2025年10月08日 「恵まれた環境に文明は生じない」日本で高度な文明が生まれなかった背景
- この記事は、東京大学名誉教授・本村凌二氏による「日本でなぜ四大文明のような高度な文明が生まれなかったのか」を考察した論考であり、その結論は「恵まれすぎた環境」こそが理由であるというものです。以下に内容を要約します。
文明の定義と日本の位置づけ
- 文明を特徴づける要素の一つは「文字の発明と使用」である。
- 四大文明ではそれぞれ独自の文字が生まれたが、日本には漢字伝来以前に独自の文字がなかった。その代わり、縄文時代には非常に古い土器文化が存在しており、青森県の大平山元遺跡では約1万6千年前の土器が出土している。これは世界最古級でありながら、その時期の日本では高度な都市文明が形成されなかった。
文明発生の鍵は「乾燥化」
- 世界の文明が誕生した地域では、紀元前5000年頃から地球規模の乾燥化が進行していた。
- アフリカ北部の「グリーンサハラ」もこの頃に乾燥化し始め、人々が水を求めて大河周辺(ナイル川・チグリス・ユーフラテス川・インダス川・黄河)へ移動した。
- 乾燥化により限られた水資源を有効に使う必要が生まれ、そこから農耕技術・灌漑システム・都市の形成・文字の発明が進展。文明は、環境的逆境に対応するための知的・社会的工夫の産物であった。
日本に文明が発生しなかった理由
- 日本列島は豊富な降水量と森林・河川に恵まれた地域で、乾燥化がほとんど進行しなかった。
- そのため、灌漑や水管理のための高度な社会システムを構築する必要がなかった。人口も水を求めて集中することが少なく、分散した小規模な集落が安定して存続した。
- 結果として、日本では縄文時代が1万年以上も続き、社会的変化や都市国家の形成が遅れたと考えられる。
豊かさの裏にある停滞
- 日本では稲作が伝わっても水利は容易に確保できたため、灌漑技術の発達を促す圧力がなかった。豊かすぎる水環境はむしろ湿気や腐敗といった問題をもたらし、古代の人々は高床式倉庫や校倉造(正倉院など)のような湿気対策の工夫で対応した。
- つまり、「水に恵まれたこと」が、結果的に文明化を遅らせた要因である。
文明とは「困難を克服しようとする人間の知恵」の結晶であり、日本のように自然が豊かで生存に工夫を要しなかった地域では、文明が生じにくかったというのが本村氏の主張である。
人類はどのようにして繁栄し続けてきたのか?
- 250万年前、人類は弱かったため主に虫や骨髄を食べて飢えを凌いでいた
- 30万年前、人類は火の登場により、食物連鎖の頂点に立つことになる
- 7万年前、認知革命によってホモサピエンスは目に見えない架空の物事を信じることができるようになった
- 3万年前、ホモサピエンスは大勢の群れを作り、他の人類を滅ぼした
- 1万2000年前、農業革命によって狩猟をやめて農業を始めたことで人口が爆発的に増えた
- しかし農耕を始めると「過労」「病気」「栄養失調」などで早死にするようになる
- 5000年前、人類はお金と宗教と帝国という3つの大きな概念を築き上げる
- 500年前、アメリカ大陸の発見により、人類は無知であることを認め、みんなが科学に関心を持つ科学革命が起こる
- これによって未来や科学にお金を投資する資本主義が台頭してくる。200年前、産業革命が起こり、資本家が工場を作り、労働者が時間で働くようになる。
- そして今がある。
ホモ・サピエンスが爆発的に繁栄している勝因は3つの革命
- 認知革命
- 科学革命
- 農業革命

この本はホモ・サピエンスの歴史を石器時代から現代まで自然科学や進化生物学の視点も取り入れて概観しています。
- 本書は大きく4つの部分に分かれており、まず「認知革命」(約7万年前に想像力が生まれ、現代的行動の始まり)を解説します。これによりサピエンスは柔軟に多数で協力できる唯一の動物として世界を支配し、他の人類や動物を絶滅させることになりました。
- 次に「農業革命」(約1万年前)、狩猟採集をやめ農業を始めたことで人口が爆発的に増加しましたが、一方で食生活の多様性や生活の質が低下したことも指摘されています。
- 続いて「人類の統一」では、宗教・貨幣・帝国といった虚構の概念が大規模な社会的協力を可能にし、グローバル化の過程を描きます。
- 最後に「科学革命」(約500年前の近代科学の出現)により、客観的な知識に基づく技術・産業の発展がもたらされ、現代の世界が形成されたと解説しています。
このように『サピエンス全史』は、人類の歴史的な歩みを通して文明の構造や人類の幸福というテーマを深く掘り下げている名著です。

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