「経済を盾に」西側の戦意を挫く予定だった
イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖(2026年3月現在)は、世界の原油供給の約2割、天然ガス(LNG)の約2割を停滞させ、エネルギー価格を劇的に押し上げています。
この状況は、ロシアが2022年のウクライナ侵攻時に企図した「エネルギーの武器化」による西側諸国の戦意喪失という戦略と共通の論理を持っています。ロシアは欧州へのガス供給停止で経済的混乱を狙いましたが、今回のホルムズ海峡封鎖は、供給途絶の規模においてそれを上回る可能性があり、結果としてロシア産のエネルギー需要を再燃させるという皮肉な副産物も生んでいます。
ロシアの戦略と「エネルギーの武器化」
2022年にロシアがウクライナへ侵攻した際、プーチン政権は欧州への天然ガス供給(ノルドストリームなど)を制限することで、欧州のエネルギー価格を暴騰させ、インフレによる社会不安を引き起こそうとしました。
その狙いは、西側諸国の市民生活を困窮させることで、ウクライナ支援に対する世論を分裂させ、支援継続の意志(戦意)を挫くことにありました。しかし、欧州は代替調達先の確保や貯蔵の積み増しによって、ロシアの期待ほど早期には屈しませんでした。
ホルムズ海峡封鎖による「物価高騰」の威力
現在のホルムズ海峡における緊張は、ロシアがかつて目指した「経済的ショックを通じた政治的強制」を、より広範囲かつ強力に実行している形となっています。
供給規模の圧倒的な大きさ
ホルムズ海峡は、中東の主要産油国だけでなく、カタールからのLNG輸出の生命線です。ここが封鎖されることで、原油価格は1バレル120ドルを超え、欧州のガス価格も急騰しています。
世界的なインフレの再燃
2022年以降のインフレがようやく落ち着きを見せていたタイミングでのこのショックは、欧米諸国の経済に「スタグフレーション」の懸念を突きつけています。これは、有権者の現政権に対する不満を増幅させ、外交政策(特に中東やウクライナへの関与)の変更を迫る強力な圧力となります。
ロシアにとっての「漁夫の利」
現在のホルムズ海峡危機は、ロシアにとって二重の意味で好都合な展開となっています。
戦略の「完成形」としての参照
イランによる封鎖が西側に与えている打撃は、ロシアがエネルギー供給で成し遂げたかった「相手の継戦能力と意志の破壊」を具現化していると言えます。
ロシア産エネルギーへの回帰
中東からの供給が断絶したことで、制裁下にあるロシア産の原油やガスに対する需要が、背に腹は代えられない形で再浮上しています。実際に、一部の市場ではロシア産エネルギーへの依存を再検討する動きや、価格高騰によるロシアの戦費調達能力の回復が見られます。
西側諸国の戦意への影響
今回の事態は、西側諸国にとって「二正面」でのエネルギー不安を意味します。
ロシアとの対峙に加え、中東でのエネルギー供給途絶が長期化すれば、国内の物価対策が最優先課題となり、軍事支援や対外介入に割く政治的リソースが枯渇する恐れがあります。これは、まさにロシアが当初から描き、現在はイランが(意図的か否かに関わらず)実行している「経済を盾にした戦略的勝利」の構図と一致します。

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