スリランカが経済破綻した理由のひとつがオーガニック
スリランカの経済破綻の主な要因の一つは、2021年にゴタバヤ・ラージャパクサ大統領が推進した「100%有機農業国家」政策です。この政策により化学肥料と農薬の全面輸入禁止が実施され、農業生産が急減しました。
- 政策の影響
米の収穫量が最初の6カ月で20%減少し、価格が50%急騰、茶やゴムなどの輸出作物も大幅減で外貨収入が激減しました。有機農業への急激な移行は技術的準備不足とコスト増大を招き、食料危機を悪化させました。 - 他の要因との関連
外貨枯渇、コロナ禍の観光業打撃、巨額対外債務も重なりましたが、有機政策が貿易赤字を拡大させ破綻を加速させた点が指摘されます。2022年2月には政策を部分撤回しましたが、時すでに遅れインフレ率54%に達しました。
窒素・リン酸・カリが作られるプロセス
窒素リン酸カリ(NPK肥料)は、窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の三要素を混合して製造される複合肥料です。これらはそれぞれ独立した原料から作られ、最終的に造粒工程で一体化されます。
- 窒素の製造プロセス
主にアンモニア(NH3)を基に合成されます。ハーバー・ボッシュ法で窒素と水素を高圧高温下で反応させ、尿素や硫酸アンモニウムなどの肥料原料に変換します。 - リンの製造プロセス
リン鉱石(リン酸カルシウム)を主原料とし、湿式法が主流です。硫酸で処理してリン酸(H3PO4)を抽出し、過リン酸石灰や重過リン酸石灰などの肥料形態にします。電気炉法では黄リン生成後、酸化してリン酸を得ます。 - カリの製造プロセス
主に塩化カリ(KCl)を天然鉱床から精製します。日本では輸入に依存し、硫酸カリなどに加工されます。 - 混合・造粒工程
各成分を所定比率で混合し、水分や結合剤を加えて造粒機で粒状化、乾燥・冷却後、袋詰めされます。このプロセスで緩効性や即効性を調整します。
窒素の原産国
窒素は空気中に約78%存在する元素で、特定の「原産国」は存在しません。
- 天然資源としての由来
窒素化合物では、硝石(KNO3)やチリ硝石(NaNO3)が歴史的に重要で、主にチリやインドなどで採掘されていました。 これらは19世紀まで窒素肥料の主源でしたが、現在は空気から人工的に固定されます。 - 現代の生産国
工業的にはアンモニア合成により生産され、主な国は中国、ロシア、米国、インドで、世界生産の半分以上を占めます。 日本では尿素などの窒素肥料をマレーシアや中国から輸入しています。
リン酸の原産国
リン酸は主にリン鉱石から生産される化合物で、特定の単一原産国はありません。
- 主要生産国
世界のリン鉱石生産では、中国が最大で、世界シェアの約40-50%を占め、肥料や工業用リン酸の基盤となっています。 次いでモロッコ、米国、ブラジルが上位を占め、これら4カ国で世界生産の80%以上を生産します。 - 日本への影響
日本はリン鉱石をほぼ100%輸入に依存し、主に中国、オーストラリア、モロッコから調達しています。 2025年現在も肥料需要で中国依存が強く、地政学的リスクが指摘されます。
カリウムの原産国
カリウムは主に塩化カリウム(芒硝)として肥料に用いられ、特定の単一原産国はありません。
- 主要生産国
世界最大の生産国はカナダで、北米の主要供給源として年間数百万トンを生産し、特にNutrien社が主力です。 次いでロシア、ベラルーシ、イスラエル、中国が上位を占め、これらで世界生産の大部分を担います。 - 日本への供給状況
日本はカリウム肥料をほぼ全量輸入に依存し、主にカナダ、ロシア、ベラルーシから調達しています。 2025年現在、地政学的緊張でロシア・ベラルーシ経由の供給リスクが高まっており、多角化が課題です。
