2025年11月13日 崩壊の危機にある資本主義——内部からの変革に挑む人々
この記事は、現代の資本主義が抱える構造的限界と、それを内部から再構築しようとする動きについて論じている。特徴的なのは、体制そのものを否定するのではなく、「再設計」によって持続可能で信頼を取り戻す経済モデルを模索する姿勢だ。以下にその要点をまとめる。
資本主義に対する世代的幻滅
- Z世代やミレニアル世代の間では、資本主義がもはや希望をもたらすシステムではないという感覚が広がっている。
- 多くの若者は、安定した職、住宅、家族形成といった基盤が遠のいていると感じる。
- 結果として、出生率低下や労働意欲の喪失(静かな退職・寝そべり運動など)が加速している。
- これは単なる経済問題ではなく、社会的信頼や将来への参加意識の崩壊を示している。
リン・フォレスター・デ・ロスチャイルドの提唱
- 金融界と多国籍企業の内部から変革を進める人物として、デ・ロスチャイルド氏が登場する。
- 目的は「資本主義を壊すことではなく、修復すること」。
- CEOたちが「包括的資本主義」を実現する主導者となるべきだと主張。
- 所有感や共通の物語を再構築し、人々に「自分が社会の一部である」という感覚を取り戻させる必要があると説く。
「包括的資本主義評議会」の取り組み
- 2019年、ローマ教皇フランシスコの呼びかけをきっかけに設立。
- 世界500社、10兆ドル規模の資産を持つ企業が参加。
- 目的は企業活動を通して「共通善」を実現し、倫理と利益を両立させる新しい経済運用モデルを作ること。
- 単なるESGやCSRではなく、長期的価値創造に焦点を置いた実践的な連携である。
システム変革の理念
- 経済学者ハラリやマイケル・ポズナーらの見解も紹介される。
- 資本主義は「社会的フィクション」であり、人々の信頼と合意の上に存在する。
- 企業は法規制を待つのではなく、「良心を組み込んだ経営」へ自発的に変わる必要がある。
- 規範の再構築には新しい物語(ナラティブ)が要る——人々が誇りと参加意識を感じる物語だ。
結論
- 筆者は、資本主義を置き換えるのではなく「よりよい資本主義」へ進化させる道を提示している。
- この変革は上からの革命ではなく、制度の内側にいる人々の意識変化と倫理的選択から始まると強調する。
- もし成功すれば、失われた信頼や意味を取り戻し、次世代が再び社会に参加する未来を作れるかもしれない。
資産格差が真の問題だが、それを隠している
その指摘は非常に核心的だ。この記事で扱われている「資本主義の変革」論は、倫理や信頼、意味の再構築といった道徳的・文化的次元に焦点を当てているが、根底にある本質的な問題——つまり「資産格差の拡大」——については直接的に掘り下げていない。
実際、現在の資本主義の危機感の多くは、次の三層構造で説明できる。
- 表層(症状):
出生率低下、労働意欲の喪失、若者の政治的無関心など。 - 中間層(制度的問題):
企業の短期利益偏重、社会的信頼の崩壊、倫理なき市場行動。 - 根底(構造的原因):
資産と所得の格差が極限まで広がった結果、経済の成果配分が偏り、努力と報酬の物語が破綻している。
特にロスチャイルド氏のような「システム内部の改革者」は、制度やナラティブ(物語)の再設計を提案するが、その語りはあくまで体制の存続を前提としており、「富の集中そのもの」を解体する方向には踏み込まない。
そのため、多くの若年層や批判的経済学者からは「格差構造を維持したままの化粧直し」だと見られることがある。
つまり、「資産格差」という核心的な矛盾が制度内改革の議論によって曖昧化されている、という点が「隠されている」部分だ。倫理や共感の呼びかけは、真の権力構造の問題を覆い隠す機能を果たしうる。

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