水素は漏れる。温室効果ガスが発生する恐れ
水素がクリーンエネルギーの切り札として期待されている一方で、大規模な水素経済はむしろ気候変動対策に逆効果となる可能性が高いと警鐘を鳴らしています。最新の研究によると、水素の漏洩によって年間7億2600万〜15億トンのCO2換算温室効果ガスが発生する恐れがあり、これは世界のCO2排出量の大きな割合を占めます。
主なポイントは以下の通りです。
- 水素の漏洩は生産、輸送、貯蔵、利用の各段階で発生し、その影響は過小評価できません。特に電気分解によるグリーン水素は、平均4%(最大9.2%)の漏洩率と高く、従来の製造法よりも気候リスクが大きい場合もあります。
- 水素が大気中に漏れると、メタンの分解を妨げたり、オゾンや水蒸気を増やして温暖化効果を高める間接的な温室効果があります。水素1トンの漏洩は、短期的にはCO2の33トン分の温暖化効果に相当します。
- 2050年には、水素経済の拡大によって年間2200万〜4530万トンの水素が漏洩し、CO2換算で7億〜15億トンの追加排出につながると予測されています。
- 現在の水素検知技術では、気候に影響するレベルの微量漏洩を十分に検知できていません。
結論として、水素は本当に必要な用途に限定し、できるだけ短いサプライチェーンで即時利用するべきであり、広範なエネルギーキャリアとしての利用は気候目標達成の妨げになると指摘しています。
水素を中国共産党に掌握させるべからず
中国共産党による水素サプライチェーン掌握の現状
- 中国共産党(中共)は、次世代エネルギー分野である水素のサプライチェーンを掌握するため、国家戦略として大規模かつ組織的な投資・政策を進めています。2024年にはクリーンエネルギー分野だけで約6,800億ドルを投資し、その規模は米国とEUの合計に匹敵します。2020年時点で世界全体の10%未満だった中国の水素関連製造能力は、2025年には60%以上に急拡大していると報じられています。
中国の水素産業戦略と目標
- 中国政府は「水素エネルギー産業発展中長期計画(2021~2035年)」を策定し、水素を将来の国家エネルギー体系の重要な一部と位置づけています。この計画では、2025年までに再生可能エネルギー由来の水素生産量を年間10万~20万トンとする目標や、燃料電池車5万台、1,168カ所の水素ステーション設置など、具体的な数値目標が設定されています。また、産業の集積やインフラ構築を中央集権的に進め、無秩序な競争を避けつつ、全国規模で統一的な発展を図っています。
グローバルな覇権争いと米国・日本への示唆
- 中国の水素分野での急成長は、アメリカや日本、EUにとって大きな懸念材料です。水素はエネルギー貯蔵・輸送・多用途利用が可能な戦略資源であり、サプライチェーンの主導権を中国に握られることは、経済安全保障上のリスクとなります。米国ではクリーン水素製造に対する税額控除(内国歳入法45V条)などの政策を通じて、国内投資や雇用創出、輸出拡大を図ることが急務とされています。
今後の展望と課題
- 中国の水素産業は、政府主導の明確な戦略と巨額投資により、サプライチェーンの上流から下流までを急速に掌握しつつあります。このままでは、グローバルな水素経済の主導権が中国に集中し、他国が中国のサプライチェーンに依存するリスクが現実のものとなります。
「今こそ、その瞬間だ。躊躇すれば、単に後れを取るだけでなく、21世紀における最も重要なエネルギー市場のひとつから締め出され、エネルギーが『力』を意味する時代において、海外のサプライチェーンに依存せざるを得なくなる。」
結論
- 水素はエネルギー安全保障と産業競争力の要となる資源です。中国共産党によるサプライチェーンの掌握が進む中、日米欧は独自の技術開発・投資・政策強化によって、水素分野での自立性と国際競争力を維持・強化することが不可欠です。
水素自動車が普及しない理由
価格の高さ
- 水素自動車(燃料電池車)はガソリン車やハイブリッド車に比べて新車価格が高く、例えばトヨタのMIRAIは700万~800万円と、一般的なガソリン車やハイブリッド車よりもかなり高額です。
水素ステーションなどインフラの未整備
- 日本国内の水素ステーションは2024年時点で約154~160カ所しかなく、都市部に偏在しており、存在しない県もあります。設置コストもガソリンスタンドの約10倍と高額で、インフラ整備が進みにくい状況です。
燃料や車両のコストが高い
- 水素の製造、運搬、貯蔵、車両の高圧タンクや燃料電池の製造には高いコストがかかります。特に「グリーン水素」(再生可能エネルギー由来)の製造コストは依然として高価です。
エネルギー効率の低さ
- 水素を作るためには大量の電力が必要で、その電気を使い水素を製造・運搬し、さらに燃料電池で電気に戻すという複数の変換過程があり、全体のエネルギー効率が低いと指摘されています。
技術的・安全性の課題
- 高圧水素タンクの製造や安全性の確保には高度な技術が必要で、消費者の間には安全性への不安や誤解も残っています。
EV(電気自動車)との競争での遅れ
- 世界的にEVの販売台数が急増する中、水素自動車の販売は伸び悩んでいます。2023年にはEVが1,000万台以上売れたのに対し、燃料電池車はわずか約1万4,000台と、圧倒的な差がついています。
まとめ
- 水素自動車が普及しない理由は「車両や燃料の高コスト」「水素ステーションの不足」「エネルギー効率の低さ」「技術的・安全性の課題」など複合的です。加えて、EVの普及が急速に進んでいることも、水素自動車の普及を妨げる大きな要因となっています。