アメリカの自動車市場が「静かなる恐慌」
- アメリカの自動車市場で起きている現状は、まさに「静かなる恐慌」とも呼べる深刻な事態になっています。あなたが耳にした「言葉を失うようなローン」の実態は、決して大げさな話ではありません。専門的な視点から、その「闇が深い」と言われる背景と、異常なローンの実態を詳しく解説します。
1. 異常なローンの実態:月々の支払いが「家賃並み」
- アメリカ人の多くにとって、車は贅沢品ではなく「生活の足」ですが、その維持コストが家計を破壊するレベルに達しています。
- 月額1,000ドル(約15万円)超えの支払い:
2025年のデータでは、新車購入者の約5人に1人(20%)が、毎月1,000ドル以上のローンを支払っています。これは多くの中小都市における1K〜1LDKの家賃に匹敵します。 - 返済期間の長期化(72ヶ月〜84ヶ月):
月々の支払額を下げるために、6年や7年という超長期ローンを組むのが一般的になりました。しかし、車の価値が下がるスピードの方が早いため、「車を売ってもローンの残債が返せない(逆資産状態)」に陥る人が続出しています。 - 金利の暴騰:
信用スコア(クレジットスコア)が低い層には、15%〜20%といった高金利が適用されるケースもあり、返済総額が車両本体価格の1.5倍以上に膨れ上がることも珍しくありません。
2. なぜ「闇が深い」と言われるのか
- 単なる「物価高」で片付けられない、構造的な問題が潜んでいます。
- 「サブプライム・オートローン」の罠
2008年のリーマンショック(住宅ローン)の自動車版が起きていると指摘されています。銀行や販売店が、本来支払い能力の低い層に対しても無理なローンを組ませて車を売ってきた「ツケ」が回っています。 - 負の連鎖(ネガティブ・エクイティ)
多くの人が、古い車のローンが残っている状態で新しい車に買い替え、その残債を新しいローンに上乗せしています。その結果、中古車市場が冷え込むと、自分の資産価値(車)よりも借金の方が圧倒的に多い状態から抜け出せなくなります。 - インフレによる「生活維持費」の圧迫
アメリカでは公共交通機関が未発達な地域が多く、車がなければ仕事に行けません。そのため、食費や光熱費を削ってでも車のローンを優先しますが、それすら限界に達し、強制回収(レポ:Repossession)される件数が急増しています。2025年末までに、年間300万台近くが差し押さえられるとの予測もあります。
3. 市場の崩壊:在庫は余っているのに買えない
- 現在、ディーラーの駐車場には売れ残った新車が溢れていますが、以下の理由で市場が停滞しています。
- 価格の吊り上がり:
パンデミック以降、メーカーが高価格帯のSUVやピックアップトラックばかりを生産し、安価な小型車を廃止したため、庶民が買える車が市場から消えてしまいました。 - ディーラーの維持費:
売れない在庫を抱えるディーラーも、その在庫を維持するためのローン(フローリング・コスト)で首が回らなくなり、倒産危機に瀕しています。
まとめ
- アメリカの車離れは「車に興味がなくなった」のではなく、「車を持つことが中産階級の特権になり、庶民には不可能になった」という経済的断絶が原因です。立って生活されているあなたのように、常に体を動かし健康に投資できる余力がある生活は、今の多くのアメリカ人にとっては羨望の的かもしれません。
トランプが日本の「軽自動車」に注目
- トランプ氏が日本の「軽自動車」に注目し、一定の評価(あるいは市場開放への言及)をした背景には、まさに「アメリカ庶民が買える車が市場から消えた」という深刻なミスマッチが関係しています。専門的な視点から、なぜ彼が(かつては非関税障壁だと批判していた)軽自動車のような「安価で小さな車」を文脈に載せるようになったのか、その裏にある理由を分析します。
1. 「手頃な価格の車(Affordable Cars)」の枯渇
- 前回お話しした通り、現在のアメリカ市場は「新車の平均価格が約4万8,000ドル(約700万円)」という異常事態です。
- メーカーの利益至上主義:
米ビッグ3(GM、フォード、ステランティス)は、利益率の低い小型セダンやコンパクトカーの生産をほぼ中止し、高価な大型SUVとピックアップトラックにシフトしました。 - トランプ氏の視点:
彼は「アメリカの労働者層(マガラ・ベース)」を支持基盤としています。彼らが車を買えずに生活が破綻している現状は、政権批判の火種になります。そこで、日本で成功している「安くて壊れず、維持費が安い規格」が、解決策の一つとして象徴的に語られることがあります。
2. 「過剰な排ガス規制・EV推進」への対抗軸
- トランプ氏はバイデン政権の「EV推進策」を激しく批判してきました。
- EVは高すぎる:
庶民には買えない高額なEVを強制するのではなく、内燃機関(ガソリン車)で十分燃費が良く、安価な選択肢を求めています。 - 軽自動車の合理性:
日本の軽自動車は、排気量が小さく燃費が良い、究極の「低コスト内燃機関車」です。高価なバッテリーを積んだEVよりも、現実的な庶民の足として「こういう選択肢をなぜアメリカで提供できないのか(あるいはなぜ規制が邪魔をするのか)」という文脈で評価の対象になり得ます。
3. 日本との通商交渉における「カード」
- これには少し政治的な「闇」というか、計算も含まれます。
- かつての批判:
かつてトランプ氏は「軽自動車規格は、米車が日本で売れないようにするための障壁だ」と批判していました。 - 現在の変化:
しかし、アメリカ国内で「安価な車」の需要が爆発している今、逆に日本の軽自動車(あるいはそのコンセプト)をアメリカに導入させる、あるいは共同開発させることで、「米国内での安価な移動手段の確保」と「日本への譲歩引き出し」を同時に狙う戦略にシフトしている節があります。
4. 「チキンタックス(25%の関税)」の壁と国内生産
- アメリカには、輸入ピックアップトラック等に25%の重税を課す「チキンタックス」がありますが、もし軽トラや軽自動車のような「働く車」がアメリカの地方部(農村地帯)で受け入れられるなら、それを米国内で生産させることで雇用を生む、というシナリオも彼の「アメリカ・ファースト」に合致しています。
結論
- トランプ氏が軽自動車を評価(言及)するのは、単に性能が良いからではなく、「今の米国メーカーが捨て去った『庶民が借金地獄に陥らずに買える車』というマーケット」を、政治的な武器として再定義しようとしているからです。
- あなたが仰る通り、月々のローンに絶望しているアメリカ人にとって、200万円以下で買えて維持費もかからない日本の軽自動車は、もはや「奇妙な小さな車」ではなく、「生活を救う合理的なツール」に見え始めているのが現在の闇の深さを物語っています。

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