アップルの成功の裏にある中国との密接な結びつき リスクや矛盾 グローバル経済の新たな課題

概要

本書は、アップルがいかにして中国を生産拠点および巨大市場として活用し、世界最大級の企業へと成長したか、その過程で中国との関係がどれほど深く、複雑に絡み合うようになったかを、豊富な取材と証言をもとに描いたノンフィクションです。

主な内容と論点

  • アップルは1990年代後半、中国の「低賃金・低福祉・低人権」という労働環境の魅力に惹かれ、製造拠点を急速にシフトしていきました。
  • 2000年代に入り、台湾のフォックスコン(鴻海精密工業)などが中国で大規模な工場と労働者コミュニティを建設し、アップル製品の大量生産体制が築かれました。
  • アップルは中国で2,800万人以上の労働者を訓練し、年間投資額は2015年時点で約550億ドル(約8兆円)に達するなど、国家規模の投資を行っています。
  • アップルがサプライチェーンに技術やノウハウを教えることで、ファーウェイやシャオミなど中国のスマホメーカーの技術力向上にも寄与し、中国の製造業全体を押し上げる結果となりました。
  • 一方で、アップルは中国政府の規制や検閲、労働環境の問題に直面しながらも、利益や市場シェア維持のために妥協を重ねてきたと指摘されます。VPNやAirDropの制限など、中国当局の要求に応じてきた実態も明かされています。
  • 著者は、アップルの中国依存は「ベルリンの壁崩壊」に匹敵するほどの地政学的転換であり、アップル自身も抜け出せない「泥沼」に陥っていると警告します。
  • ティム・クックCEOの経営判断については、財務的には成功したものの、サプライチェーンの分散化を怠り、結果的にアップルを中国政府の影響下に置くことになったと批判的に描かれています。

特徴と評価

  • アップルと中国の「奇妙な共生関係」がどのように築かれ、今や切っても切れない関係になっているかを、豊富な一次証言や内部文書を交えて明らかにしています。
  • 労働環境や人権問題、情報統制、知的財産の流出など、グローバル資本主義の光と影を鋭く描出しています。
  • アップルは本書の内容について「事実誤認が多い」と否定していますが、グローバル企業と権威主義国家の関係性を考える上で示唆に富む一冊です。

まとめ

『Apple in China』は、アップルの成功の裏にある中国との密接な結びつきと、そのリスクや矛盾、グローバル経済の新たな課題を浮き彫りにした話題作です。アップルの中国依存は、同社だけでなく世界経済全体にとっても大きな「脆弱性」となっていることを、著者は警鐘を鳴らしています。

Apple in China: The Capture of the World’s Greatest Company
B0DCGGGHS4