相続放棄マンション

所有者不明の空き家問題、マンションでも深刻に

政府が対策に乗り出した所有者不明の不動産問題は、分譲マンションでも深刻になってきた。管理費などを徴収できず、区分所有法に基づくマンション管理が難しいケースが出ている。今後老朽化マンションが増えれば相続を放棄される部屋が増える可能性も高い。新たなルール整備を求める声もあり、東京都は独自に条例制定の検討に入った。

2ch / Twitter / Google / Youtube / gunbird / gnews ゴーストマンション
2ch / Twitter / Google / Youtube / gunbird / gnews 相続放棄マンション

24戸のうち3戸の区分所有者の氏名と住所を特定できない

「管理費や修繕積立金はどうするんだ」

2018年1月、埼玉県内のマンションの管理組合が開いた臨時総会。理事長の説明に出席者の多くは衝撃を隠しきれなかった。24戸のうち3戸の区分所有者の氏名と住所を特定できないという内容だったからだ。

空き室のまま管理費など滞納

空き室のままで管理費などの滞納が続いていた。支払期日から5年近く経過し、支払請求権の消滅時効も迫っていたことから、管理組合は家庭裁判所に対し、不在者財産管理人の選任を申し立てる決議をした。ただ同管理人に部屋を売却してもらっても、滞納分に見合う売却代金を得られるかは不透明だ。

分譲マンションは共同住宅

分譲マンションは共同住宅という性質上、所有者不明問題は一戸建てより複雑な影響を及ぼす。管理組合の運営には区分所有法の規定が適用される。管理費などが徴収できなくなるほか、管理が行き届かない部屋は周囲の住環境を悪化させる。

マンションを解体する場合は全員の合意が必要

さらに管理組合の意思決定の足かせになりかねないのも課題だ。通常の事項の決議には、区分所有者と専有面積に応じて所有者が持つ議決権のそれぞれ過半数の賛成が必要。特別決議事項である規約の変更・廃止などは同4分の3、建て替えは同5分の4の賛成が必要になる。

建て替えるのでなくマンションを解体する場合は区分所有法に規定がない。そのため民法の規定に従い区分所有者全員の合意が必要となる。区分所有者がはっきりしなければ重大事項を決められないリスクが増す。

連絡がつかない所有者らが存在するのは回答した639組合のうち87組合(14%)

国土交通省が16、17年にマンション管理組合を対象に実施した調査によると、回答した639組合のうち、連絡がつかない所有者らが存在するのは87組合(14%)に達した。87組合のうち築30年以上40年未満が24%、築40年以上のマンションが29%を占める。

所有者が分からなくなるのは「相続に伴って区分所有権の移転登記がされないのが一因」(旭化成不動産レジデンスの大木祐悟主任研究員)だ。

高齢者が死亡し管理費の滞納

「居住者の高齢化が進んでいるのが心配だ」。東京都内の築50年強のマンションの管理組合の理事はこう打ち明ける。所有者が死亡し管理費の滞納が続いた部屋があった。弁護士に依頼して相続人を見付け回収したが、多大な労力やコストがかかった。理事は「同じ問題が続けば対応できない」と危惧する。

将来は市場価値の下がったマンションの多くが相続放棄

さらに相続そのものがされないケースも広がっている。埼玉県の別のマンションでは管理組合が突き止めた区分所有者(死亡)の子が相続を放棄した。管理組合はさらに手間をかけて、物件の競売手続きを迫られた。

老朽化で資産価値が下がり、管理費も滞納しているマンションは相続する魅力に乏しい。富士通総研の米山秀隆主席研究員は「将来は市場価値の下がったマンションの多くが相続放棄されてしまうだろう」と予測する。

マンション管理にこんな影響が出る

民法は共有物の変更や処分には共有者全員の同意が必要と規定

  • 建物を解休するだけの場合に必要な区分所有者全員の同意が困難に

区分所有法やマンション建て替え円滑化法は管理組合の運営方針の決定に必要な 議決数を規定

  • 大規模改修や建て替えなと特別決議を要する総会の成立などが困難に
  • 管理費や修繕績立金の確保に影響