ブラジル最高裁、ボルソナロ氏に有罪判決 クーデター未遂で
ブラジル最高裁判所は2025年9月11日、ジャイル・ボルソナロ前大統領(70)に対し、2022年の大統領選挙結果を覆そうとしたクーデター未遂の罪で有罪判決を下しました。判事5人による多数決で決まったもので、同氏には数十年の禁錮刑判決が下る可能性が高いと見られています。
この判決により、ドナルド・トランプ米大統領とブラジルのルラ政権との対立が一層激しくなると予想されています。判決はブラジル国内の民主主義と司法のあり方を巡る波紋を広げるだけでなく、米国との外交関係にも大きく影響しそうです。
国内政治への影響:
- ボルソナロ氏は2022年の大統領選挙で接戦の末敗北後、選挙結果を認めず異議を唱え続け、2023年には支持者が連邦議会など政府機関を襲撃する事件が発生しました。今回の判決は、こうした反民主的行動の責任を司法から厳しく問うもので、ブラジルの法治主義の強化を示しています。
- ボルソナロ氏は最長で43年禁錮の可能性があり、政治的に大きな打撃となり、支持者の動揺や右派内の分裂も予想されます。
- 来年の大統領選挙にも影響し、現職のルラ大統領の再選を有利にする一方、ボルソナロ支持者の反発は根強く、政治対立の激化が懸念されます。
国際関係への影響:
- 米国のトランプ元大統領はこの裁判を「魔女狩り」と批判し、ボルソナロ氏と同様に親米右派とみなされるトランプ氏自身との連携や影響力の余波も注目されています。
- ブラジルはルラ政権で左派に転換し、中国との関係強化を進めたことが米国との緊張を生み、米国側はブラジルに対し貿易関税を大幅に引き上げるなど圧力を強化しています。
- 最高裁判決はブラジルの民主主義と司法の独立性を世界に示す一方、米国との対立や国際貿易の面でも複雑な影響が続く見込みです。
まとめると、この判決はブラジルの内政の安定と法の支配の強化という意義を持つ一方で、政治的分断や国際的な緊張の深化も懸念される重要な節目となっています。
ルラ大統領の支持が不支持上回る―ブラジル、トランプ関税影響か
ブラジルのルーラ大統領の支持率は、2025年07月にトランプ前米大統領がブラジルからの輸入品に50%の関税を課すと発表したことを受け、今年に入って初めて不支持率を上回りました(支持率50.2%、不支持率49.7%)。この関税措置に対してルーラ大統領は「主権侵害」と強く反発し、世界貿易機関(WTO)への提訴も辞さない姿勢を示したことが有権者の支持を後押ししたとみられています。
また、トランプ政権がブラジルのボルソナロ前大統領の裁判を担当する判事に対して資産凍結などの制裁を科したことも、ルーラ大統領が司法の独立を支持する姿勢を示す一因となり、政権支持につながっています。
一方で別の調査では、2025年07月時点での支持率は43%にとどまり不支持率の53%を下回るものの、前回調査と比べて支持率は上昇し、不支持率は減少するなど改善傾向も見られます。特に、トランプの関税に対抗するルーラ政権の外交姿勢に多くの国民が期待を寄せていることが支持率の回復要因となっているとの分析もあります。
つまり、トランプ関税はルーラ大統領の支持率改善に影響を及ぼしており、ブラジルの有権者の間で米国の措置に対する反発が政権支持につながっている状況です。
【参考】
- 2025年07月末の世論調査で支持率50.2%(不支持率49.7%)
- トランプ氏の関税措置を「主権侵害」と反発し、WTO提訴も含む強硬姿勢
- 司法の独立支援の姿勢と米政府の制裁に対する反発
- 支持率は調査によって異なるが、トランプ関税による支持率上昇の傾向は共通
トランプ関税から農業製品を除外要請-ブラジル
ブラジル政府は、2025年08月1日に発効する米国の50%輸入関税について、農業製品を除外するよう米国に要請しています。特にブラジルの主要輸出品であるコーヒーとオレンジについて、ラトニック米商務長官に対して関税リストからの除外を求めており、オレンジは対米輸出の42%、コーヒーは17%を占めるため、関税適用は業界に深刻な影響を及ぼすとされています。このため、ブラジルは深刻な打撃回避を狙っています。
また、ブラジルの産業界も、食料品や航空機を含む製品の関税除外をトランプ政権に水面下で働きかけており、複数の農業団体も政府と話し合いを行い、追加関税の延期や除外を求めています。ブラジル政府は、対話を通じて両国に受け入れ可能な解決策を模索する姿勢を示していますが、適用開始日の延期は求めていません。
米国が除外した品目には、オレンジジュースや木材パルプ、民間航空機および部品などがあり、農業製品の中でも特に重要な輸出品の除外要請が行われています。これら製品が対象から除外されることで、市場に一定の安心感が広がっています。
世界最高 米の50%関税 ブラジル、発動避けられず
