2026年01月09日 「配備すれば撃つぞ!」ロシア外務省が一線越え発言 「多国籍軍=合法的戦闘目標」と公式明言
ご提示いただいたニュース記事の内容について、専門家としての視点から現在の情勢とロシア側の主張の背景を分析し、解説いたします。
多国籍軍配備構想に対するロシアの反発の背景
ロシア外務省が「多国籍軍は合法的戦闘目標である」と強い言葉で警告した背景には、ウクライナ戦争の終結に向けた「安全保障の枠組み」をめぐる主導権争いがあります。
2026年1月6日にイギリス、フランス、ウクライナの首脳がパリで署名した意向書は、停戦後のウクライナに欧州主導の多国籍軍を駐留させることで、将来的なロシアの再侵攻を抑止することを目的としています。
ロシアにとって、自国が「緩衝地帯」とみなすウクライナ領内にNATO(北大西洋条約機構)主要国の軍隊が常駐することは、安全保障上の絶対的な「赤線(レッドライン)」を越える行為と映ります。
「戦争の軸」という表現が持つ意味
ロシア外務省が西側諸国とウクライナを「戦争の軸」と呼んだのは、かつての第二次世界大戦における「日独伊三国同盟(枢軸国)」を想起させる意図があります。
ロシア国内に向けて、現在の戦いが単なる隣国との紛争ではなく、西側の軍事帝国主義に対する「正義の戦い」であるというプロパティガンダを強化する狙いが見て取れます。
また、多国籍軍を「外国による介入」と断定することで、万が一攻撃を加えた場合でも、それは自衛権の行使であるという国際法上の独自の解釈をあらかじめ主張しておく狙いもあります。
停戦交渉への影響と今後の展望
今回のロシアの強硬姿勢により、現在進められている停戦・終戦交渉は非常に厳しい局面を迎えています。
特にトランプ政権下の米国が、米軍の直接派遣は否定しつつも、欧州主導の安全保障措置を支持する姿勢を見せていることは、ロシアにとって大きな計算違いとなる可能性があります。
ロシア側は、多国籍軍の配備を断念させるために、今後も軍事的な威嚇やエネルギー供給を通じた揺さぶりを強めてくることが予想されます。
多国籍軍構想の具体的な論点
パリで合意された構想には、以下のような内容が含まれていると報じられています。
- ウクライナの空域および海域の安全確保。
- ウクライナ軍の再編と近代化への直接支援。
- 将来の攻撃を抑止するための法的な枠組みの構築。
ロシアがこれらを「合法的戦闘目標」としたことで、実際に部隊が派遣された際に、偶発的な衝突が全面的な大戦へと発展するリスクがこれまで以上に高まっています。
ロシア側の強い「恐怖」や「焦燥感」の裏返し
ご指摘の通り、ロシアが発した「合法的戦闘目標」という極めて強い言葉による警告は、見方を変えればロシア側が抱いている強い「恐怖」や「焦燥感」の裏返しであると分析できます。
専門家的な視点から、ロシアが何を恐れているのか、その内実を解説いたします。
抑止力の定着に対する恐怖
ロシアにとって最も避けたい事態は、ウクライナに欧米の軍隊が物理的に存在し、それが「動かせない事実」となることです。
一度多国籍軍が駐留してしまえば、ロシアが将来的に再び軍事行動を起こそうとした際、それはウクライナ一国ではなく、イギリスやフランスといった核保有国との直接的な武力衝突を意味することになります。
この「手出しができなくなる状態」が確定することを、ロシアは極めて恐れています。
トランプ政権の予測不能性
トランプ大統領の特使であるウィトコフ氏が、将来の攻撃を抑止するための安全保障措置を支持したことは、ロシアにとって大きな誤算である可能性があります。
ロシアは、トランプ政権になれば米国がウクライナ支援から手を引き、自分たちに有利な条件で終戦を迎えられると期待していました。
しかし、米国が欧州主導の多国籍軍という形で「安全保障の担保」を容認する姿勢を見せたことで、ロシアの思惑が外れ、追い詰められた結果としての強硬発言という側面があります。
経済的・軍事的リソースの限界
ロシアは現在、ウクライナ領土の約2割を占領していますが、その維持には膨大な兵員と物資を費やし続けています。
