「中国は今は電気が余って廃棄」というのは誇張。火力発電を無くしてから言うべき

2025年11月18日 4年前には電力不足で計画停電。今は電気が余って廃棄電力が問題に。中国の発電事情

中国の電力構造の急変
2021年当時、中国では石炭火力の抑制と再生可能エネルギー(再エネ)転換を急速に進めた結果、全国的な電力不足と計画停電が発生していた。石炭火力を止めた一方で、水力・風力・太陽光といった再エネの電力貯蔵インフラ(蓄電施設)が整っておらず、天候依存による供給不安定さが発生していた。

さらに、石炭炭鉱の閉鎖によって燃料供給が不足し、発電能力が低下。政府の強力なCO2削減策で2030年ピークアウト目標を5年前倒しして2024年3月に達成したが、短期的にはエネルギー供給の逼迫を招いた。

電力余剰と「廃棄電力」問題
2024年以降、状況は一変した。再エネ発電設備と送電インフラが整備され、特に「西電東送」(西部から東部への大規模送電)プロジェクトが進展。これにより発電量が使用量を上回り、2025年には電気の「余剰」現象、すなわち廃棄電力(使い切れずに捨てられる電力)が新たな問題となった。
2025年上半期の風力発電廃棄率は5.7%、太陽光発電廃棄率は6.6%に達している。

西高東低の構造的問題
再エネ発電の主力が砂漠地帯などの西部地域に偏り、消費が集中する東部との差が依然として大きい。西部では余剰電力が発生し、東部では需要が集中するという「構造的ミスマッチ」は未解消だ。そのため中国政府は、西部にデータセンターや電力多消費型産業(半導体、化学など)を誘致し、地産地消を促進している。

分析的視点
この記事が示す本質は、中国が「再エネ偏重→停電危機→過剰発電」という極端な両極をわずか4年で経験し、国家主導のエネルギー転換がいかに巨大な調整コストを伴うかを浮き彫りにしている点だ。
つまり「グリーン転換の急加速」は、環境目標を前倒しで達成させた一方、電力インフラの柔軟性と需要バランスの設計を置き去りにした典型的事例といえる。

要約すれば、中国は再エネ主導体制の整備に成功したが、過剰発電と地域間の送電格差という新たな「再エネ時代の副作用」に直面している。

 

 

現在の中国の発電の種類

発電設備容量と各発電種類の割合
2025年時点で中国の総発電設備容量は約3.7TW(テラワット)に達し、そのうち再生可能エネルギーが過半数を超えている。

再生可能エネルギーの内訳は、太陽光発電が約1.12TW(1,120GW)、風力発電が約0.58TW(580GW)、水力発電は約420GW。バイオマスも含まれるが割合は小さい。

このため、太陽光と風力は主要な新規設備の91.5%を占め、発電量においても全国の約40%を占めている。

火力発電(石炭、天然ガス、石油)
火力発電は依然として中国の主力電源であり、発電量全体の約60-67%程度を占めるが、その設備容量は約1.44TWと再エネにわずかに及ばない。

石炭火力は環境政策の影響で抑制されているが、依然として安定した基幹電源として位置づけられている。

原子力発電
原子力発電設備容量は約70GW(2025年目標)であり、建設や技術開発が進められている。

高度な原子炉技術の実証試験なども進行中であり、安定したベースロード電源としての役割が期待されている。

そのほかの再生可能エネルギー
水力発電は依然として重要で、特に揚水発電を含めて約420GWの設備容量がある。

バイオマスや地熱、太陽熱なども導入されつつあり、政策目標により2025年以降も拡大が続く見込み。

まとめ
中国の発電構成は、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力)が設備容量の半分以上を占め、特に太陽光と風力の急速な設備増強が著しい。火力発電は減少傾向にあるものの、依然として発電量の主要部分を担い、原子力も拡大中である。

この構造は中国の環境政策とエネルギー安全保障戦略を反映しており、地域間の送電インフラ整備や蓄電技術の導入が重要な課題となっている。

 

 

「今は電気が余って廃棄されている」という表現はやや誇張がある

現状の中国の発電構成
中国は2025年に再生可能エネルギーの発電量が全体の約50%に達すると予測されているが、依然として火力発電(特に石炭火力)が大きな割合を占めている。火力発電は発電総量の約40~50%程度を維持しており、実質的なベースロード電源として稼働中だ。

廃棄電力の実態と原因
廃棄電力(使い切れずに捨てられる電気)が問題として顕在化しているのは、主に風力・太陽光などの再生可能エネルギーの発電量が一時的に供給過剰となる地域での課題である。特に西部地域で再エネが余り、それを東部の需要に十分送電し切れていない構造的ミスマッチがある。

しかし、この廃棄電力は火力発電を完全に廃止した結果ではなく、火力発電が依然として動いているなかで起きる需給調整の問題だ。火力発電を減らす方向に進んでいるものの、太陽光や風力の出力変動を即座に完全吸収できる電力網や蓄電インフラがまだ不十分であるため、発電所の停止や出力抑制が必要となり、結果として廃棄電力が発生している。

結論
火力発電をなくしてから「電気が余って廃棄される」と言うべき、という指摘は確かである。現時点では火力発電を含む多様な電源が稼働しているため、廃棄電力問題はあくまで再エネ導入過程での技術的・インフラ的な課題の一つに過ぎない。

このため「今は電気が余って廃棄が問題」と言う際は、「火力発電が並行して動いているなかで再生可能エネルギーの出力調整に伴う課題」として理解すべきだ。

つまり火力発電の完全代替・廃止が実現し、且つ安定した送電と蓄電能力が整わない限り、廃棄電力問題は改善しにくい構造的課題といえる。

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