パキスタンはアフガニスタンがインドと仲良くされると困る
パキスタンがアフガニスタンとインドの関係に神経質になる背景は、パキスタンの安全保障上の強い懸念によるものです。パキスタンは、アフガニスタンに親インド勢力が強まることを非常に警戒しています。理由は、アフガニスタンがインドと結びつくことで、アフガニスタンがパキスタン領内のパシュトゥン人やバローチ人の分離運動を煽る恐れや、インドがアフガニスタンを足掛かりにパキスタンの利益を損なうことを防ぐために、アフガニスタンに親パキスタンの政権を維持・支援するというパキスタンの「戦略的縦深」政策があるからです。
具体的には、パキスタンはタリバンを支援し、アフガニスタン国内で影響力を保つことで、インドの影響拡大を抑えようとしています。これに対してインドは、9.11後のタリバン政権崩壊後の新政権を支援し、アフガニスタンでの影響力を拡大しようと努めています。このため、パキスタンはアフガニスタンとインドが協力する関係に強い警戒心を抱いています。
歴史的には、パキスタンとアフガニスタンは国境問題や民族問題(パシュトゥン人の統合問題)でも対立があり、この構図がパキスタンの不安を一層強めています。このため、パキスタンはインドとアフガニスタンの連携を危険視し、それによって自国の安全保障や領土の安定が脅かされることを懸念しているのです。
2025年10月11日 パキスタン、アフガン首都を空爆か…タリバンの指導者の車両と宿泊先が狙われる
2025年10月9日夜、パキスタンが隣国アフガニスタンの首都カブールを空爆したとタリバン暫定政権の国防省が発表しました。空爆はカブールのほか東部パクティカ州でも行われ、カブールではタリバンを支持するパキスタン・タリバン運動(TTP)の指導者の車両や宿泊先が標的とされました。パキスタン軍はアフガンの領土がTTPの拠点になっていると主張しており、自国民の安全確保のために必要な行動を取るとしていますが、空爆の実行は明言していません。このカブール空爆は、パキスタンが過去に国境周辺で行ってきた越境攻撃としては異例の事態とみられています。現時点で死傷者などの詳細は発表されていません。
以上の事実から、パキスタンはテロ対策を理由にアフガニスタンの首都を空爆し、パキスタン・タリバン運動の指導者を狙った動きと見られますが、現地の緊張は一層高まっている状況です。
パキスタン・タリバン運動
パキスタン・タリバン運動(Tehrik-i-Taliban Pakistan, TTP)は、パキスタン北西部の連邦直轄部族地域(FATA)南ワズィーリスターンを拠点とするイスラム主義武装組織で、約3万5000人の兵力を持つ複数のタリバン系武装集団の連合体です。2007年に13のタリバン系組織が合同して発足し、シャリーア(イスラム法)に基づくイスラム国家の樹立とパキスタン政府の転覆を目標としています。公式にはアフガニスタンのタリバンとは別組織ですが、2010年代以降はタリバン指導者やアルカイダと提携関係を持つようになりました。
TTPはこれまでパキスタン国内で政府や軍、治安部隊を標的に多数の自爆テロや襲撃を行い、多くの犠牲者を出しています。2012年の女子学生マララ・ユサフザイ銃撃事件や、2014年のペシャワル学校集団殺害事件などが国際的に大きな注目を集めました。2014年以降、パキスタン政府は軍事作戦でTTPの拠点を攻撃し勢力を抑え込んだものの、一部はアフガニスタンに逃れて越境攻撃を続けています。
近年は2022年にTTPによる停戦破棄や一連のテロ再燃により、パキスタン国内の治安情勢が再び悪化しているほか、アフガニスタンのタリバン暫定政権との関係も複雑で、パキスタン政府はタリバンがTTPを保護していると非難しています。TTPの内部でも指導者交代や分派が相次ぎ、絶えず変動しています。
パキスタンとロシアの関係は良好
パキスタンとロシアの関係は2025年においても比較的良好で、両国は伝統的なパートナーとして経済や安全保障分野で協力を進めています。ロシアのプーチン大統領とパキスタンのシャリフ首相は上海協力機構(SCO)の枠組みで会談を重ね、エネルギーや農業、鉄鋼、交通、地域経済回廊の開発など多方面での協力を強化しています。ロシアはパキスタンに対してバランスの取れた地域外交を支持し、両国間の貿易促進にも意欲的です。2025年初めにはソビエト時代に建設されたカラチのパキスタンスチールミルの復興に向けた協定も結ばれています。
安全保障面では、両国は地域の安定とテロ対策に関して協議し、SCOを通じて連携を図っていますが、パキスタンのタリバン運動やパキスタン・タリバン運動(TTP)に対する対応は主にパキスタン独自の政策であり、ロシアの直接介入の証拠はありません。
総じて、ロシアとパキスタンは経済・政治・安全保障の分野でパートナーシップを強めつつも、それぞれの独自の外交戦略を追求している関係です。
アフガニスタンとロシアの関係も良好
アフガニスタンとロシアの関係は2025年において実質的かつ戦略的な協力関係を築いています。ロシアは2025年7月に世界で初めてタリバン暫定政権を正式に承認し、タリバン政権との外交関係を開きました。これには、ロシアの外交官のカブール訪問やタリバン幹部の国際会議参加などが含まれ、政治・経済の両面で関係を拡大しています。
特に鉱業や鉄道、エネルギー、農業分野での経済協力を強化しており、アフガニスタンの鉱物資源開発や貿易ネットワークの構築にロシアが関心を示しています。また、地域の安全保障やテロ対策でも協力体制を保持し、麻薬犯罪対策も重要な課題となっています。ロシアはアフガニスタンの安定化と経済発展に関与しようとしており、同時に自国の戦略的影響力を中央アジア地域で拡大する狙いがあります。
こうした背景から、アフガニスタンとロシアは敵対関係ではなく、むしろ協力関係を深めていると言えます。
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