「オーバーツーリズムの原因は新興国の人たち」を証明する統計

2000年には全世界の国際観光客到着数は約6.7億人、パンデミック直前の2019年には約15億人に

新興国の所得水準が向上し、数億人規模の中間層が海外旅行

新興国の経済成長と国際観光客数の相関

オーバーツーリズムの直接的な要因として「新興国の中間層の拡大」を指摘する統計やレポートは、世界観光機関(UNWTO)や世界経済フォーラム(WEF)から発表されています。

新興国の所得水準が向上し、かつては富裕層に限られていた海外旅行が、数億人規模の中間層にとって現実的な選択肢となったことが、統計上の大きな背景です。

1. 国際観光客数の推移と送出国の変化

UNWTOの統計によれば、2000年代以降の国際観光客数の増加は、先進国よりも新興経済国(Emerging Economies)の成長率が上回る傾向にあります。

特にアジア太平洋地域からの観光客送出数は、中国を中心とした経済成長に伴い急増しました。

2000年には全世界の国際観光客到着数は約6.7億人でしたが、パンデミック直前の2019年には約15億人に達しています。この増加分の多くを新興国、特に中国、インド、東南アジア諸国からの旅行者が占めています。

2. 中国を筆頭とした支出額の増大

オーバーツーリズムを議論する際、特定の国によるインパクトを測る指標として「海外旅行支出額」が用いられます。

2010年代を通じて、中国は世界最大の観光客送出国となりました。UNWTOのデータでは、中国の海外旅行支出額は2000年代初頭と比較して桁違いに増加しており、これが欧州や日本の主要観光都市への集中を招いた一因と分析されています。

3. 中間層の拡大と格安航空会社(LCC)の普及

新興国における中間層の拡大は、単なる人口増ではなく「可処分所得の向上」を意味します。

これに加えて、東南アジアやインドなどでのLCCの急速な普及が、近隣諸国や主要観光地へのアクセスを爆発的に容易にしました。

経済協力開発機構(OECD)やマスターカードの年次レポートなどは、アジアの中間層が2030年までに世界の中間層の50%以上を占めると予測しており、観光インフラの許容範囲を超えた流入(オーバーツーリズム)の構造的背景としてこれらを挙げています。

4. 統計の解釈における注意点

「原因は新興国の人たち」という言説を裏付ける統計は存在するものの、専門家は以下の多角的な要因も併せて指摘しています。

  1. デジタルプラットフォームの影響:SNSやAirbnbなどの普及により、特定のスポットに観光客が集中しやすくなったこと。
  2. クルーズ客船の大型化:一度に数千人の観光客が狭い港町に降り立つ構造。
  3. 先進国側の観光政策:経済振興のためにインバウンド誘致を過度に優先した結果、受け入れ側のキャパシティ管理が追いつかなかったこと。

したがって、新興国の需要増は「需要側」の主因ではありますが、オーバーツーリズム自体は「受け入れ側の管理不足」や「プラットフォームによる情報の偏り」との複合的な結果として捉えるのが一般的です。

 

 

ポルトガルもオーバーツーリズムが止まらない

観光公害と「生活の質の低下」が招いた政治的揺らぎ

ポルトガルのオーバーツーリズムは、2026年現在、限界点に達しています。単なる「混雑」の域を超え、都市のインフラや居住権を脅かす深刻な構造的問題へと発展しており、それが先の大統領選における極右勢力の躍進を下支えする一因となりました。

ポルトは「渡航自粛」推奨リストへ

特に北部の中心都市ポルトは、2026年の「行くべきではない(No-go)」デスティネーションに選ばれる事態となっています。これは、観光客の増加が地元住民の生活を圧迫し、都市としての持続可能性が失われつつあることへの警鐘です。

リスボンやポルトといった主要都市では、宿泊税(観光税)の引き上げや導入が相次いでいますが、流入を抑制する決定打にはなっていません。

住宅市場の「金融化」とサプライチェーンの歪み

オーバーツーリズムがポルトガル社会に与えている最も深刻な影響は、住宅価格の暴走です。

  1. 民泊(AL:Local Accommodation)の飽和 中心市街地の住宅が次々と短期滞在者向けの民泊へと転換されました。これにより、現地の労働者や学生が住める手頃な物件が消滅し、都市の空洞化が進んでいます。
  2. 住宅価格のデカップリング 現地の平均賃金と住宅価格・家賃が完全に乖離しています。これは、観光業に依存した「構造的な組み換え」が、国民の居住権を犠牲にして進められた結果といえます。
  3. サービス業の劣化 観光客向け店舗の急増により、地域住民に必要な食料品店や修理店などの生活インフラが、より収益性の高い観光サービスへと強制的に置き換えられています。

政治的対立の火種としての観光業

現政権は、観光業による外貨獲得と経済成長を優先してきた側面があります。しかし、その恩恵が一部の資本家に集中し、庶民には物価高と家賃高騰という副作用だけが押し寄せたことが、今回の選挙で「反システム」を掲げる極右シェーガへの支持につながりました。

シェーガは「ポルトガル人のためのポルトガル」を強調し、観光客や外国人投資家に有利な現状を批判することで、生活に困窮する層の支持を集めることに成功しています。

2026年以降の展望:分散化か、それとも総量規制か

政府は現在、沿岸部の過密を避けるため、内陸部への観光客の分散化(デコンジェスチョン)を推進しています。しかし、内陸部はインフラや医療体制が脆弱であり、観光客の流入が新たな歪みを生むリスクも指摘されています。

