ヒズボラ(レバノン)、ハマス(パレスチナ)、フーシ派(イエメン)、シーア派民兵(イラク)
バンカーバスターに震え、イスラエルに制空権奪われミサイル無用論まで
イラン・イスラエル間の軍事衝突の現状
- イスラエルによる奇襲攻撃(6月13日以降)から1週間、イランの反撃能力が大きく低下していると報じられています。
- イランの主な攻撃手段である中長距離弾道ミサイルの発射数は、13~14日に200発、15日には105発、17日には30発と大幅に減少。
- イスラエルはイラン領空の制空権を掌握し、ミサイル発射台などを事前に破壊。イランが保有していた発射台の約3分の1(120台)を破壊したと発表。
- イランのミサイルは旧式の液体燃料を使用しており、燃料注入だけで2時間以上かかるため、発射準備中にイスラエルの空爆を受けやすい。
ミサイル在庫と生産能力
- イランの中距離弾道ミサイル(MRBM)の在庫は最大で約1300~2000発と推定されるが、すでに多くを消費しており、短期間での増産も困難。
- イスラエルが制空権を握っていることで、ミサイル貯蔵庫や生産施設も攻撃対象となっている。
イスラエルの防空網と課題
- アイアンドーム、パトリオット、アローなど多層防空網を構築しているが、1日あたりの運用コストは約3億ドル(約435億円)に上る。
- アメリカの補給がない場合、イスラエルの防空網の持続期間は10~12日程度と見積もられている。
バンカーバスターとイラン核施設
- イスラエルが最終的な目標とするのは、堅牢な地下にあるイランのフォルド核施設の無力化。
- 米軍が保有する超強力バンカーバスター「GBU-57」級の兵器のみが有効とされるが、イランは高強度コンクリート技術を持ち、破壊は容易でないとの見方もある。
- イランが電子戦でGPS妨害を行えば、精密攻撃も難しくなる可能性がある。
今後の見通し
- イランの反撃能力が完全に消えたわけではなく、地下に隠された武器庫やミサイルの存在も指摘されている。
- 一方、イスラエル側も防空網の長期維持には限界があり、今後の戦局は予断を許さない。
参考画像
- テルアビブに飛来したイランの弾道ミサイルをイスラエルの防空網が迎撃する写真が報じられています。
このように、イスラエルの制空権掌握と先制攻撃により、イランのミサイル戦力が大きく削がれ、「ミサイル無用論」まで浮上していますが、両国とも決定的な優位を維持し続けるのは難しい状況です。
過去のような「即応的・積極的な軍事行動」をとる「余力と意志」を失いつつある
イランの「抵抗の枢軸」が動かない訳
- イランが数十年かけて構築してきた「抵抗の枢軸」(Axis of Resistance)――ヒズボラ(レバノン)、ハマス(パレスチナ)、フーシ派(イエメン)、イラクのシーア派民兵など――は、イスラエルとの軍事衝突が激化した現在、ほとんど介入していません。その背景には複数の要因が重なっています。
主な要因
軍事力・指導部の大幅な損耗
- ヒズボラは過去1年間のイスラエルによる空爆で戦力・指導部ともに大きな打撃を受けており、現在は再建と体制の立て直しを優先しています。
- ハマスも20カ月に及ぶ戦闘で指導者を多く失い、ガザ地区の組織基盤が壊滅的な打撃を受けています。
内部の疲弊と分断
- これらの民兵組織は、イスラエルの空爆や諜報能力への恐怖、組織内の分裂、資金・兵站の枯渇といった問題に直面し、イランの呼びかけに応じて大規模な軍事行動を起こす余力を失っています。
イランへの信頼低下と自国優先姿勢
- イスラエルとの直接衝突に際し、イランが十分な支援を提供しなかったとの不満や、イランが自国の存続を優先していることへの失望が広がっています。ヒズボラは「イラン政権が崩壊の瀬戸際に立たされた場合のみ参戦する」との立場を示し、レバノン国内の再建や自組織の生き残りを優先しています。
国際社会の圧力と地域の現実
- 各組織はイスラエルや米国による大規模な報復を恐れ、また自国経済や社会情勢の安定を優先する傾向が強まっています。イラクの民兵組織は経済的利益を重視し、フーシ派も慎重な姿勢を保っています。
現状のまとめ
組 織 | 現 状 ・ 対 応 |
ヒズボラ | 戦力・指導部損耗、 再建優先、 軍事行動自制 |
ハマス | 指導部喪失、 ガザ壊滅、 軍事力低下 |
フーシ派 | 支持表明も実質的な軍事行動は限定的 |
イラク民兵 | 米軍介入時のみ行動示唆、 経済優先 |
結論
- イランの「抵抗の枢軸」は、過去のような即応的・積極的な軍事行動をとる余力と意志を失いつつあります。各組織は自らの生存と再建を優先し、イランとの距離を取る傾向が強まっており、イランは地域で孤立を深めています。
統治基盤が動揺
イスラエルの攻撃、イラン神政体制を揺るがす
イスラエルの大規模攻撃とその標的
- イスラエルは2025年6月、50機以上の戦闘機を動員し、イランの遠心分離機製造施設2カ所と複数の兵器製造施設を標的に空爆を実施しました。これにより、イランの核開発および軍事インフラに大きな打撃を与えたとみられます。
イラン指導部への圧力と体制の動揺
- この攻撃により、イランの神政体制は大きく揺らいでいます。イスラエルの攻撃によって、イランは軍最高司令官を含む少なくとも6人の高官の交代を余儀なくされるなど、指導部の安定性が損なわれています。また、これまで国民に保証してきた「安全」も大きく損なわれ、体制の根幹が揺さぶられている状況です。
米国とイスラエルの圧力、最高指導者も標的に
