身の主体的な選択が大きく関わっています。
冷戦期にソ連の影響下に置かれていた中央・東欧諸国(ポーランド、チェコ、ハンガリー、バルト三国など)は、ソ連による支配を「抑圧の歴史」として記憶しています。そのため、
- 民主主義・法の支配・表現の自由などの価値観を共有するNATO・EUへの加盟は、安全保障と価値観の選択でもありました。
- ロシアが現在も強権的体制を続け、隣国への軍事圧力を行使していることが、彼らの恐怖と警戒をさらに強めています。
つまり、「NATOが押し広げた」のではなく、「ロシアの支配を再び受けたくない国々」が自ら西側へ近づいたという構図が現実に近いです。
ジョン・ミアシャイマーはNATOの東方拡大を批判
ジョン・ミアシャイマーはアメリカの外交政策に対して批判的な立場を取っていますが、それは嫌悪感からではなく、攻撃的リアリズムの観点からアメリカが取るべき戦略を理性的に分析した結果です。彼は特にNATOの東方拡大やウクライナ情勢でのアメリカの行動を批判し、これがロシアの反発を招き、国際的な安全保障環境を悪化させたと考えています。ミアシャイマーはアメリカの介入主義やリベラルな外交政策に懐疑的で、アメリカ自身の国益に見合った現実的で抑制的な外交戦略を推奨しています。
NATO加盟は希望国の自主的意思に基づくもの
旧ソ連の衛星国や東欧諸国がロシアを避けてNATOに加盟した背景には、ソ連崩壊後の政治的自由化を求める市民感情や経済面での困窮、そして専制的なロシアからの安全保障上の懸念があります。これら諸国は冷戦時代のソ連支配下での軍事的・政治的抑圧から脱して、西側の自由と民主主義、市場経済に属することを望みました。NATOは本来、旧ソ連圏の国々に対して「門戸開放政策」を採り、東欧の安全保障の安定化と民主化支援を目指す集団防衛組織として東に拡大しました。1990年代から2000年代にかけてポーランド、ハンガリー、チェコ、そしてバルト三国などが次々とNATOに加盟しています。
この拡大はロシアに強い不安と反発をもたらしましたが、NATO自身は加盟は希望国の自主的意思に基づくものであり、ロシアが他国の軍事同盟加入を制限する権利は国際法上認められていないと立場を示しています。ただし、1997年にNATOとロシアは一定の軍事配備制限などを盛り込んだ基本文書に署名し、緊張緩和を図ろうとしました。
まとめると、東欧諸国のNATO加盟はロシアからの抑圧や専制への反発、自由と安全保障を求める国民感情に根差しており、NATOの東方拡大はそれに応じた国際安全保障の変化の一環です。このため「NATOの東方拡大」が直接的要因ではなく、旧ソ連圏諸国の意志と安全保障上の必要性が背景にあるという解釈は史実と符合します。

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