ダークファイバーとは
ダークファイバーとは、通信事業者が敷設した光ファイバー網のうち、未使用のまま光(通信信号)が通っていない(暗い)回線のことです。主に事業者や企業向けに貸し出されており、低コストで広帯域な専用網を構築できるメリットがあります。
特徴と仕組み
光ファイバーケーブルは、敷設工事のコストを抑えるため、将来の需要増を見込んであらかじめ多めに敷設されます。このうち、通信事業者が自社サービスで運用している回線を「ライトファイバー(点灯回線)」と呼び、余った状態で敷設されている回線を「ダークファイバー(消灯回線)」と呼びます。
主な利用目的とメリット
- 独自のネットワーク構築
利用者が自前で送受信装置(ルーターやスイッチなど)を用意して光を通すため、通信速度やプロトコルを自由に設計できます。 - コストの削減
通信事業者が提供する一般的な専用線サービスを利用するよりも、帯域あたりの利用料金を安く抑えられる場合があります。 - 大容量・低遅延通信
他者と回線を共有しない占有回線となるため、混雑の影響を受けにくく、安定した高速通信が可能です。
主な提供事業者と用途
- NTT(東日本・西日本)などの電気通信事業者や、電力会社系の通信事業者が貸し出しを行っています。
- 主に大手企業の本社・事業所間通信、データセンター間の接続、地方自治体の情報ネットワーク、新興のインターネットプロバイダ(ISP)のバックボーン回線などで活用されています。
工事費や手間のコストが圧倒的に大きいため多めに敷設
将来の需要増を見込んで光ファイバーをあらかじめ多めに敷設する理由は、回線そのものの材料費よりも、工事費や手間のコストが圧倒的に大きいためです。1本だけ引くのも100本まとめたケーブルを引くのも作業コストはほぼ変わらないため、あらかじめ余分に敷設しておくのが合理的とされています。
多めに敷設する主な理由
- 工事コストの削減
道路の掘削、電柱への敷設、作業員の確保といった工程には莫大な費用がかかります。後から不足して再度工事を行うよりも、最初の段階で多芯(多数の光ファイバーを束ねた)ケーブルをまとめて引き込む方が、トータルのコストを大幅に抑えられます。 - 需要変化への迅速な対応
企業向け専用線やデータセンター間の接続需要、あるいは移動体通信(5Gなど)の基地局増加など、後から突発的な通信需要が発生した場合でも、すでに敷設してあるダークファイバーを活用すれば、追加の土木工事なしで素早く回線を提供できます。 - 障害時の予備回線確保
万が一、運用中の回線(ライトファイバー)に断線や劣化などの障害が発生した場合でも、同じケーブル内にある未使用のダークファイバーへ切り替えることで、迅速に通信を復旧させることができます。
ドットコムバブル後の光ファイバー稼働率はわずか2.7%だった
2000年代初頭のドットコムバブル崩壊直後、世界中で大量に敷設された光ファイバーのうち、実際に通信データが通っていた割合(稼働率)はわずか数パーセント(一般的に1〜5%程度、説によっては約2.7%)に過ぎず、深刻な供給過剰状態にありました。
この莫大な供給過剰は通信事業者の相次ぐ破綻を引き起こした一方で、超低価格での帯域利用を可能にし、後のブロードバンド普及や巨大IT企業の急成長を支える物理的インフラとなりました。
光ファイバー過剰敷設の背景と結果
投機的資金の流入と過剰投資
1990年代後半、インターネットの爆発的普及に伴い「通信トラフィックは毎年何倍にも跳ね上がる」という予測のもと、大手通信事業者や新興キャリア(ワールドコム、グローバル・クロッシング、エンロンなど)が巨額の資金を投じて全米および海底に光ファイバー網を敷設しました。
波長分割複用(WDM)技術の進化
敷設と同時に、1本の光ファイバーに複数の異なる波長の光を同時に伝送するWDM(Wavelength Division Multiplexing)技術が飛躍的に進化しました。これにより、物理的に埋設された光ファイバーケーブル1本あたりの通信容量が当初の想定以上に拡大し、供給過剰に拍車をかけました。
「ダークファイバー」の大量発生
光ファイバーケーブル自体は敷設されたものの、両端に通信機器(送信機・受信機)が接続されず、信号が通っていない状態の光ファイバーは「ダークファイバー」と呼ばれました。2.7%という数字は、敷設された光ファイバー全体のうち、実際に信号が通っていた「ライトファイバー」の割合を示しています。
業界の崩壊と長期的影響
- 通信事業者の破綻
投資回収ができなくなった多くの通信会社が破産申請に追い込まれ、通信セクターの時価総額は数兆ドル規模で消失しました。 - 通信コストの劇的な低下
破綻処理の過程で光ファイバー資産が破格の安値で再編・売却された結果、大容量通信のコストが極限まで下がりました。 - その後のデジタル経済の基盤
この過剰投資によって構築された安価で広大な通信網が、2000年代半ば以降のYouTubeや動画配信サービス、クラウドサービス、GAFAに代表されるWeb2.0時代の急成長を足元から支えるインフラとなりました。
アメリカでの光ファイバー敷設は1980年代から
アメリカでの光ファイバー敷設は2000年ごろに突然始まったわけではなく、1980年代から主要都市間や海底ケーブルなどの「幹線網(バックボーン)」を中心に段階的に進められていました。
それが1990年代後半から2000年にかけて、規制緩和とインターネット需要の爆発的な拡大予測を背景に過熱化し、超大規模な投資と過剰敷設へとなだれ込みました。
アメリカにおける光ファイバー敷設の歴史的経過
1980年代:長距離・幹線網での導入開始
1980年代前半、AT&Tなどの大手通信会社が都市間を結ぶ長距離幹線網に光ファイバーを導入し始めました。また、1988年には大西洋を横断する初の光海底ケーブル(TAT-8)、1989年には太平洋横断ケーブル(TPC-3)が敷設され、国際通信の主軸が銅線や衛星から光ファイバーへ移行していきました。
1996年:1996年電気通信法による競争激化
1996年にアメリカで「電気通信法(Telecommunications Act of 1996)」が成立し、通信市場の参入規制が大幅に緩和されました。これにより、新興の通信事業者(CLEC:競合ローカル交換キャリア)が多数参入し、自前の光ファイバー網を敷設してシェアを競い合う乱立状態が生まれました。
1990年代後半〜2000年:バブル期の過剰投資
「インターネットのトラフィックは100日ごとに倍増している」という過剰な予測が市場で信じ込まれ、巨額の資金が光ファイバー敷設に流し込まれました。この時期、米国内の都市間だけでなく、データセンター同士を結ぶネットワークや全米を覆う地下パイプラインの中に競ってケーブルが埋設されました。
2000年代半ば以降:一般家庭への普及(FTTH)
2000年ごろまでの光ファイバー敷設は、主に「都市間」や「企業・基地局間」を結ぶバックボーンが中心でした。
バブル崩壊後の2000年代半ば(2004〜2005年ごろ)から、ベライゾン(Verizonの「FiOS」サービス)などの大手キャリアが、一般家庭まで直接光ファイバーを引く「FTTH(Fiber to the Home)」の本格展開を開始しました。

コメント