序章 これから日本人に起こる10の変化
- 人生100年が当たり前になる
- 新しい職種とスキルが登場する
- 3ステージの人生が終わる
- 人生はマルチステージ化する
- エイジとステージのリンクがなくなる
- まだ見ぬ新しいステージが誕生する 選択肢を持っ
- ておくことの価値が増す
- 無形資産がより重要になる
- 家庭と仕事の関係が変わる
- 自分の再創造に時間を使うようになる
第1章 人生100年時代は本当に来る?
- 平均寿命は延び続けている
- 長寿化は世界規模で進行中
- より健康に老いられる社会に
- 大規模に進む「認知症」対策
- 人生の時間が大幅に増える
- 長く働く不安をなくす生き方へ
第2章 3ステージの人生は苦しくなる
- 老後の資金、いったいいくら必要?
- 3ステージの人生でOK―1945年生まれの俊夫
- 3ステージの人生が軋む -1971年生まれの貴弘
- 3ステージの人生が崩壊―1998年生まれの萌美
- 3ステージ型仕事人生に別れを!
第3章 無形資産が人生を左右する
- 長く生産的な人生を送るには
- 測定できる資産、できない資産
- 三つの見えない(無形) 資産
無形資産 1 生産性資産
- あなたのキャリア形成に役立つ資産
- どんな専門性を身につければよいか
- 人脈と評判も重要な資産となる
無形資産 2 活力資産
- 幸福感と充実感を得るための資産
- 「自己再生」の友人コミュニティ
- 3ステージの人生における無形資産
無形資産 3 変身資産
- ステージの移行を成功させる意思と能力
- 「自分」をより深く知ることを意識する
- 独りぼっちでは変身は成し遂げられない
第4章 人生はマルチステージ化する
- 「ありうる自己像」をイメージしてみる
- エイジとステージが一致した時代は終わる
ステージ 1 エクスプローラー
- 未知の世界と自分を発見する探索者
- エクスプローラーに適した三つの時期
- 正しい道を選び取るために大切なこと
ステージ 2 インディペンデント・プロデューサー
- 自分の職を生み出し、無形資産を蓄える
- 仕事と遊びと生活の境目があいまいに
- 高い能力を築き、上手にそれを宣伝する
ステージ 3 ポートフォリオ・ワーカー
- 複数の活動のバランスを取りつつ生きる
- 柔軟性を持って早い段階から準備をする
- なぜ若者は重要な選択を先送りするのか
- 思春期が長期化して若々しく生きる
第5章 100年人生の新しいシナリオ
- 1971年生まれの貴弘の人生
- 40代半ばになった貴弘の資産
- 貴弘の3.0シナリオ 3ステージを歩む
- 貴弘の3.5シナリオ 野心的でない移行
- 貴弘の4.0シナリオ 変化と変身に挑む
- 萌美の4.0シナリオ 行く先に待つ困難
- 萌美の5.0シナリオ 85歳で引退するまで
- キャリアダウンというポジティブな選択
- 萌美とほかの世代の決定的な違いとは
第6章 お金の心配を減らすための考え方
- お金に苦手意識を持つ人へのアドバイス
- お金の現実から目を背けがちな人の思考
お金に関する自己効力感を持とう - お金に関する自己主体感を持とう
第7章 生涯現役でいるために必要なこと
- 時間の使い方が千差万別になる
- 余暇時間を再創造の時間に変えよう
- 双方に恩恵があるパートナー関係をつくろう
- アイデンティティを意識した計画と実験を
- 未来のために、いま、厳しい決断をくだそう
第8章 学校と企業はどう変わるのか
- 教育産業は大きな脅威にさらされている
- これからの教育に問われる四つの課題
- マルチステージに即した人材の育成
- これからの企業に問われる六つの課題
- 人事部門の大変革が必要になる理由
第9章 未来の人間関係
最終章 変革への課題
第1部 人間の問題 第1章 私たちの進歩
テクノロジーの驚異的な進化
- 機械は私たちの雇用を奪うのか?
