Olga Moskalyova(オルガ・モスカヨワ)Ольга Москалева

亡くなったオルガ・モスカヨワさん(当時19歳)

2011年8月11日、ロシアのカムチャッカ半島の田舎町で悲劇は起こった。その日の午前、突然鳴った電話のベルに出た母親は相手がひどく慌てた娘からであることに気づいて微笑んだ。

ニコニコ生放送実況 Part7175

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「助けてママ!熊が私を食べようとしてるの!」

確かにシベリア地方では毎年熊に襲われる人が後を絶たない。しかし携帯電話で連絡してくるという話は母も聞いたことがなかった。

  • 「変な冗談を言わないで」
  • 「ママ!嘘じゃないわ!」

そのとき唸るような肉食獣の声と荒い息遣いが電話口を通して聞こえてくるとさすがに母親は惑乱した。

「まさか!本当なの!?」

慌てて母は父であるイゴール・チガネンコフ氏に連絡を取ろうとするが氏が電話に出ることはなかった。

そのときすでにイゴール氏は死亡していたからである。娘オルガを食べようとしているまさにその熊の手によって。

早朝から娘と釣りに出かけていた父は子連れのヒグマに襲われ、殴られた衝撃で脛骨を骨折して即死していたのである。父が殺される瞬間を目撃したオルガは悲鳴をあげて60m近く逃走したが、そこでヒグマに追いつかれ押し倒されたのだ。

※記事を掲載したイギリスデイリーメールではツキノワグマとなっているが現地で熊を仕留めたハンターの証言ではヒグマになっている。父親に連絡がつかないため母は警察に連絡した。そして警察への連絡が終わった直後、娘から2度目の連絡が入る。

クマ撃ちの女
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「私を食べてる!痛い…痛い…」

  • ママ、後ろに熊がいる。小熊を3頭連れてきて……私を食べてる!痛い……痛い………」

生きながら内臓や胸の肉を食べられる苦痛は想像に余りある。人間は割と簡単に死ぬ動物であり、父イゴール氏のように即死してしまう場合も少なくないが、個人によっては逆になかなか死なない動物でもあるのである。戦場では上半身と下半身が真っ二つに引き裂かれても数時間以上生存していたケースが数多く報告されている。不幸にもオルガさんはなかなか死なない方の人間であったようだ。
最後の電話は最初の電話から約1時間後にかかってきた。なんと1時間である。1時間もの長い時間をオルガさんは絶望と苦痛にさらされ一人で耐えなければならなかった。すでに死を覚悟していたのだろう。

「もう痛みも感じない…今までごめんなさい、愛してるわ…」

  • 「ママ、もう痛みも感じない………今までごめんなさい、愛してるわ…………」

号泣する母に最後の礼を伝えてオルガさんは息を引き取った。警察の捜索隊が到着したのはその30分ほど後のことであった。変わり果てた姿で息を引き取ったオルガさんの死体の向こうで、ヒグマたちはイゴール氏の肉をまだ貪り続けていた。

Googleマップ ペトロパブロフスク カムチャツカ地方

モスクワの名は、moska(熊)+ava(母、女)

  • モスクワの名は、モスクワ川に由来。
  • モスクワ川の語源については、たしかにウイン・ウゴール起源説が存在。
  • 「水」起源説もあるし、フィン・ウゴール系のメリ(?)族の言葉で、moska(熊)+ava(母、女)が雌熊を意味したという説。
  • フィン語のmusta(黒い、汚い)+уа(水)が融合したという説。
  • コミ語、ウドムルト語のmaska(牝牛)+va(水)の融合説。
  • 他に、チェコ語、スロヴァキア語のmoskva(湿ったパン)関連説。
  • ドイツ語のMost(果実の絞り汁)関連説。
  • 果ては、スキタイの言葉からの由来説。
  • 結局、定説はない。