今後の焦点は、大統領となったセグーロ氏が、観光依存型の経済モデルをいかに「国民の生活優先」へと転換させられるかにかかっています。

 

 

ポルトガル大統領選決選投票、中道左派セグーロ候補が大差で勝利

セグーロ氏勝利の背景とポルトガル政治の構造的変化

今回のポルトガル大統領選決選投票で、中道左派のセグーロ氏が極右ベントゥーラ氏を大差で破った背景には、単なる政党間の支持率の差を超えた、ポルトガルの統治システムを守ろうとする構造的な力が働いています。

中立国としての二者択一を迫る「極右の台頭」への拒絶

ベントゥーラ氏率いる「シェーガ(Chega)」の躍進は、既存の政治システムに対する強力な揺さぶりでした。しかし、そのポピュリズム的な主張が強まるにつれ、中道右派の保守勢力は「極右による政権への影響」というリスクを深刻に捉えました。

今回のセグーロ氏への支持は、イデオロギーの合致というよりは、シェーガを包囲するための「戦略的防衛線」の構築といえます。保守勢力が左派候補を支持したことは、中立的な立場を維持したい有権者層に対し、極端なナショナリズムか、それとも既存の民主主義秩序かという二者択一を強いる形となりました。

半大統領制における「制度上のブレーキ」機能

ポルトガルは半大統領制を採用しており、大統領は象徴的な存在に留まらず、議会解散権や法案に対する拒否権という強力な実力行使の手段を持っています。

  1. 議会解散権の行使 大統領は政局が不安定になった際、議会を解散し総選挙を命じる権限を持っています。セグーロ氏が当選したことで、将来的にシェーガが第1党になったとしても、大統領がその政権運営を牽制し、必要に応じてリセットをかけるという抑止力が担保されました。
  2. 法案拒否権によるサプライチェーンや通商政策の維持 EU加盟国であるポルトガルにとって、極右が掲げる反移民や排他的な政策は、域内での自由な移動や経済的結びつきを阻害するリスクとなります。大統領が法案を拒否し、違憲審査を求めることで、急進的な政策転換によるサプライチェーンの混乱を未然に防ぐ構造が維持されることになります。

戦略的な「シェーガ包囲網」の今後

今回の結果により、ベントゥーラ氏は「右派のリーダーシップ」を主張していますが、実際には主要政党すべてを敵に回す形で孤立が深まりました。

専門家が指摘するように、シェーガが議会で勢力を伸ばしたとしても、大統領府が中道左派の手に渡ったことで、彼らが政権を握るためのハードルは極めて高くなりました。これは、既存の政治勢力が結集して「サプライチェーンや外交の安定」を優先し、極右を制度的に周辺化させることに成功した事例といえます。

 

 

インフレ率は低下、しかし「家賃・住宅価格の高騰」は未解決

経済的要因と「現状維持」の選択

ご指摘の通り、インフレによる生活コストの増大は、反既成政治を掲げるベントゥーラ氏(シェーガ)が支持を広げた最大の武器でした。しかし、今回の結果を詳細に見ると、単に現政権が「嫌われた」という一言では片付けられない、有権者の複雑な計算が浮かび上がります。

インフレ指標の改善と有権者の心理

実は、2026年に入りポルトガルのインフレ率は2%を切り、ユーロ圏平均よりも良好な数字を示していました。失業率も低水準で推移しており、マクロ経済で見れば「最悪期は脱した」という見方も可能でした。

それにもかかわらず、多くの有権者が極右への警戒感を強めたのは、以下の要因が複合的に作用したためです。

1.「不満の受け皿」としての限界

ベントゥーラ氏は、物価高や住宅難に対する国民の怒りを吸収し、第1回投票では23.5%という過去最高の得票を得ました。しかし、決選投票という「二者択一」の局面では、経済への不満よりも、極右政権誕生による「国際的な孤立」や「欧州連合(EU)との関係悪化」というリスクを回避する心理が勝ったといえます。

2.「消去法」によるセグーロ氏の勝利

中道左派のセグーロ氏への得票率66%という数字は、必ずしも現政権への積極的な信頼を意味しません。むしろ、右派の最大勢力や保守的な有権者が、「ベントゥーラ氏を阻止するために、最も無難な選択肢であるセグーロ氏に投票した」という側面が強いのが実情です。

3.構造的な住宅難という「裏」の課題

インフレ率が低下しても、観光業の過熱や外国資本の流入による「家賃・住宅価格の高騰」は解決していません。これは現政権の構造的な弱点であり、今回の勝利は「信任」というよりも「執行猶予」に近い性質を持っています。

今後の展望:総選挙に向けた火種

大統領選では「制度の守り手」としてセグーロ氏が選ばれましたが、国民の経済的窮乏感が解消されたわけではありません。

  • セグーロ大統領: 象徴的な存在として民主主義の枠組みを維持する。
  • シェーガ(ベントゥーラ氏): 「既成政治の談合」を批判し、次の総選挙で第1党を狙う攻勢を強める。

このように、大統領選の結果は「極右の勢い」を制度的に食い止めた形ですが、国民の生活不満を根本的に解決しなければ、次の総選挙ではさらに激しい「構造的な組み換え」が起こる可能性を残しています。

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