- 失業しないためにどのような能力が必要なのか?
- 人間が機械に勝てる分野とは?
長寿時代の到来
- どうすれば、長く健康であり続けられるのか?
- 家族と地域社会に及ぶ影響は?
- どうすれば、誰もが長く働き続けられるのか?
- 医療システムはどうあるべきか?
- どうすれば建設的な世代間関係を築けるのか?
人間だけが人間の問題を解決できる
第2章 私たちの開花
人生のあり方を設計し直す
- 人間としての可能性を開花させる
- 物語 自分の人生のストーリーを歩む
- 探索 学習と変身を実践する
- 関係 深い絆をはぐくむ
第2部 人間の発明 第3章 物語 自分の人生のストーリーを紡ぐ
年齢に対する考え方を変える
- 老いるとはどういうことか?
- 自分の年齢に対する考え方を変える
- 他人の年齢に対する考え方を変える
時間に対する考え方を変える
- 未来の時間をどう考えるか?
- 複利の魔法を味方につける
- 「現在」しか目に入らない?
- 仕事に関する「トンネリング」状態
仕事に対する考え方を変える
- 「エンゲルスの休止」
- トムのジレンマ
- 雇用の未来
流動性の高いキャリア
- 長期化する職業人生
- 余暇時間の増加
- 新しい働き方
- 「仕事」の概念が広がる
「よい人生」とは?
あなたの人生のストーリー
- 「ありうる自己像」を描き出す
- 自分がいだいている基本的な前提を再検討する
- 時間配分を検討する
第4章 探索 学習と移行に取り組む
探索と発見
- 選択肢をもつことの重要性
生涯にわたって学び続ける
- 何歳でも学ぶ
- 大人はどう学ぶべきか?
移行を成功させる方法を学ぶ
- 探索と調査をおこなう
- 新しい進路に本格的に踏み出す
- 人的ネットワークが変容する
新しいタイプの移行
- 中年期の移行 みずからの生産性を維持するために
- 高齢期の移行 よい老い方をするために
あなたの探索の取り組み
- 移行を成功させる
- 人生のあらゆるステージで学習の機会を設ける
- 学習できる場を確保する
第5章 関係 深い結びつきをつくり出す
家族
- 結婚の時期が遅くなる
- 子どもの数が減り、高齢の家族や親族が増える
- 家族の就労パターンが変わる
支え合いの関係
- 選択肢と向き合う
- ストーリーを共有する
- 誰が子どもの世話をするのか?
- 安定した基盤と互いに対する責任
世代
- 世代間の公平 若者の状況は高齢者より苦しい?
- 世代ごとのレッテル貼り世代間の違いは絶対か?
- 世代のレッテルは有益か?
- 世代間の共感をはぐくむ
コミュニティ
- 分断されたコミュニティ
- 生涯を通じてコミュニティに関わり続ける
- コミュニティへの共感「無知のベール」のなかで考える
あなたの人間関係づくり
- 人間関係に関する計画を点検する
- コミュニティを大切にする
第3部 人間の社会 第6章 企業の課題
マルチステージの生き方を可能にする
- 入社年齢を多様化する
- 新しい退職の形をつくり出す
幸せで健全な家庭生活を支援する
- 子育て社員への金銭的ペナルティ
- 男性の子育てを支援する
- 介護者を支援する
- 柔軟性を重んじる文化をつくる
学びを支援する
年齢差別をなくす
- 高齢の働き手の生産性を維持する
なぜ、企業が変わるべきなのか?
