今後は中国がワイヤーハーネス企業のランキングを塗り替えていく

世界のワイヤーハーネスのメーカーランキング

最新の市場データに基づいた、ワイヤーハーネスの世界シェアおよび主要メーカーのランキングを解説します。

世界のワイヤーハーネス主要メーカーランキング(2025年時点)

ワイヤーハーネス業界は「日本勢」が極めて高いシェアを維持しているのが特徴です。上位3社で世界市場の過半数を占める寡占状態にあります。

順位 企業名 本拠地
市場シェア
(概算)
1位 矢崎総業(Yazaki Corporation) 日本 約24〜28%
2位 住友電気工業(住友電装) 日本 約23〜26%
3位 アプティブ(Aptiv / 旧デルファイ) アイルランド 約15〜20%
4位 レオニ(Leoni AG) ドイツ 約5〜6%
5位 リア(Lear Corporation) アメリカ 約4〜5%
6位 古河電気工業 日本 約2〜3%

各メーカーの特徴と動向

上位各社は、単純な「電線の束」から、EVや自動運転に対応した高度なシステムへの転換を急いでいます。

  • 1位:矢崎総業(日本)
    世界最大のシェアを誇る非上場企業です。圧倒的な供給網とコスト競争力を持ち、トヨタをはじめとする世界中の自動車メーカーに供給しています。現在は、高電圧ハーネスやアルミ電線による軽量化技術に注力しています。
  • 2位:住友電気工業・住友電装(日本)
    住友電工グループとして、材料(銅線)から電子部品まで垂直統合しているのが強みです。2026年に向けて、データ伝送を高速化する「光ハーネス」の実用化をリードしており、技術力では世界トップクラスと評価されています。
  • 3位:アプティブ(アイルランド)
    旧デルファイの電子部門が独立した企業です。ハードウェア(ハーネス)よりも、車両の脳にあたる「アーキテクチャ」やソフトウェアに強みを持ち、テスラのような配線削減(ゾーンアーキテクチャ)の提案を得意としています。
  • 4位:レオニ(ドイツ)
    欧州メーカー(ベンツ、BMW、VWなど)に強い地盤を持ちます。一時期経営難に陥りましたが、現在は中国企業の支援や事業売却を経て、欧州のEVシフトに向けた高付加価値製品に特化する動きを見せています。

市場全体の潮流

2024年から2026年にかけての大きな変化として、以下の2点が挙げられます。

  1. 中国メーカー(BYDの関連会社や立訊精密など)の台頭です。これまでは日米欧のメーカーが独占していましたが、中国国内のEV生産拡大に伴い、急速に存在感を高めています。
  2. アルミ化と光ファイバー化です。銅の価格高騰とEVの航続距離アップ(軽量化)の要求から、日本勢(特に住友と古河)が得意とする「アルミ電線」への置き換えが加速しています。

 

 

中国企業がいないのは意外

中国企業がランキングの上位(トップ5)に現れてこないのは、現在のワイヤーハーネス業界特有の構造と、中国企業の「戦略の違い」が関係しています。

専門的な視点から、その背景にある「3つの理由」を解説します。

1. 独占的な供給体制(系列の壁)

ワイヤーハーネスは、車の設計段階から自動車メーカーと二人三脚で開発される「超・密着型」の部品です。

日本の矢崎総業や住友電装、アメリカのアプティブなどは、数十年にわたり世界の主要メーカーと深い信頼関係(系列や長期契約)を築いています。この「入り込む隙のなさ」が、中国企業がグローバルシェアを一気に奪う際の大きな障壁となっています。

2. 中国企業の「買収による進出」戦略

中国企業は自社ブランドを育てるよりも、既存の海外有力メーカーを「買う」ことで一気に勢力を拡大する戦略をとっています。

例えば、iPhoneの組み立てで有名な中国の「立訊精密(ラックスシェア)」は、2024年に世界4位(ドイツ)の「レオニ(LEONI)」の株式を50.1%取得し、実質的な支配下に置きました。

