カマラ・ハリス氏登場の舞台裏

バイデン氏の影で目立たず4年間過ごし、2024年8月に颯爽と大統領候補として名前を上げた。かなり遣り手?それとも民主党幹部の筋書き通り?

2020年8月27日 産経新聞

日米近現代史研究家 渡辺惣樹

1944年は、フランクリン・ルーズベルト大統領(FDR)が4選を狙う選挙の年だった。当時は、副大統領候補も夏に開かれる党の全国大会の投票で決まった。この年の副大統領候補に誰を選ぶかは悩ましいものだった。「今年の副大統領候補選びではいつにまして、大統領として望まれる資質を持った人物を選出しなくて「はならない」とベネット・クラーク氏(上院議員)が語ったように誰もがFDRは4年の任期を全うできないと考えていた。

周囲の関係者はFDRが重篤の病を抱えていることを知っていた。11月の選挙で4選を果たしたものの、周囲が危ぶんだ通り、年が明けた45年4月1日に死亡し、副大統領のハリー・トルーマンが大統領に昇格した。

バイデン氏は4年持つか

民主党大統領候補となったジョー・バイデン前副大統領は現在7歳である。彼には認知症の疑いがある。6月に行われた調査対象約1000人)では、55%が、彼は認知症の初期症状を見せていると回答した。民主党支持者に限っても2%がそう答えている。8月9日にはラスムセン社の調査があり、バイデン氏が当選した場合4年の任期を全うできるかと問うた。88%が「できない」と回答し(民主党支持者では4%)バイデン大統領となれば、副大統領が任期中に昇格すると多くの国民は考えている。

8月1日、バイデン氏は副大統領候補にカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州)を指名し彼女は党大統領候補選に出馬したが早々に離脱した(昨年12月3日)。その選挙戦ではバイデン氏を「人種差別主義者」と激しく罵る演説を繰り返していただけに彼女の指名には何らか(何者か)の思惑があると疑われている。

ハリス氏の生い立ち

カマラ・ハリス氏は、1964年カリフォルニア州オークランドに生まれた。父(ドナルド)はジマイカ出身の経済学者、母(シャマラ)はタミール系インド人で乳がんの専門家、左翼活動家でもあった。両親には米国籍がなかったから、娘に国籍を取得させるために米国で生んだのではないかと疑われている(7年離婚)。父ドナルド氏は、78年スタンフォード大学の経済学教授となり、マルク経済学を教えた。反戦運動盛んな時期に、学生グループが、大学当局に左翼経済学も教えよと交渉した結果の採用だった。彼には、米国の黒人差別の歴史を糾弾する論文も多い。

母方の祖父は、インドの高級官僚だった。カマラは何度もインドを旅行し、ヒンズー教の影響を受けた。「カマラ」とはヒンズー教の聖花「蓮」を意味する。彼女はプロテスタントとされているが、サンフランシスコ地方検事に当選した際の就任式(2004年)では、聖書を使った宣誓を拒否する出来事もあった。

1990年に法曹資格をとったハリス氏の出世は、ウィリー・ブラウン氏(民主党黒人政治家、後のサンフランシスコ市長)との関係から始まった。ブラウン氏は典型的な利益誘導型政治家であった。彼は、州の非常勤専門委員ポスト2つをハリス氏に与え、あわせて20万を超える報酬を得させた(2002年)。18年ハリス氏が地方検事選に出馬した際には全面的に支援し当選させた。
彼女の司法判断が政治的に偏向していたことはよく知られている。例えば、この頃、同州のカトリック教会は複数の神父による性犯罪事件の露見で窮地に立ってい(04年)。教会組織は彼女に多額の献金をし、一人の起訴者も出させなかった。全米で同じ問題が起こっていたが、関係者が起訴を免れたのは同州だけだった。10年には州司法長官選挙に出馬し当選した。

オバマ前大統領の思惑も

18年4月4日、オバマ大統領(当時)は、カリフォルニア州のあるパーティーでハリス氏を「全米で最も美しい(州)司法長官「だ」と褒めちぎった。2人の関係は長い。彼女は、04年の上院選に挑んだ彼をイリノイ州まで足を運んで支援した。

オバマ氏もサンフランシスコに飛び、彼女の政治資金集めに協力した。彼もシカゴの利益誘導型政治の中で出世した政治家だっただけに気が合ったのだろう。16年の上院議員選挙ではハリス氏は、オバマ氏の後押しで当選した。彼はハリス氏が副大統領候補に指名されたことを喜んだ。「彼女は長年の友人だ。(中略)今日(11日)は素晴らしい日になった」とツイートした。

米司法省のオバマゲート(オバマ政権によるトランプ氏周辺幹部に対するFBIを利用した違法盗聴事件)捜査は、ようやく成果を見せ始めた。8月15日には、FBI元法律顧問の一人が罪を認めた。捜査はゆっくりと本丸(オバマ、バイデン両氏ら元政権幹部)に向かっている。「女性版オバ「マ」になると意気込むカマラ「大統領」候補への彼の期待は捜査の中止にあるともいわれる。大統領選の舞台裏からも目が離せない。(わたなべそうき)