- 機敏な働き手を擁することの重要性
- 新しいタイプの「企業年金」とは
- 消費者と社員のマッチング
- 人手不足の時代が到来する
第7章 教育機関の課題
人間的スキルが重要になる
STEMだけでは十分でない
大人の学習が不可欠になる
- 大人のニーズを重視する
- 柔軟性と自在性を高める
- 年齢による区別をしない
- 学位中心主義が揺らぐ
- 教育機関による誇大広告の罠
- 積み上げ型で持ち運び可能なスキル証明
- 誰もが学べる仕組みをつくる
- テクノロジーを最大限活用する
新しい教育のあり方
第8章 政府の課題
悪い結果を避ける
- 「職」ではなく、「人」を守る
- 不平等を生み出さない
- 「劣悪な雇用」から人々を守る
- 悪い経済的結果を防ぐ
- 健康面での悪い結果を抑制する
好ましい結果を促進する
- 将来必要となるスキルを身につけるのを助ける
- 健康的に年齢を重ねることを後押しする
- 長寿経済を築く
包摂に向けた課題
- GDPだけにとらわれない思考
- 政治システムをつくり替える
おわりに―未来へ向けて前進する
100歳まで生きる(死ねない)時代
- 最低でも80歳まで働け
- 歳を取りゃ生産性が落ちるんだから、給料は右肩下がりを受け入れろ
誰もが医療を受けられる時代は終わり
- 弱者には退場してもらう
- 「人権」を持ち出すなら、先に解決策を提示してもらおう
しかし、こういう有名人まで「姥捨て山」という言葉を口にする時代になったんだな
豊島逸夫のニュース読解
米国医療改革法について
更に皮肉なことは 医療改革で仮に米国人の平均寿命が延びても これはこれで高齢化のコストが米国経済を圧迫する。
国民の平均寿命が延びれば延びる程困る業界が年金なのだ。(逆に 潤うはずの業界が医療関連、そして 生命保険。)
ベビーブーマーにとっても若い世代にとっても 複雑な問題だよ これは。
きつい物言いではあるが “姥捨て山”の発想って 大昔の低成長経済においては 高齢化のコストを下げるbuilt-in stabilizer 持続的経済安定化の方策だったのかもね。
2010年3月24日
米国医療改革法について
この問題、本欄では2009年7月1日「金融危機から財政危機へ」で、「オバマ政権の屋台骨を揺るがしかねない」問題として詳説した。世界全体で見れば、健康保険制度を主とする高齢化のコストは金融危機対策のコストの10倍かかるから、米国の健康保険制度の破たんの可能性が、銀行の破たんより厄介だとした。
そもそも、米国の医療費は日本の倍。GDP比で16%。ちなみに第二位がフランスで11%。そんなに医療に高いカネ払った挙げ句に、米国の平均寿命は主要先進国より短いのだ。なんでこうなっちゃったのというと、米国の医療保険の「民営化」が裏目に出たことが理由として挙げられる。
日本では厚労省の決めた診療方法の枠組みの中で、保険点数稼ぎの過剰投与 過剰治療が問題となっている。(筆者が入院したとき、ナースルームの目立たないところに、「検査 もう一回」と看護婦さんを鼓舞する貼り紙が張られていたっけ。)
それが米国の場合は、民間業者と医者の自由度が高いので、結果的に、日本以上の過剰投与、過剰診療になりがちなのだ。また、病院や医者の間で、診療報酬につき実質的カルテルが結ばれていることも多い。だから、大きな政府を嫌う意見も多い中で、医療問題については公的制約を強化すべしという議論が台頭したわけだ。
そして、すったもんだの挙げ句、ようやく今週、法案が僅差で可決された。
ここで数字により新制度を概観してみよう。
―2008年の米国医療関連総支出 2兆3千億ドル 対GDP比16.2%
―新医療保険制度にかかるコスト 今後10年で9400億ドル
―2008年 医療保険未加入者数 4630万人
―新医療保険制度導入後 2019年の未加入者数2300万人(これは不法移民者など)