統計上、レオニは「ドイツ企業」として集計されることが多いですが、その実態は中国資本による運営へと移行しつつあります。これにより、ランキングの「名前」には出てこなくても、中国の影は着実に大きくなっています。

3. 国内需要への集中と中堅企業の乱立

中国には「天海集団(THBグループ)」などの有力なハーネスメーカーが存在しますが、これまでは巨大な中国国内市場(BYDや奇瑞汽車など)への供給だけで手一杯という状況でした。

また、中国国内には数千社の小規模なハーネス業者が乱立しており、一社あたりの規模が世界ランキングに載るほど巨大化していなかったという事情もあります。

今後の展望:2026年以降の勢力図

今後は、以下の2つのルートで中国企業がランキングを塗り替えていくと予測されます。

  1. 資本による再編: 前述のラックスシェアのように、欧米の老舗メーカーを買収して傘下に収める。
  2. EV専用ハーネス: 既存の勢力図が及ばない「新興EVメーカー」向けに、次世代の高電圧ハーネスを一気に普及させる。

中国企業は、従来の「銅線の束」を作るビジネスよりも、より利益率の高い「電子制御ユニット」や「自動運転用通信部品」としてのハーネスに軸足を置いています。

 

 

中国メーカーの具体的な買収劇や、それに対する日本勢の対抗策について

それでは、中国企業の台頭に対する日本勢、特に住友電装や矢崎総業の対抗策と、今後の業界構造の変化について解説します。

日本勢の対抗策:材料工学と「光」へのシフト

中国企業がコスト競争力と資本力(買収)で攻勢をかける中、住友電装を中心とした日本勢は、一歩先を行く「材料技術」で差別化を図っています。

最大の武器は「アルミ電線」です。銅よりも安価で軽いアルミを電線に使うには、接続部の腐食を防ぐ高度な端子技術が必要ですが、これは住友電装が世界をリードしている分野です。車体が重くなりがちな電気自動車(EV)にとって、この軽量化技術は中国勢に対する強力なアドバンテージとなっています。

また、2026年の実用化を目指す「光ハーネス」も重要な戦略です。信号を光で送る技術は、ノイズ対策と高速通信を両立させるため、中国の安価な銅線ハーネスでは代替できない付加価値を生み出します。

中国企業の「垂直統合」と日本勢の「システム提案」

中国のBYDなどは、ハーネスから電池まで自社で作る「垂直統合」により、圧倒的なスピードとコストを実現しています。

これに対し、住友電装は「システムサプライヤー」への脱皮を急いでいます。単に指定された電線を納めるのではなく、車両全体の電気の流れを最適化する「電子制御ユニット(ECU)」を含めたパッケージで提案する形です。

これにより、たとえハーネスの一部が中国製に置き換わったとしても、車両の「神経系全体」をコントロールする上流工程を握り続ける戦略をとっています。

2026年以降の勢力争いの焦点

今後の注目点は、テスラなどが進める「配線の自動組み立て」を誰が実現するかです。

これまでのハーネス製造は、複雑な形状ゆえに「人の手による手作業」が中心でした。中国企業は豊富な労働力でこれに対応してきましたが、住友電装はハーネスを「基板のようにフラットにする」ことで、ロボットによる自動生産を可能にする技術開発を進めています。

もし日本勢が製造の完全自動化に成功すれば、中国の労働コストの優位性を無効化できる可能性があります。

まとめ:生き残りをかけた三つ巴の戦い

現在のワイヤーハーネス業界は、以下の三つ巴の戦いになっています。

  • 日本(住友・矢崎): 材料技術と高品質なシステム提案で守る。
  • 欧米(アプティブ等): ソフトウェアとアーキテクチャ設計でリードする。
  • 中国(ラックスシェア等): 買収とEV特化のスピード感で奪う。

住友電装は、この中で「光通信」と「アルミ化」という独自のカードを切り、2026年以降の覇権を狙っています。