ロシアにタタール自治区発見

president 2023年3月18日

「お母さん、ヒグマが私を食べている!」と電話で実況…人を襲わない熊が19歳女性をむさぼり食った恐ろしい理由

なぜ熊は人間を襲うのか。ノンフィクション作家の中山茂大さんは「積極的に人間を襲うことはないとされているが、偶発的に人肉の味を覚えると厄介だ。ロシア領のカムチャッカ半島では、19歳の女性が熊に襲われながらその模様を電話で母親に伝えた『ペトロパブロフスク熊事件』が有名だ」という――。

■「ペトロパブロフスク熊事件」とは

10代の女性がヒグマに襲われ、自分の身体を喰われながら、携帯電話で母親に助けを求める……。

そんなショッキングな事件が2011年にロシアで発生した。

「ペトロパブロフスク熊事件」として、ネット上では有名な事件だが、ロシア内での最初の報道などを参照し、改めて事件の経緯をたどってみよう。

ロシア領カムチャッカ半島は北海道から1000キロ以上も東にある。ペトロパブロフスクはその第1の都市だ。

イゴール・ツィガネンコフ(45)、彼の妻のタチアナ、娘のオルガ(19)、祖母の4人家族は、ペトロパブロフスク近郊のコリャーキ村に住んでいた。

その年の夏、彼らは多くのカムチャッカの住民と同じように、ダーチャ(菜園付きの別荘)で過ごしていた。

その土曜日、イゴールと娘のオルガは、パラトゥンカ川に遊びに行くことにした。

目撃者によると、その地域の草丈は2メートルを超えていた。茂みに何かが潜んでいても見つけることは難しかった。

車を川のほとりに停め、ふたりは森の小道を歩いていると、突然、ヒグマが茂みから飛び出し、イゴールの頭部を打ち砕いた。イゴールは悲鳴もあげずに即死した。

■「お母さん、痛い!  助けて!」

娘のオルガは60~70メートルほど逃げたが、そこでヒグマに追いつかれた。ヒグマはオルガの足をつかみ、彼女は悲鳴を上げて助けを求めた。

しかし周りには誰もいない。そこでオルガは携帯電話で母親に電話し、こう伝えた。

「お母さん、ヒグマが私を食べている!  お母さん、痛い!  助けて!」

ヒグマに襲われたと叫ぶ娘の声を聞いて、母親は最初、冗談を言っていると思った。しかし、電話から娘の声のほかに、獣のうなり声や、むさぼり食う音まで聞こえてきて、ようやく冗談ではないことに気づき、恐怖と愛する我が子を助けることができない絶望感に襲われた。

■電話は1時間も続いた

オルガと母親の電話はそれから1時間も続いたという。人は極限状態になると自身の母親に助けを求めるものなのだろう。オルガは母親に、ヒグマが今彼女を食べていると叫び続けた。

オルガによると、3匹の仔熊も「食事」に加わっていたという。

約1時間後、オルガはとうとう「もはや痛みを感じなくなった」と話した。

「お母さん、色々とごめんね。許してね。大好き」

最後にその言葉を残し、オルガからの電話は途絶えた。

■ヒグマはイゴールの帽子をくわえていた

イゴールの兄アンドレイが現場に到着したのは午後1時頃だった。

その時、現場にはまだイゴールを喰ったヒグマがいた。アンドレイはそのヒグマを目撃したが、丸腰の彼には何もできなかったという。

アンドレイはすぐさまイゴールの妻タチアナに電話し、夫が死んだことを伝えた。

それから程なくして現場に警察と救急車が到着した。

また、事件はロシアの野生生物保護庁にも報告され、ハンターが急行。彼らは死体の上にいるメスのヒグマを見つけた。そのヒグマの歯には、殺害されたイゴールの帽子が挟まっていたという。

ハンターはすぐヒグマに向かって銃を発射した。ヒグマは傷を負ったが逃げ、ハンターたちは木の小屋を作り、朝まで現場に残ることにした。

■胃の中からイゴールとオルガの肉が…

翌日の8月14日(日)、ハンターたちの手によって母熊1頭、仔熊3頭が射殺された。仔熊は2歳くらいで、イヌよりも体が大きかった。

射殺されたヒグマ4頭は、エリゾボ地区警察署で解剖された。その胃の中からは犠牲になったイゴールとオルガの肉が出てきたという。

8月17日、イゴールとオルガはコリャーキ村で埋葬された。オルガはこの年、教育大学を卒業し、心理学者としてモスクワ人文科学現代大学に入学していた(ジャーナリストのIgor Kravchukの動画より)。