まぁ、なんというか、願わくはこれで米国民が安心して病院に行ける環境が整い、将来の不安が幾らかは緩和され、少しでも消費にカネを回してほしいところ。さすれば世界経済にも貢献できるし、税収増による財政赤字削減も期待できようというもの。
でもマーケットは、そんな楽観シナリオを全く信じていない。さらに皮肉なことは、医療改革で仮に米国人の平均寿命が延びても、これはこれで高齢化のコストが米国経済を圧迫する。国民の平均寿命が延びれば延びるほど困る業界が年金なのだ。逆に、潤うはずの業界が医療関連、そして生命保険。
ベビーブーマーにとっても若い世代にとっても、複雑な問題だよ、これは。
さて、昨日は事務所にお籠りで仕事していたので、合間にツイッタ―で、ぺちゃくちゃ呟いていた。そこで話題のひとつが、金100グラムバーを2400円で業者に買い取ってもらい、後で実勢価格に気がついて、がっかりしたという人のエピソード。
でも、客観的に見れば、投資家リサーチで、金価格が2000円とか3000円とか分かっている人は、ランダムサンプリングで100人抽出して、せいぜい数名程度。残りの90名以上は、業者の言い値を、そんなもんかと受け止める。どころか、買い取ってもらえればオンの字という感じだ。
あらためて「残りの90名」の層に向けた、「やさしい」情報発信が不可欠と感じた次第。
2015年10月14日
中流のはずが…下流老人転落はなぜ起こる
- 低賃金の仕事だったから、年金額が低くて老後は貧困。そんなイメージは過去のもの。今や、比較的所得が高かった人が下流老人に転落するケースが相次いでいる。「下流老人」の著者・藤田孝典氏に話を聞いた。
元地銀マンでも下流老人に!ささいなきっかけから転落が始まる
――著書「下流老人」(朝日新書)では、現役時代の年収が高いからといって、決して老後が安泰とは限らない。そんな事例が描かれています。
- 私は、ホームレス状態や生活困窮状態にある方を支援するNPO法人・ほっとプラスで活動してきた経験から、年収が高いから老後も大丈夫とはとても思えません。以前は、低賃金の仕事に就いていて、老後に無年金や低年金で苦しんで生活保護を受給しなければならなくなる、というケースが比較的多かったように思います。しかし最近は現役時代に、比較的所得が高かった人たちが相談に来られるケースが増えています。貧困に転落した理由はさまざまです。本人の病気やケガで医療費がかさんだ結果だったり、子どもなど家族の病気で、看護や介護が必要な状態が長引いた結果だったり。もう1つ、最近増えているのが単身世帯の貧困です。もともと独身だったり、離婚や死別で1人暮らしとなった方々なのですが、特に男性は貧困に陥りやすい。たとえば、元地銀マンだった67歳の男性は、離婚をして妻と資産や年金を折半。月額12万円の年金暮らしをしていたのですが、あれこれ散財して家賃を払えなくなり、アパートを追い出されて、公園で生活をしていました。認知症の症状もありました。今の若い世代はまだしも、60代、70代の男性たちは、仕事一辺倒で生きてきた方が多い。結婚している割合は高い世代なのですが、離別や死別で1人暮らしとなった場合、極端に生活能力が低いのです。家は荒れているし、食事はすべてコンビニ弁当か外食。当然、栄養が偏ります。病気になるなどして、だんだんと体が弱ってきて、要介護状態にまでいってしまう。一方の女性は、12万円の年金でも、それなりにしっかりと暮らしていけていたりする。男性とは対照的です。こうしたケースは、決して珍しくありません。よく「下流老人に転落しないためにどうすればいいのか」と聞かれます。もちろん、生活に必要な金銭の確保も大切なのですが、特に男性の場合は、現役時代に持っていた「家にお金を運んでくることが男の価値」という考え方を変えていく必要があります。下流老人に欠けている3つの要素は、収入(年金)と貯蓄、そして人とのつながりです。
――男性は「助けてくれ」と言えない人が多いですよね。
