公正世界仮説 「世界は公正であるはず」という信念を維持するために、被害者に原因を求めてしまう心理

公正世界仮説または公正世界誤謬とは

人間の行いに対して公正な結果が返ってくるものである、と考える認知バイアス、もしくは思い込みである。

公正世界仮説とは

**公正世界仮説(Just-World Hypothesis)**とは、「人間の行いには必ず公正な結果が返ってくる」と考える認知バイアス、または思い込みを指します。この仮説を信じる人は、「善行は報われ、悪行は罰せられる」「努力すれば成功する」「正義は勝つ」といった世界観を持ちやすい傾向があります。

この仮説は1960年代初頭、社会心理学者メルビン・J・ラーナーによって提唱され、以降、さまざまな文化や状況下で研究が進められてきました。

主な特徴

  • 世界は公正であるべきだし、実際に公正だと信じる傾向
  • 人の行為や状態が、それにふさわしい結果をもたらすと考える
  • 「因果応報」「自業自得」などの考え方と親和性が高い
  • 未来を自分の努力や行動でコントロールできるという信念につながる

公正世界仮説の心理的影響

ポジティブな側面

  • 努力や善行へのモチベーションを高める
  • 長期的な目標に取り組みやすくなる
  • 社会秩序や治安の維持に寄与する
  • 幸福感やメンタルヘルスの向上に関連することがある

ネガティブな側面

  • **被害者非難(ヴィクティム・ブレイミング)**につながりやすい
    例:「被害者にも落ち度があったのでは」「いじめられる側にも原因がある」など
  • 社会的弱者や不運な人への差別や偏見を助長する
  • 不公平や理不尽な出来事を受け入れにくくなる
  • 現実の複雑さや偶然性を軽視しやすい

代表的な実験

ラーナーの有名な実験では、第三者(観察者)が他者(被験者役)が苦しむ様子を見せられると、「その人が苦しむのは何か悪いことをしたからだ」と考え、被害者をさげすむ傾向が強まることが示されました。これは「世界は公正であるはず」という信念を維持するために、被害者に原因を求めてしまう心理です。

社会的な例

  • 犯罪被害者や災害被災者への「自業自得」的な非難
  • 病気や失敗をした人への「普段の行いが悪いから」「努力が足りないから」という評価
  • 新型コロナウイルス感染者や戦争被害者への差別や中傷

まとめ

公正世界仮説は、人が「世界は公正である」と信じたがる心理的傾向であり、希望や努力を支える一方で、被害者非難や社会的偏見の根拠にもなりうる、両義的な性質を持っています。現実の世界は必ずしも公正ではないため、この仮説にとらわれすぎると、弱者や不運な人々への理解や共感を欠く危険もあるため、バランスの取れた認識が重要です。