■ペトロパブロフスク近郊は「危険地域」

以上が大まかな事件の経過だ。

この事件が起こったペトロパブロフスク近郊は、人間がヒグマに喰われる事件が数年おきに発生する「危険地域」である。

2008年5月には、ペトロパブロフスク市内の墓地が何者かに荒らされる事件が起きた。

墓地に訪れた住民が、「最近埋葬された墓が暴かれ、遺骨が散らばっているのを発見した」と訴えたのだが、どうやらこれも熊の仕業だったらしい。

事件を起こした加害熊は無事逃げおおせたと思われる(参考:https://vostokmedia.com/news/2008-05-23/medved-lyudoed-razoryaet-kladbische-v-ust-hayryuzove-koryakiya-613986)。

2014年6月には、やはりペトロパブロフスク近郊のレスノイ村で、地元住民がヒグマに引き裂かれ、他1名が負傷した。

さらにその3日前にも、近郊のソスノフカ村で女性がヒグマに襲われ、身体のほとんどが喰い尽くされた。

加害熊は同村付近の森で射殺された。オスの成獣で痩せており、胃の内容物から女性を襲って喰ったことが判明した。

林業野生生物保護庁の副局長であるウラジミール・ゴルディエンコは、「人間の肉を味わったヒグマは、ほとんどの場合、意図的に人間を狩り始めるので、射殺することが非常に重要だ」と強調した(参考:https://www.interfax-russia.ru/far-east/news/medved-lyudoed-ubit-vozle-kamchatskogo-poselka)。

また、2016年1月に、ペトロパブロフスク近郊のエリゾヴォ近くの高速道路から28キロメートルの地点で、遺体の一部が食害された男性の遺体が発見された。正確な被害日時は不明で、熊狩りが行われていると報じられた(Vostok.Todayより)。

■人喰い熊の出現確率は0.1%

一般的にヒグマは寒い地域にいくほど体が大きいとされている。カムチャッカ半島のヒグマは体長3メートル、体重は800キロに達するという。体が大きいから危険とは一概にはいえないが、巨大であるほど襲われた際の対処が難しいのはもちろんである。

また「カムチャッカ半島には約2万頭ものヒグマが生息している。そのうち毎年約20頭が攻撃的であるとして射殺されている」(前掲Igor Kravchuk)という。

したがって、カムチャッカ半島における人喰い熊の出現確率は1000頭に1頭、0.1%と推定される。

■人肉の味を覚え、「人喰い熊」となる

前出のレスノイ村、ソスノフカ村、エリゾヴォ村は、互いに10~20キロ程度の隣村同士であり、テルマリニ村とペトロパブロフスク市を含めても、5事件現場は半径20キロ圏内に、ほぼすっぽりと入る位置関係だ。

ヒグマが、一度覚えた味をしつこく求める傾向が強いことは、専門家も指摘しているところである。

偶発的に人肉を味わうまでは、故意に人間を襲って喰うことはないはずだが、逆に一度、人肉の味を覚えたヒグマは、「人喰い熊」となって、連鎖的に食害事件を起こす可能性がある。

最初に触れた「ペトロパブロフスク熊事件」でイゴールとオルガを襲ったのは母熊だったが、3匹の仔熊も食害に参加している。そのため、人肉の味を覚えた可能性が高い。

この仔熊たちを放っておけば、いずれ恐るべきモンスターに成長していたかもしれない。

仔熊を含め、4頭すべて射殺されたのは幸いと言えよう。

一方、ペトロパブロフスク近郊で食害事件が多発しているのは、不幸にも、このような「人喰いの記憶」が、親から子へ受け継がれた結果なのではないか。

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