中国は「善意で助けても逆に損をする」
2006年の南京「彭宇事件」は、2006年11月20日に中国・南京市のバス停で転倒した65歳の徐寿蘭という女性を、当時26歳の彭宇さんが助けて病院に連れて行き、治療費まで立て替えたにもかかわらず、その後、徐寿蘭が彭宇を事故の加害者として訴え、約13万元の損害賠償を求めた民事訴訟事件です。
この事件は「彭宇事件」として中国社会で大きな話題となり、裁判では「彭宇が最初に車から降りたため、事故の責任がある可能性が高い」と一審判決で認定されました。裁判所は「本当に善意の行動ならばぶつかった相手を捕まえるはずだ」との理屈を使い、彭宇に対し賠償金の支払いを命じました。結果的に双方は和解し、彭宇は一定の賠償金を支払ったと伝えられています。
この事件は中国社会に「善意で助けても逆に損をする」という恐怖を生み、助け合いの道徳意識の低下を招いたと批判されています。多くの人が「助けたいが助けられない」状況が生じ、社会的信用危機やモラルの後退を象徴する事件となりました。裁判所の判決は多くの法学者からも疑問視され、証拠より「常理」による判断が際立ったことが問題視されています。
まとめると、この南京の彭宇事件は、助けた相手に逆に損害賠償を求められたことで中国社会の善意や道徳観に混乱をもたらし、社会問題として深刻な影響を与えた事件です。
交通事故が起きても被害者を助けずに通り過ぎる
中国で交通事故が起きても被害者を助けず通り過ぎるケースが多い背景には、法的・社会的な事情が深く関わっています。まず、2006年の南京「彭宇事件」のように、助けた側が逆に損害賠償請求されるリスクが社会に広まったことで、人を助けることに対する恐怖心や躊躇が強まりました。多くの人が事故現場で助けることを避け、転倒や事故の被害者を見捨てる傾向が強まっています。
加えて、中国の救急医療システムは救急車の有料化や前金支払いが一般的であり、現場での迅速な救助や治療開始が難しい状況にあります。救急隊員の対応も必ずしも十分とはいえず、被害者の負傷状況をきちんと確認せずに雑に扱われる事例も報告されています。
社会的には、助けた人が法的責任を負わない旨の法律が2017年に整備されましたが、依然として市民の間に助けることへの不信感やためらいが根強く残っています。このような事情が重なり、交通事故の被害者が助けられず通り過ぎられてしまう現状につながっています。
まとめると、「彭宇事件」に代表される助けた人への損害賠償請求リスク、救急医療制度の問題、社会全体の助け合いモラルの低下が複合的に影響し、中国では交通事故の被害者が助けられずに置き去りにされるケースが多発しているのです。