- 相談を受けていても、女性や若者は「助けてほしい」とストレートに言えるし、生活保護制度を説明して受給を勧めると「明日にでも申請に行きます」との返事が返ってきたりする。一方、男性だと「親族に連絡がいくのだろうか?迷惑をかけたくない」とか、「昔おもちゃを買ってあげた甥っ子にもバレるんですか?だったら死んだ方がマシ」といった返事が返ってくる。理想像に固執しすぎるため、生きることへの、いい意味での貪欲さが欠けている印象です。「助けてくれ」と騒げる人は、強いのです。実は、孤独に耐えることが強さなのではなく、依存先が多い人ほど強い。私はそう考えています。男性の場合は、「助けてくれ」と口にできない弱さをどう抑制し、助けを求められる強さを身につけるか。ここに、孤独死や自殺を防ぐカギがあると思います。
酒・ギャンブル依存から貧困ビジネスまで、貧困に孤独が追い討ちをかける
- これは男女を問わずですが、孤独と貧困が長引くと、心も体も崩れてしまい、うつ状態になります。ストレス発散のために、発泡酒を飲み過ぎてアル中になったり、パチンコなどギャンブル依存も多い。また、貧困ビジネスに騙されたり、新興宗教にはまったり、さらには訪問販売業者から、必要ないものを大枚をはたいて買ったりする。訪問販売にはまるのは、認知症もからんでいると思いますが、寂しさも大きな要因だと考えています。「受援力(じゅえんりょく)」という言葉があります。災害援助の現場でよく使われる言葉なのですが、ボランティアがいるのに、助けを求めない人がいる。ボランティアは、「これを手助けしてほしい」と意思表示してもらわなければ、助けられないですよね。高齢期の方々にも、ぜひ受援力を身につけていただきたいです。「1人で何とかできる」とがんばりすぎたり、「こんな自分になってしまって恥ずかしい」とプライドに固執しすぎれば、どんどんと転落していく。われわれのような相談機関やボランティアの手を借りることはもちろんですが、人とのつながりの基本は、やはり家族。次に親戚や友人、そして地域社会もある。無用なプライドを捨てて、「かわいいおじいちゃん、おばあちゃん」になることは、大切なのではないでしょうか。
――年金や貯蓄は、どのくらいあれば安心とお考えですか?
- これはいくらとは、一概に言いにくいですね。病気を患って思わぬ出費がかさむこともあるし、そもそも長生きをすれば、必要な金額は増えます。もちろん、ファイナンシャルプランナーなどに相談をして、老後の生活設計を考えることは大切ですが。私の経験から言えることは、「年金が足りなければ、働けばいい」という考えは甘いということです。一部の高度な専門職や農業の方などを除けば、高齢期に働くというのは現実的ではない。特に後期高齢者(75歳以上)の就労は難しいのです。厚生労働省の調査でも、高齢期に働いて得られる収入は、全収入の2割以下にとどまっています。体の具合が悪くて働けなくなることも多いし、第一、働く場があまりありません。また、子どもがワーキングプアだったり、うつ病や引きこもりになって、親に寄りかかっているために、さらにお金が必要で生活が苦しくなるというケースも多い。今、病気や引きこもりが原因で、無業・無職になっている人は、数百万人単位でいると言われています。親世代は「本人のがんばりが足りない」などと考えがちですが、今の若者世代は、「努力のしようがない」現実の中でもがいています。ブラック企業で心身を病み、うつ病や引きこもりになるケースも多いのですが、特に地方では、一度非正規になってしまうと、正社員への道が閉ざされてしまいがちです。また、日本はまだ新卒採用がスタンダードで、年齢を重ねると正規雇用が難しい社会です。こうしたケースで親が亡くなると悲惨です。ある40代の男性は、親の遺体の脇で、どうしていいか分からず、呆然と座っていました。親が亡くなったことを隠して年金を不正受給したり、葬儀費用を出せず遺体を捨ててしまうなどの事例も後を絶ちません。
極度に家族の負担が大きい日本。若者に広がる「下流老人予備軍」
――今の高齢者は、比較的豊かな世代だと思います。その彼らも下流老人に転落してしまうということは、若い世代はどうなるのでしょうか?