肥料や農薬を使わない自然農法が世界的に注目されているが、増加する人口を養えない
自然農法は肥料や農薬を使わず土壌の自然力を活かすため、世界的に環境負荷低減の観点で注目されています。しかし、収量の不安定さが課題で、急増する世界人口を養うには限界があると指摘されます。
- 自然農法の利点
不耕起・無肥料・無農薬の原則で生物多様性を保ち、土壌炭素を蓄積して温暖化対策に寄与します。福岡正信氏の手法のように、砂漠緑化など持続可能性が高い点が評価されます。 - 人口増加への課題
収量が慣行栽培の半分以下になる場合が多く、害虫被害や天候依存で安定供給が難しいです。世界人口90億超の食料需要に対し、有機・自然農法全面移行でも生産量不足の懸念があります。 - 普及の可能性
小規模・地域適応型で補助的に活用可能ですが、大規模化には技術革新が必要です。リジェネラティブ農業との融合で収量向上の試みが進んでいます。
オーガニックは有機農法。有機肥料や天然由来の農薬を認める
オーガニック農業は自然農法の一種ではなく、別物です。自然農法は肥料・農薬を一切使わず土壌の自然力を重視するのに対し、オーガニック(有機農法)は有機肥料や天然由来の農薬を認めています。
- 主な違い
自然農法は不耕起・無施肥・無農薬を原則とし、人の介入を最小限に抑えます。一方、オーガニックは有機JAS認証があり、化学合成肥料・農薬を禁じつつ有機資材の使用が可能です。 - 共通点と実践
両者とも化学物質を避け環境負荷を低減しますが、自然農法は収量が少なく小規模向きで、オーガニックは認証制度により市場流通しやすいです。
オーガニック農業は収量低下の課題がある
- オーガニック農業は富裕層向けの高価格商品として位置づけられ、環境意識の高いイメージを売りにする側面があります。収量低下の課題はあるものの、全体農地の1%未満を占めるに過ぎず、食料生産全体への影響は限定的です。
富裕層イメージの背景
- プレミアム価格設定で「意識高い系」の消費を促進し、市場規模は拡大中ですが、低所得層のアクセスは低いのが実情です。日本では有機農地の割合が0.6%程度で、欧米より普及が遅れています。
オーガニック、自然農法は時間と手間がかかる
- オーガニック農業と自然農法は、慣行栽培に比べて雑草管理や害虫駆除を手作業中心に行うため、時間と手間が大幅に増えます。特に自然農法は不耕起・無肥料のため、土壌回復に数年かかり、初期投資の労力が大きいです。
- 手間の具体例
オーガニックでは有機肥料の施用や天然農薬散布が必要で、人件費が慣行の1.5倍以上になる場合があります。自然農法はこれらを省く分、雑草抜きや観察監視の頻度が高く、1ヘクタールあたり年間管理時間が倍増します。 - コストとの関係
手間増大が価格高騰を招き、小規模農家向きですが、大規模化には機械化の限界があり普及の障壁となっています。長期的に土壌改善で安定化する利点もあります。
オーガニックや自然農法が世界的に普及した場合、食糧難の可能性がある
- オーガニックや自然農法が世界的に全面普及した場合、収量が慣行栽培の50-80%に低下する可能性が高く、食糧難のリスクが生じます。特に発展途上国での急激な移行は、人口増加に対応しにくく、食料価格高騰を招く懸念があります。
- 収量低下の理由
化学肥料・農薬なしでは栄養供給と病害虫防除が不十分で、米や小麦の生産量が大幅減となります。日本では有機米の収量が慣行の81%程度ですが、大規模適用で安定しない点が問題です。 - 緩和策の可能性
技術革新や精密農業の併用で収量向上の道筋はあり、食料安全保障観点から肥料輸入依存脱却の利点も指摘されます。ただし、急激普及より段階的拡大が現実的です。