現代社会はエリート過剰の生産 限られたポストや報酬をめぐる競争が激化

社会不安、格差拡大、体制批判、民主主義の衰退などの要因

エリート過剰生産とは

  • Elite overproductionは、社会がその権力構造に吸収できる以上に多くの潜在的エリート層を生み出している状態を指します。この概念はピーター・ターチンによって提唱されました。

仕組みと社会への影響

  • 社会ピラミッドの上部、つまりエリートやその志望者が過剰に増えることで、限られたポストや報酬をめぐる競争が激化します。
  • 権力や地位を得られなかった高学歴層は、現体制に対する不満や批判勢力となり、社会不安や分断の原因となるとされています。
  • 歴史的にも、王朝末期の中国やフランス革命前夜、現代アメリカなどで、エリート過剰生産が社会的混乱や体制変動の一因となったと分析されています。

具体例と現代的状況

  • アメリカやイギリスでは、大学卒業者の増加に対し、彼らに見合う職や社会的地位が十分に用意されていない現象が顕著です。これにより「挫折した高学歴者」が増え、体制批判や社会運動の担い手となる傾向が強まっています。
  • 経済的には、富の集中や労働市場の飽和が、エリート志望層の不満や格差拡大を加速させています。

理論モデルと限界

  • ターチンのモデルは、エリート過剰生産が社会不安や危機をもたらす確率を示すものですが、具体的な発生時期や引き金となる出来事までは予測できません。
  • この理論は「クリオダイナミクス(歴史動力学)」という数理モデルに基づき、人口動態や社会構造の変化が政治的不安定にどう影響するかを分析しています。

要点まとめ

  • エリート過剰生産は、高学歴層の増加と社会的地位の供給不足から生じる。
  • これが社会不安、格差拡大、体制批判、民主主義の衰退などを引き起こす要因となる。
  • 歴史的にも現代社会でも繰り返し観察される現象である。

この現象は、特に日本やアメリカのように高学歴者が多い社会で顕著な問題となっており、今後の社会構造や政治動向を考える上で重要な視点です。

エリート過剰生産が国家を滅ぼす
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概要

  • ピーター・ターチン著『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』は、歴史動力学(クリオダイナミクス)の視点から、国家の盛衰に「エリートの過剰生産」がどのように影響するかを分析した書籍です。

主な論点と内容

  • 学歴や資格を持つ「エリート」志望者が増加する一方、社会で実際にエリートとして認められるポストや報酬は限られているため、多くの高学歴者が期待に反して満たされない状況に陥る。
  • こうした「エリート」から脱落した層(カウンターエリート)が、現体制に対する不満や批判勢力となり、社会の不安定化や国家の崩壊につながるリスクが高まる。
  • ターチンは、アメリカや中国、ロシア、ヨーロッパなど様々な時代・地域の歴史を数理モデルで分析し、エリート過剰生産が革命や内戦、国家崩壊の引き金となった事例を示しています。

クリオダイナミクス(歴史動力学)の視点

  • ターチンは「クリオダイナミクス」という新しい学問分野の創始者であり、歴史のパターンや法則をデータと数理モデルで導き出します。
  • 本書では、エリート層の内部格差や競争激化、エリートから脱落した人々が下層の不満層と連携することで、社会的な動乱や体制転覆が起こるメカニズムを解説しています。

現代社会への示唆

  • 現代のアメリカでは、経済成長とともに高学歴者が増加し、エリート志望者が溢れる一方で、実際にエリートになれる人はごく一部。そのため、挫折した高学歴者が現体制への批判勢力となり、社会の分断や不安定化を招いていると指摘されています。
  • ターチンはこうした現象が今後の民主主義や国家の安定に重大な影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らしています。

目次(抜粋)

権力のクリオダイナミクス(エリート、エリート過剰生産、危機への道)
不安定性の要因(農民の反乱、革命部隊、支配階級、金権国家の分析)
危機とその余波(国家の崩壊、近未来の歴史、富のポンプと民主主義の未来)
付録:新しい歴史の科学、歴史のマクロスコープ、構造力学的アプローチ

日本・アメリカへの関心

  • あなたが関心を持つ「日本とアメリカにおける高学歴エリートの過剰生産」というテーマについても、本書はアメリカを中心に論じつつ、他国の事例も取り上げており、現代日本の状況を考える上でも示唆に富んでいます。

本書は、歴史のパターンを科学的に読み解き、現代社会の危機を予見する一冊として、現代のエリート人口動態や社会不安に関心のある方に特におすすめです。