- 専門家たちも、今の高齢者世代に、ここまで貧困が広がるとは思っていませんでした。この後の世代は、さらに大変です。今の高齢者世代は結婚している割合は高いのですが、若い世代では、非正規で収入が足りないため、結婚すらできない人がたくさんいます。彼らが高齢期を迎えれば、下流老人は今よりもっと増えるでしょう。下流老人の問題を、個人の努力だけでなんとかしようというのは、現実的ではありません。消費旺盛な若い世代に対して、高額の家賃や教育費、医療費負担の軽減をはかり、さらに親の面倒は国が見る、という政策に転換していかなければ、貧困問題が解消しないだけでなく、景気が良くなるはずもありません。また、これまで、日本は高齢者のケアを家族と企業に依存してきたと言えます。何かあれば家族が面倒を見たし、企業も社宅など福利厚生を充実させることで、こうしたあり方を支えてきました。しかし今、企業はグローバル競争の中で利潤を追求しなければ生き残れないと考え、福利厚生は削減されてきています。家族も支える財力を失っています。たとえば、フランスやドイツなどは、早くから少子高齢化に向けた政策を進めてきました。住宅補助を充実させたり、若者世代の家計負担を和らげて、将来に備えた貯蓄をできるように、教育費の無償化などを進めてきたのです。比較的、緩やかに少子高齢化が進んでいったため、政策を充実させる時間があったからできたと言えます。しかし、日本はあまりにも急速に高齢化が進み過ぎ、政策が明らかに現実に追いついていません。家族扶助が前提の年金制度は、少子化時代にマッチしていません。また、住宅費も高い。首都圏の公営住宅の当選確率は、だいたい30倍、高いときは800倍です。東京大学への入学(学部によるが約2〜10倍の入試合格率)よりもはるかに狭き門なのです。医療面も課題が大きい。医療費が支払えなかったり、そもそも健康保険料が未納で病院にいけず、担ぎ込まれたときには重篤な症状になっていて、高額の医療費がかかるというケースが後を絶ちません。孤独死問題とも密接につながっています。心筋梗塞で通院中だったのに、薬代が払えずに服薬を止めてしまった方は、苦痛で顔がゆがみ、酸欠で真っ黒に変色した死に顔で発見されました。症状が軽いうちに通院できる制度を整えなければ、尊厳ある死に方ができないだけでなく、重病者が増えて医療コストが増大する悪循環となります。
生活保護のスティグマを恐れて、共倒れする日本の家族
――日本は生活保護のスティグマ(烙印)も大きいので、「国に面倒を見てもらう」ことへの罪悪感や恥に苦しむ人も多いですね。
- 特に、日本と韓国は異常ですね。生活に困窮した親の面倒を子どもが無理をしてでもみるという構図では、共倒れになってしまいます。高度経済成長期で余力があればこそできますが、既にそんな時代ではない。税の再配分をきちんと行わなければ、社会が機能しなくなります。海外の先進国では、税だけでなく、寄付で再配分が行われている構図が見られます。日本は寄付もあまり根付いていないし、税の再配分も弱いですから、二極化が進む一方です。これでは消費が伸びるはずもなく、企業が良い商品を作っても売れません。それなのに、アベノミクスは社会保障の充実に力を注がずに、経済成長のみを追いかけようとしている。資産家や企業にこそ、「こうした問題を解消するために、きちんと税金を取ってくれ」と声を上げてもらいたいものです。そして、現時点での下流老人を救うための政策ももちろん必要ですが、若い世代が将来、下流老人に転落しないような政策も必要です。今のままでは、彼らが高齢者になれば、下流老人が激増するのは確実なのです。