Strangers in Their Own Land: Anger and Mourning on the American Right
現代アメリカにおける右派の人々の感情的な背景を、共感を持って描き出した一冊です。
著者のアプローチ
社会学者である著者は、自身がリベラルな拠点とするカリフォルニア州バークレーから、保守的な価値観が根強いルイジアナ州へと向かいました。
そこで暮らすティーパーティー支持者たちと長期間にわたり交流し、彼らがなぜリベラルな政策を拒み、トランプ氏のようなリーダーに惹かれるのかを調査しました。
「ディープ・ストーリー」という概念
この本の核心は、事実やデータではなく、人々が世界をどう感じているかという「ディープ・ストーリー(心の奥底にある物語)」にあります。
右派の人々は、自分たちが「アメリカンドリーム」という長い列に並んでいると感じています。しかし、その列は一向に進まず、自分たちの前に割り込んでくる人々(マイノリティ、移民、政府の補助金を受ける人々)がいるという怒りや、政府が自分たちを後回しにしているという見捨てられた感情を抱いています。
環境汚染と矛盾
ルイジアナ州の住民たちは、深刻な環境汚染に苦しみながらも、環境規制には反対するという一見矛盾した姿勢を見せます。
著者は、これが単なる無知ではなく、政府に対する強い不信感や、地元企業への帰属意識、そして「自分たちは自立した人間である」という誇りから来ていることを解き明かしています。
分断を超えるための試み
本書は、単に相手を批判するのではなく、互いの「共感の壁」を乗り越えようとする試みです。
相手の立場に立ってその感情を理解することが、極端に分断された社会を修復するための第一歩であると提案しています。
トランプ氏の行う「人々の感情の操作」 ホックシールド氏の警鐘
アーリー・ラッセル・ホックシールド氏は、トランプ氏の政治手法を「政策ではなく感情の操作(エモーショナル・ストラテジー)」に基づいたものだと分析しています。
彼女の指摘によれば、トランプ氏は支持者が抱く「見捨てられた」という深い喪失感や怒りを言語化し、彼らが望む誇りを取り戻させることで、強力な支持基盤を築いています。
感情の管理と「ディープ・ストーリー」
ホックシールド氏は、トランプ氏の支持者の心の中にある「ディープ・ストーリー(心の奥底にある物語)」を解き明かしました。
それは、「アメリカン・ドリームを目指して長い列に並んでいるのに、後から来た移民やマイノリティに割り込みをされ、それを政府が助けている」という感覚です。
トランプ氏は、この「列に並んで待っているのに報われない」という怒りや恥の感情を肯定し、彼らを「真のアメリカ人」として称賛することで、感情を劇的に解放させています。
感情ルールからの解放
トランプ氏の言動が支持される理由の一つに、リベラルな社会が求める「感情ルール(ポリコレなど)」からの解放があります。
ホックシールド氏によれば、支持者たちは「差別をしてはいけない」「こう感じるべきだ」という社会的な抑制に疲れ果てていました。
トランプ氏が過激な言葉で既存のルールを壊す姿は、彼らにとって「自分たちの本音を代弁し、抑圧から自由にしてくれる」救済として機能しています。
戦略としての感情操作
ホックシールド氏は、トランプ氏にとって事実は重要ではなく、特定の感情を引き出すための「道具」に過ぎないと警鐘を鳴らしています。
- 特定の対象(フェイク・アメリカン)への怒りを煽る
- 自分自身への畏敬の念を抱かせる
- 現実(気候変動やパンデミックなど)をスイッチのように切り替え、都合の良い物語を作り出す
このように、政策的な整合性よりも「支持者がどう感じるか」を最優先する手法が、アメリカ社会の分断を深める一因になっていると彼女は分析しています。
トランプに公約違反はあるか?
トランプ氏の公約達成状況は、一期目・二期目(2026年5月現在)ともに「一部の劇的な進展」と「法や現実に阻まれた停滞」が混在しています。
一期目では減税や保守派判事の任命などで支持層の期待に応えましたが、メキシコ国境の壁(メキシコ負担)やオバマケア撤廃には失敗しました。二期目では不法移民の強制送還に着手しているものの、物価高の抑制やウクライナ戦争の即時終結といった大きな公約は難航しています。
一期目(2017-2021年)の主な達成と違反
一期目では、共和党の伝統的な政策とトランプ氏独自の看板政策で明暗が分かれました。
達成された主な公約
- 法人税の大幅減税:
連邦法人税率を35%から21%に引き下げました。 - 保守派判事の任命:
最高裁判事3名を含む多くの保守派判事を送り込み、中絶権の否定(後の判決)への道筋を作りました。 - 規制緩和:
エネルギー業界などを中心に、多くの連邦規制を撤廃しました。
公約違反・未達成の主な項目
- メキシコに費用を負担させて壁を作る:
壁の一部は建設されましたが、費用は米国の国家予算から支出され、メキシコは支払っていません。 - オバマケア(医療保険制度改革)の撤廃:
議会での否決により、完全な撤廃には至りませんでした。 - インフラ投資:
1兆ドル規模の投資を掲げましたが、具体的な法案成立には至りませんでした。
二期目(2025年-2026年5月時点)の現状
2026年5月現在、二期目の政権運営は法的・経済的な壁に直面しています。
進展している公約
- 史上最大の強制送還作戦:
実行に移されており、すでに数十万人規模の送還が行われたと報告されています。 - TikTokの存続:
前政権の方針を覆し、米国資本を導入する形で存続を支援しました。 - 教育現場への介入:
多様性・公平性・包括性(DEI)プログラムの廃止に向けた大統領令を連発しています。
難航・違反が指摘されている公約
- ウクライナ戦争を24時間以内に終結させる:
就任後1年以上経過した現在も戦争は続いており、仲裁は難航しています。 - インフレの即時解消:
ガソリン代など一部で下落は見られるものの、食料品や住居費は高止まりしており、支持層からも不満が出ています。 - 関税による経済成長:
全輸入品への一律関税(10〜20%)や中国への60%関税を掲げましたが、最高裁による制限や物価上昇への懸念から、当初の計画通りには進んでいません。
公約に対する国民の評価
最近の調査(2026年5月時点)では、「トランプ氏は公約を守る人物だ」と考える米国民の割合は、就任直後の5割超から4割弱へと低下しています。
支持者は強制送還などの「断行姿勢」を評価する一方で、生活に直結する物価問題や、公約したはずの不妊治療(IVF)の無償化が議会で阻まれるなどの状況に対し、厳しい目が向けられ始めています。


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