紛争の根底には帝国主義的支配、民族移動、強制的な政策
2025年08月25日 クリミア半島は本当にロシア「固有の領土」なのか? 複雑な歴史を振り返る
- 2025年08月18日、ゼレンスキー大統領は欧州首脳と共にホワイトハウスでトランプ米大統領と会談し、戦争終結や平和構築について協議した。クリミア半島などの扱いを巡って意見の違いはあったが、会談は友好的に進み、米国がウクライナ支援に関与する姿勢が示された。ただし具体策は明言されず、三者会談(ウクライナ・ロシア・米国)の開催も不透明なままである。
クリミア半島は黒海に面した戦略拠点で、歴史的に多様な民族や国家の影響を受けてきた。
- 中世にはモンゴル系キプチャク・ハン国の支配を経て、15世紀にはクリミア・ハン国が成立し、オスマン帝国の保護下に入った。住民はイスラム教徒のクリミア・タタール人が主体だった。
- 18世紀後半、ロシア帝国が黒海進出のため併合し、セバストポリを建設。多数のロシア人が移住し、人口比がロシア系優位へ転じた。
- ソ連時代の1944年、スターリンがクリミア・タタール人を強制追放し、半島のロシア化が進んだ。
- 1954年にはフルシチョフがロシア共和国からウクライナ共和国へ移管。そのまま1991年のソ連崩壊までウクライナに属した。
こうした経緯から、クリミアは「ロシア固有の領土」とは言い切れない複雑な歴史を持ち、今日の紛争の根底には帝国主義的支配、民族移動、強制的な政策などが積み重なっている。
まとめると、クリミア半島は地政学的にロシアにとって死活的拠点である一方、その帰属には多民族・多国家の歴史的背景が関わっており、「固有の領土」とする主張は単純化しすぎだといえる。
ウクライナの歴史の流れ(概要)
古代・中世の起源
- 4世紀以降ゲルマン人の大移動で空白地帯にスラブ人が拡大。
- 9世紀末「リューリク朝」によって東スラブが統合され「キエフ・ルーシ」建国。
- このキエフ・ルーシが後のロシア・ウクライナ・ベラルーシの起源。
- 10世紀末ビザンツ帝国との結婚を機にキリスト教が受容される。
- ヤロスラフ大公期に最盛期を迎えるが、その後衰退。
モンゴル支配と分裂
- 13世紀モンゴル帝国の侵攻でキエフ・ルーシは崩壊。
- この地にはモンゴル起源の「キプチャク汗国」が成立。
- 東スラブ人はロシア系・ウクライナ系・ベラルーシ系に分化。
- 14世紀以降はリトアニア大公国・ポーランド王国が進出しウクライナは両国の影響下に。
コサックの登場とモスクワとの結びつき
- 16世紀、ウクライナ・コサックが勢力拡大。
- 17世紀半ばポーランド支配への反乱(フメリニツキーの乱)で「ヘトマン国家」が成立。
- 1654年モスクワ大公国と同盟(ペレヤスラフ協定)によりロシアとの結びつきが始まる。
- その後モスクワとポーランドの間でウクライナは分割され、東はロシア、西はポーランド支配に。
帝国時代と民族意識の芽生え(18〜19世紀)
- ポーランド分割により大半のウクライナはロシア帝国領に、西ウクライナはオーストリア帝国領に。
- ロシアはウクライナ語の使用を禁止し、同化政策を取る。
- 一方オーストリア領ではウクライナ語出版が認められるなど比較的寛容。
- 19世紀後半、ウクライナのナショナリズム運動が育まれていく。
20世紀前半:革命とソ連支配
- 第一次世界大戦とロシア革命を経て1918年に一時的に「ウクライナ人民共和国」として独立。
- しかし内戦と外国軍の介入で短命に終わり、1921年以降ソ連に組み込まれる。
- 1930年代スターリン時代には強制的な農業集団化と収奪により「ホロドモール」という大飢饉が発生し数百万人が死亡。
第二次世界大戦
- 独ソ戦でウクライナは激戦地となり、ナチス占領下で大量のユダヤ人虐殺(バビ・ヤール)や強制労働が発生。
- 戦後ソ連の支配に戻され、西ウクライナ地域もソ連に組み込まれる。
ソ連期後半と独立
- 1954年フルシチョフによってクリミア半島がウクライナに編入。
- 1986年チェルノブイリ原発事故発生。
- 1991年ソ連崩壊でウクライナ独立。初代大統領クラフチュク誕生。
独立後の政治と混乱
- ロシアと西欧(EU・NATO)の間で外交路線が揺れ続ける。
- 2004年不正選挙をめぐり「オレンジ革命」発生。
- 2013〜14年、EUとの協定断念に反対する「ユーロマイダン革命」発生、政権崩壊。
- この混乱を機にロシアが2014年「クリミア半島を併合」、ウクライナ東部ドンバス地方では親露派と政府軍の戦闘が始まる。
現在のロシア・ウクライナ戦争(2022〜)
- 2022年プーチン政権がウクライナ東部2地域を一方的に承認し全面侵攻を開始。
- プーチンは「ロシアとウクライナは本来一体」「NATO拡大阻止」を掲げ戦争を正当化。
- しかしウクライナは激しく抵抗し、西側諸国の支援もあり戦争は長期化。
要約
- ウクライナは古代のキエフ・ルーシを起源とし、モンゴル支配やリトアニア・ポーランド支配、そしてロシア帝国・オーストリア帝国に分割されながら民族的アイデンティティを形成した。20世紀には短期間独立を果たすもソ連に組み込まれ、ホロドモールや大戦の悲劇を経験。1991年に独立を達成した後はヨーロッパとロシアの間で揺れ続け、2014年のクリミア併合、ドンバス紛争を経て2022年以降ロシアとの全面戦争状態にある。
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