2025年08月1日からアメリカはブラジルに対して世界最高水準となる50%の輸入関税を課す見通しであり、これは避けられない状況です。これはドナルド・トランプ前大統領が、保守派のジャイール・ボルソナロ前大統領がクーデター未遂などの裁判で「政治的な魔女狩り」と批判されたことを背景に、ブラジルに対して行う措置です。
ブラジルのルラ大統領は交渉の姿勢は見せつつも、「脅迫や干渉は受けない」と強く主張し、50%の相互関税の発動までも辞さない姿勢を示しています。さらに、世界貿易機関(WTO)への提訴や、中国との連携強化も検討中です。しかし、米国との実質的な交渉はまだ始まっておらず、米商務長官は「関税は発動し、その後に交渉する」と述べています。
関税発動が現実となれば、鉄鋼やアルミニウム産業に大きな打撃が予想され、農水産物分野でも米国向けの水産物輸出が全面停止に追い込まれているほか、コーヒーやオレンジの輸出見直しも進んでいます。ブラジル政府や企業は米企業と接触を試みていますが、米国側に報復リスクがあるため反応は慎重です。
ブラジル国内ではトランプ関税に対して不満が強く、それがルラ大統領の支持率上昇につながっている一方で、「関税で国益を損なう」との批判も根強い状況です。
以上の現状から、ブラジルに対するアメリカの50%関税は間近に迫り、ブラジル側は多様な対応策を模索しつつも、依然として展望は厳しいと言えます。
ボルソナロの功罪
ジャイール・ボルソナロ前ブラジル大統領の「功罪」は、彼の政権運営や政治姿勢に対する評価が大きく分かれる点に集約されます。
主な「功」
- 汚職・犯罪撲滅を掲げた改革姿勢
ボルソナロ氏は「ブラジルを再び偉大な国にしたい」と、自国第一主義や財政再建、汚職・犯罪撲滅を公約に掲げて政権に就きました。既存政治家への不信感が高まる中、2018年の大統領選で「変革の受け皿」として熱狂的な支持を集めました。 - 保守層への訴求と政策実行
保守層を強く意識した政策運営を行い、熱心な支持基盤を築きました。銃規制の緩和など、特定の有権者層の要望に応えた政策も実施しています。
主な「罪」
- 民主主義の根幹を揺るがす行動
2022年の大統領選で敗北した後、選挙結果を受け入れず、結果を覆そうとしたとしてクーデター未遂罪で起訴されています。検察は、ボルソナロ氏が「犯罪組織の首謀者」として一連の陰謀を図ったと断定しています。 - 議会襲撃事件との関与
2023年1月、ボルソナロ氏の支持者が首都ブラジリアで連邦議会などを襲撃する事件が発生しました。ボルソナロ氏自身の直接的な指示は不明ですが、彼の選挙結果を認めない姿勢が背景にあったとされています。 - 社会的分断の助長
トランプ前米大統領と類似した「二元論による対立を煽る政治手法」を駆使し、社会の分断を深めたとの指摘があります。 - 議会との不安定な関係
ボルソナロ政権下では、議会との関係が安定せず、立法能力の向上にはつながりませんでした。政権維持のために中道右派グループへの接近など、ポストや予算の分配を通じて政治的取引が行われました。
その他の特徴
- 「ブラジルのトランプ」とも称される強硬・保守的なスタンス
差別的発言や過激な言動が多く、国内外で物議を醸しました。 - 国際社会との摩擦
環境政策や人権問題などで国際社会と対立する場面も目立ちました。
ボルソナロ氏は、既存政治に対する不信感を背景に登場し、一定の改革を訴えた一方で、民主主義の根幹を揺るがす行動や社会分断の拡大など、多くの重大な問題を残しました。現在もクーデター未遂罪などで裁判が続いており、その評価は極めて分かれています。
トランプ氏の「魔女狩り」発言批判 ブラジル・ルラ大統領
アメリカのトランプ大統領が、ブラジルのボルソナロ前大統領に対するクーデター計画関与の裁判を「政治的な魔女狩り」と自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で批判し、「ボルソナロ氏は法廷でなく、有権者による選挙で裁かれるべき」と擁護しました。これに対し、ブラジルのルラ大統領は「主権国家として、いかなる干渉や指導も受け付けない」「自由と法の支配を攻撃することは、何人といえど許されない」と強く反発し、トランプ氏の発言を内政干渉だと批判しました。
この応酬の背景には、ボルソナロ氏が2022年の大統領選挙で敗北後、ルラ大統領や最高裁判事の暗殺計画に関与した罪で起訴されていることがあります。トランプ氏はボルソナロ氏と親交が深く、今回初めて裁判に言及しました。
さらにトランプ氏は、ボルソナロ氏の起訴が「自由な選挙への攻撃」だとして、ブラジルからの輸入品に対し8月1日から50%の関税を課すと発表し、外交問題に発展する可能性も指摘されています。
ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ(ルーラ)の功罪
ブラジル現代史において極めて大きな影響を持つものです。以下に主な功績と問題点を整理します。
主な功績
- 貧困撲滅と社会保障の拡充
ルーラは「ボルサ・ファミリア」や「フォメ・ゼロ」などの大規模な社会保障制度を導入し、貧困層や労働者階級の生活向上に大きく寄与しました。これにより、毎月1400万人以上の貧困家庭に現金給付が行われ、極度の貧困状態にあった子どもたちや家庭の生活改善が実現しました。 - 経済成長と国際的地位の向上
ルーラ政権下でブラジル経済は成長し、国際社会での発言力も増しました。BRICSの議長国としてのリーダーシップや、イランの核開発問題、気候変動問題など国際的課題にも積極的に関与しました。 - 労働運動と民主化への貢献
元金属労働者・労働組合指導者として、軍事独裁体制下でストライキを主導し、民主化運動に寄与した功績も評価されています。
主な問題点・批判
- 汚職疑惑と有罪判決
ルーラは大統領退任後、国営石油会社ペトロブラスを巡る汚職事件で収賄・資金洗浄の罪に問われ、有罪判決(禁錮9年6カ月~12年1カ月)を受け、2018年には実際に収監されました。ただし、裁判手続きの公正さや証拠の有無については国内外で議論があり、2021年には連邦最高裁が一部の有罪判決を手続き上の理由で取り消しています。 - 政権運営を巡る汚職事件
1期目から「メンサロン事件」など複数の汚職事件が発覚し、政権のクリーンさには疑問符がつきました。 - 経済政策への賛否
国家主導の「大きな政府」路線は、一定の成果を上げた一方で、財政負担や経済の硬直化を招いたとの批判もあります。特に近年の対中経済協力やロシア訪問など外交政策については、国内産業界や一部世論から賛否が分かれています。
総括
- ルーラは貧困削減や社会的包摂、国際的地位の向上という面で大きな功績を残した一方、汚職疑惑や政権運営の透明性、経済政策の持続可能性などで大きな課題も抱えた指導者です。彼の評価は、ブラジル社会における格差是正の象徴であると同時に、政治腐敗の象徴でもあるという、両義的なものとなっています。
アメリカとブラジルのどちらが総合的に依存しているか
比較すると、ブラジルの方がアメリカに依存している側面が強いといえます。
- トランプ前米大統領も「ブラジルは全てにおいて米国に依存しているが、米国はブラジルには少しも依存していない」と発言しており、これは両国関係の冷え込みも背景にあります。
- ブラジル経済は輸出入の面で特定国への依存度が低い構造を持ち、米国以外にもEUや中国など多極的な貿易関係を持っていますが、依然としてドルへの依存は続いています。
- 一方、米国はブラジル産のコーヒーやオレンジジュースなど輸入品に依存している部分はあるものの、経済全体としてブラジルへの依存度は限定的です。
- また、ブラジルはドル依存からの脱却を試みているものの、実際には米ドルに頼る姿勢が変わっていません。
以上から、総合的にはブラジルがアメリカに対して依存している度合いが高く、アメリカはブラジルに対して依存度が低いという構図が現在の両国関係の特徴です。
- ブラジル社会の多様な思想的潮流とその実践者たちを体系的に紹介する論集です。
この書籍の特徴は以下の通りです。
- 20人の代表的な思想家・実践家・芸術家を取り上げ、彼らの生涯や業績を通じて、ブラジル社会が直面してきた課題とその克服のための思想的営為を解説しています。
- 取り上げられる人物には、社会学者セルジオ・ブアルキ・デ・オランダ、経済学者セルソ・フルタード、教育者パウロ・フレイレ、作家マシャード・ジ・アシス、環境保護活動家シコ・メンデスやマリナ・シルヴァ、政治家ルーラ大統領などが含まれます。
- 人権、ジェンダー平等、市民参加、民衆運動、環境保全、多元的外交、文化創造といった分野での先進的な思想や実践が紹介されており、現代社会が直面する分断や対立、環境危機へのヒントが示されています。
- 章立ては「社会を解剖する」「低開発と闘う」「社会運動を率いる」「多文化を編む」といったテーマごとに構成されており、各章で思想家や運動家の思想とその社会的背景が平易に解説されています。
- 編者の小池洋一は立命館大学で経済学とラテンアメリカ地域研究を専門とし、子安昭子・田村梨花は上智大学でそれぞれブラジル現代政治・外交、ブラジル地域研究・社会学を専門とする研究者です。
この書籍は、激動と困難の時代を生き抜いてきたブラジル社会思想のエッセンスを集成し、「もう一つの世界は可能だ!」というメッセージを込めて、対話と共生の知を求める現代社会への指針を提供しています。
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