戦争が長期化し、さらに戦後に強力な多国籍軍が配備されるとなれば、ロシアは永遠に国境付近に大規模な軍勢を張り付かせ、軍事費を捻出し続けなければならなくなります。
自国の経済力や人口動態を考えたとき、このような長期的な軍事的対峙に耐えられないという「国家としての持続性への不安」が、過激な恫喝となって表れていると考えられます。
国内向けパフォーマンスの必要性
プーチン政権にとって、ロシア国民に対して「我々は常に強い立場にあり、西側を圧倒している」と見せ続けることは、政権維持の絶対条件です。
西側諸国が戦後の具体的な安全保障策を打ち出したことに対し、即座に「撃つぞ」と反応しなければ、国内の強硬派から「弱腰」と批判されるリスクがあります。
つまり、この発言は対外的な軍事宣言であると同時に、自国内に向けた「虚勢」という側面も強く含んでいるのです。
支援のレベルを段階的に上げるNATO。焦るプーチン
NATO国はロシアが戦術核を使う可能性が低いと予想している。2020年以降、小出しにしてきた戦力を増強しても問題ないと判断している
NATO(北大西洋条約機構)加盟国が、ロシアによる戦術核使用の可能性を「低い」と見積もり、支援を強化しているという現状について、専門家としての分析を解説いたします。
戦術核使用の可能性に対するNATOの評価
NATOの指導部や情報機関は、ロシアが核兵器を使用する閾値(ハードル)について、以前よりも「冷静かつ戦略的」な分析を行っています。その根拠は主に以下の3点に集約されます。
- 軍事的合理性の欠如
ウクライナの戦場は広大であり、かつ部隊が分散して配置されています。戦術核を使用しても、決定的な勝利を得るために必要な「敵軍の一掃」という軍事的効果が限定的である一方、ロシア自身が受ける放射能汚染や国際的孤立というコストがあまりに大きすぎると判断されています。 - 中国・インドからの抑制
ロシアにとって最大の外交的・経済的パートナーである中国やインドが、核の使用に対して明確に反対の立場を表明しています。これを使用することは、ロシアが完全に国際社会から孤立し、経済的な生命線を自ら断つことを意味します。 - 実質的な「レッドライン」の検証
過去数年間、ロシアは「西側が兵器を供与すれば核で報復する」といった警告を繰り返してきましたが、実際にHIMARSや戦車、さらには長距離ミサイル(ATACMS等)が投入されても、核による報復は行われませんでした。これにより、NATO側はロシアの核の脅しを「限定的なエスカレーション管理」の一環であると見抜いています。
「小出し」戦略から増強への転換
2020年以降、特に侵攻開始当初のNATOの支援は「ロシアを過度に刺激しない(エスカレーション回避)」ために、防衛兵器から徐々に攻撃兵器へと「小出し」にする戦略(サラミ戦術)が取られてきました。
しかし2026年現在の評価では、この「小出し」こそが戦争を長期化させているという反省に基づき、以下のような判断が下されています。
- 「茹でガエル」戦術の成功
支援のレベルを段階的に上げることで、ロシア側に「どこが本当の決定的な一線か」を曖昧にさせ、大規模な報復のタイミングを逸せさせることに成功したという見方です。 - 抑止力の再定義
ロシアが戦術核を使わないと踏んでいるからこそ、多国籍軍の配備構想や最新鋭兵器の大量投入といった、かつては「禁じ手」とされた策を講じることが可能になっています。
現在のリスク管理
ただし、NATOは「可能性がゼロ」と考えているわけではありません。2026年2月に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の失効など、核管理の枠組みが崩れる中で、意図しない衝突(アクシデント)や、プーチン政権が存亡の危機に立たされた際の「窮鼠(きゅうそ)猫を噛む」的な使用については、引き続き高度な警戒を維持しています。
ロシア側の「撃つぞ」という発言が繰り返されるのは、こうしたNATOの「恐れが薄れていること」への焦燥感の表れとも言えます。