- 米国とイスラエルは、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師でさえ標的になり得ると明言しており、トランプ米大統領は「彼は容易に狙える標的だが、現時点で排除(殺害)するつもりはない」と発言しています。これは、イラン指導部に対する圧力をさらに強めるものであり、体制の存続に対する脅威となっています。
国民の安全保障の喪失と体制への不信感
- イスラエルの攻撃により、イラン国民がこれまで享受してきた「安全の保証」が損なわれつつあります。国民の間で体制への不信感や不安が広がることで、神政体制の統治基盤が動揺していると指摘されています。
まとめ
- イスラエルの大規模な軍事攻撃は、イランの軍事力だけでなく、神政体制そのものの安定性を大きく揺るがしています。指導部の交代や国民の安全保障の喪失は、体制の今後に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
イランの制空権奪ったイスラエル、ロシア未達の戦果
- イスラエルがイランの制空権を奪取した意義と背景
イスラエルの制空権掌握の概要
- イスラエルは2025年6月、イランへの攻撃開始からわずか48時間以内に、首都テヘランを含むイラン西部の制空権を掌握したと発表しました。イスラエル空軍の戦闘機は、高価な長距離ミサイルに依存せず、イラン上空から直接爆弾を投下する能力を示しました。この成果は、現代戦における制空権の重要性を改めて浮き彫りにしています。
ロシアとの比較:ウクライナ戦争の文脈
- このイスラエルの戦果は、ロシアがウクライナ戦争でいまだに達成できていない点と対照的です。ロシアは2022年2月のウクライナ侵攻直後、首都キーウ制圧に失敗し、その後も制空権を確保できず、塹壕戦に苦しみ続けています。制空権を奪えないことが、ロシア軍の甚大な損失と戦局膠着の一因となっています。
制空権の軍事的・戦略的意義
- 制空権を握ることで、敵の防空網やミサイル発射装置を効率的に破壊でき、地上部隊や重要インフラへの攻撃が容易になります。
- イスラエルはテヘランを含むイラン全土を攻撃対象に拡大し、核関連施設や行政機関など多様な標的への空爆を実施しています。
- 制空権の確保により、イスラエルは今後の戦闘を有利に進められるとみられています。
情報戦と特殊作戦の連携
- イスラエルの情報機関モサドは、攻撃前からイラン国内に潜入し、武器の事前搬入や自爆型ドローンの設置、現地協力者による防空網の攪乱など、空軍作戦と連動した精密な攻撃を展開しました。これにより、イスラエル空軍は大規模な航空機編隊による爆撃を成功させ、全機が無事帰還したと報じられています。
今後の展望とリスク
- イラン側もミサイルによる反撃を続けているものの、発射装置の多くが破壊されており、長期的な反撃能力の維持は難しいとの見方が強まっています。
- イスラエルによる遠隔地での単独行動には限界やリスクも指摘されていますが、現時点でイランの防空能力は大きく削がれています。
まとめ
- イスラエルがイランの制空権を短期間で掌握したことは、現代戦における空軍力と情報戦の融合、そして制空権の戦略的価値を示す象徴的な事例です。ロシアがウクライナでいまだ達成できないこの成果は、今後の中東情勢や国際安全保障の議論にも大きな影響を与えると考えられます。
ウクライナの港を出発する船が増加、新しい回廊を経由して黒海通過
ウクライナの港から出発する船舶増加と黒海「人道回廊」の現状
- 2023年7月にロシアが黒海穀物輸出合意(黒海穀物イニシアティブ)から離脱したことにより、ウクライナの黒海沿岸港からの穀物輸出は一時大幅に減少しました。しかし、その後ウクライナは独自に「人道回廊」と呼ばれる新たな航路を設定し、輸出の再開と拡大を進めています。
主なポイント
- ウクライナが設定した臨時の「人道回廊」を利用し、黒海を通過する船舶が増加しています。
- 2023年秋以降、この新ルートによりウクライナの穀物輸出は徐々に回復し、オデーサ、チョルノモルスク、ピウデンニー(ユージヌイ)などの港から多くの船が出発しています。
- 具体的には、2023年10月時点で3隻のばら積み貨物船が回廊を通過し、さらに5隻が積み込みを待っていると報告されました。これらの船は合計で約12万トンの穀物をアフリカや欧州に輸送する予定です。
- 2023年8月以降、新たな回廊経由で輸出された穀物は70万トンを超え、2023年12月までの4カ月間でオデーサ、ユージヌイ、チョルノモルスクの3港から合計700万トン超(うち500万トンが農産物)が輸出されました。
- この新ルートは、ウクライナ南西沿岸からルーマニア領海を経由し、トルコに至る安全航路として使われています。
背景と影響
- ロシアの合意離脱後、ウクライナ産穀物の世界市場への供給が急減し、食料価格の上昇やアフリカ・中東などへの影響が懸念されていました。
- 新たな回廊の運用により、ウクライナ経済の維持と世界の食料供給安定化に一定の効果が出てきています。
- ただし、ロシアは黒海を航行するウクライナ向け貨物船を軍事目標とみなすと警告しており、依然としてリスクは残っています。
まとめ
- ウクライナはロシアの合意離脱後も独自の「人道回廊」を設け、黒海経由の穀物輸出を再開・拡大しています。これにより、世界の食料供給への影響を一定程度緩和しつつありますが、航行リスクや物流の課題は依然として存在します。