アップルの成功の裏にある中国との密接な結びつき リスクや矛盾 グローバル経済の新たな課題

Money

 

アップルを成長させた40兆円超の対中投資は「重大なリスク」になっている

アップルは年間2億2000万台以上のiPhoneを販売しており、その約9割が中国で製造されています。部品の調達・製造・組み立ても中国に大きく依存しているため、米中間の地政学的な緊張や関税の影響はアップルにとって重大なリスクとなっています。CEOティム・クックは関税による追加コストが前四半期で約1179億円、次の四半期にはさらに約1621億円増える可能性を指摘しています。

さらに、アップルが構築した高度な中国サプライチェーンは、中国の企業、たとえばファーウェイに活用され、同社はアップルと競合する高性能端末を開発しています。アップルの市場での優位性は揺らいでおり、こうした競争の激化もリスク要因です。

歴史的にはアップルはリスク分散のため、複数地域に工場を持っていましたが、契約製造モデルの台頭と台湾のフォックスコンの製造能力の高さにより、製造の大半が中国に集中しました。ただし、米国議会ではアップルの中国依存に対する批判が強まり、道徳的・経済的な観点からも「耐え難い関係」との声もあります。

アップルは脱中国依存を模索し、インドなど他の地域への製造拠点移転を加速させており、2025年までにインド製iPhoneの比率が25%に達する可能性も指摘されています。とはいえ、この依存関係を解消するには20年以上かかるとの見方もあります。

このように、アップルの40兆円超の対中投資は当面成長を支えつつも、多大なリスクをはらみ続けている状況です。

 

 

Apple in China: The Capture of the World’s Greatest Company
B0DCGGGHS4

アップルがいかにして中国を生産拠点および巨大市場として活用し、世界最大級の企業へと成長したか、その過程で中国との関係がどれほど深く、複雑に絡み合うようになったかを、豊富な取材と証言をもとに描いたノンフィクションです。

主な内容と論点

  • アップルは1990年代後半、中国の「低賃金・低福祉・低人権」という労働環境の魅力に惹かれ、製造拠点を急速にシフトしていきました。
  • 2000年代に入り、台湾のフォックスコン(鴻海精密工業)などが中国で大規模な工場と労働者コミュニティを建設し、アップル製品の大量生産体制が築かれました。
  • アップルは中国で2,800万人以上の労働者を訓練し、年間投資額は2015年時点で約550億ドル(約8兆円)に達するなど、国家規模の投資を行っています。
  • アップルがサプライチェーンに技術やノウハウを教えることで、ファーウェイやシャオミなど中国のスマホメーカーの技術力向上にも寄与し、中国の製造業全体を押し上げる結果となりました。
  • 一方で、アップルは中国政府の規制や検閲、労働環境の問題に直面しながらも、利益や市場シェア維持のために妥協を重ねてきたと指摘されます。VPNやAirDropの制限など、中国当局の要求に応じてきた実態も明かされています。
  • 著者は、アップルの中国依存は「ベルリンの壁崩壊」に匹敵するほどの地政学的転換であり、アップル自身も抜け出せない「泥沼」に陥っていると警告します。
  • ティム・クックCEOの経営判断については、財務的には成功したものの、サプライチェーンの分散化を怠り、結果的にアップルを中国政府の影響下に置くことになったと批判的に描かれています。

特徴と評価

  • アップルと中国の「奇妙な共生関係」がどのように築かれ、今や切っても切れない関係になっているかを、豊富な一次証言や内部文書を交えて明らかにしています。
  • 労働環境や人権問題、情報統制、知的財産の流出など、グローバル資本主義の光と影を鋭く描出しています。
  • アップルは本書の内容について「事実誤認が多い」と否定していますが、グローバル企業と権威主義国家の関係性を考える上で示唆に富む一冊です。

まとめ

アップルの成功の裏にある中国との密接な結びつきと、そのリスクや矛盾、グローバル経済の新たな課題を浮き彫りにした話題作です。アップルの中国依存は、同社だけでなく世界経済全体にとっても大きな「脆弱性」となっていることを、著者は警鐘を鳴らしています。

 

 

 

コメント