ミゾイキクコ「私は母の最晩年を介護した。父だったら介護しなかったと思う。母親は子育てや夫の介護など自分が体験しているから、介護する人の事が判る。介護し易い。心も通ずる。その点、父親はゼロ。おまけに自分は主でしかいられない。これでは夫とも衝突しかねない」

溝井喜久子

「ナスの煮物、持ってきたけど食べる?」
昨秋、フジテレビを退社したジャーナリスト、安倍宏行さん(58)は毎週日曜日の夜、母の美枝子さん(96)が暮らす東京都世田谷区の介護付き有料老人ホームを訪ねる。母の好物の梅干しや梅酒を持参し、夕食をともにする。
母は昨年1月まで、近くにある自宅のマンションの別室で一人で暮らしていた。その後、心不全を患ったのを機に家の中で転んでは骨折するようになり、要介護認定を受けた。ヘルパーが週3日訪れるほか、安倍さんも出勤前に食事を届けるなどし、様子を見守った。
母は直腸脱で、おむつ交換の際、誰かが手袋をはめて直腸を押し戻す必要があったが、医療行為でヘルパーに頼めない。妻にも仕事があり、母の独居は厳しいとの判断から、施設を探した。母が気に入った新築のホームは入居一時金1千万円、月額25万円で、母が支払うことになった。入所後、リハビリとバランスの良い食事のおかげで元気になった。
「介護が始まった当初はわからないことだらけ。僕は当時、比較的自由に動ける役職だった上、介護とは関係なく早期退職の準備中でした。母に資産があったので、『僕たちに遺さず、自分の介護費に充てて』と説得できた。たまたまスムーズでしたが、『男の介護』には水先案内人が必要だと感じます」
安倍さんのように、男性が「主な介護者」になるケースが増えている。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、2001年の23.6%に対し、13年は31.3%(同居の場合)。3人に1人弱が男性という計算になる。
にもかかわらず、職場では「親の介護で大変」といった訴えを耳にする機会は、少なく感じる。そこで編集部は、介護が必要な親を持つ50代以上の全国の男性500人にウェブアンケートを実施。その結果とあわせ、実際に渦中にある人たちを取材し、実態に迫ろうと試みた。
まずアンケートの回答者が介護している親は圧倒的に「母」が多く、父の2倍に上る。そして「別居」が6割強だった。
元参院事務局幹部のAさん(61)は昨年末に退職し、要支援で一人暮らしの母(88)がいる九州の実家に移り住んだ。3歳下の妻はフルタイム勤務で、65歳まで続けたいと言い、横浜の自宅に残った。
「現役時代は、実家近くにいるいとこが面倒をみてくれていたが、いつまでも頼れない。年齢的にも母はあと何年か。最後の数年は悔いが残らぬよう、親孝行したいと思ったんです」
得意の料理で食事を用意し、車で病院まで送り迎えするほか、掃除に洗濯、布団干し、草取り。田舎の生活は金がかからず、母と自分の年金で十分だ。以前は交通費は往復5万円以上かかったが、最近LCCが就航して半額以下に。
「息子の私がいると頼もしいみたい。ようやく親に恩返しができて満足です」
Aさんが介護を本格化させたのは冒頭の安倍さんと同様、退職という“人生のセカンドステージ”に入る節目だ。いずれも「元気なうちに親孝行を」という願いがかなった好例と言えるだろう。今年2月発売の『迫りくる「息子介護」の時代』の著者で、東京都健康長寿医療センター研究員の平山亮さんは、男性側の意識変化を挙げる。
「最近、血縁を重視してか、『自分の親は自分で面倒をみたい』と考える男性が増えています」